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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第147話 騎士の時代の終わり

【保守派騎士ラインハルト視点】


『アヴァロン帝国歴169年 12月20日 朝 快晴』


 雲一つない、冬の青空が広がっていた。これ以上ない、武勲を立てるに相応しい日だ。

 わたくし、ラインハルト・フォン・アードラーは、我が誇りである重装騎士団『鉄鷲騎士団』の仲間たちと共に、帝都近郊の平原に布陣していた。磨き上げられた鋼鉄の鎧が、朝日を浴びて眩い光を放つ。掲げられた紋章旗が、乾いた風にはためいていた。


(見ろ、あの貧相な者どもを)


 遥か前方、敵であるライル軍の兵士たちが、まるで土竜のように、地面にみすぼらしい穴を掘っている。その数、わずか数百。我ら鉄鷲騎士団三千の、蹄にかかれば、一瞬で蹂躙できる、ただの農民兵の集まりだ。


「ラインハルト、武運を祈る」

「おお! 卿もな! 今宵は、帝都の酒場で、勝利の美酒に酔おうぞ!」


 仲間と交わす、力強い言葉。我らの士気は、天を衝くほどに高かった。

 やがて、本陣から、開戦を告げる甲高い角笛の音が鳴り響いた。


「全軍、突撃ィ! 逆賊どもに、帝国の鉄槌を!」


 号令と共に、我らは一斉に馬腹を蹴った。

 ズシン、ズシン、と、三千の蹄が大地を揺るがす。それは、もはやただの突撃ではない。全てを砕き、全てを飲み込む、鋼鉄の津波。我らの前に、敵はない。

 だが。


「……?」


 敵兵たちは、我らの姿を認めると、慌てて武器を構えるでもなく、掘っていた穴の中へと、その姿を消してしまったのだ。


(臆したか、愚か者め!)


 わたくしが、嘲笑の笑みを浮かべた、その瞬間だった。

 世界から、音が消えた。

 いや、違う。耳をつんざくような、これまでに一度も聞いたことのない、鋭い炸裂音の連続が、わたくしの聴覚を麻痺させたのだ。


 バババババババッ!


 次の瞬間、わたくしのすぐ隣を走っていた、戦友の体から、どす黒い血飛沫が上がった。彼の、寸分の隙もなかったはずの胸当てに、小さな穴が開き、彼は、声もなく、馬から崩れ落ちていく。


「なっ……!?」


 矢ではない。魔法でもない。では、一体、何が。

 混乱するわたくしの目の前で、次々と、仲間たちが落馬していく。ある者は額を、ある者は喉を、見えざる何かによって、正確に撃ち抜かれて。

 あれほど誇らしかった我らの突撃は、敵に触れることすらできぬまま、一方的に、ただ、狩られていた。


「ひいっ!」「退け! 退却だ!」


 恐怖は、伝染する。誰からともなく上がった悲鳴が、我ら鉄鷲騎士団の誇りを、いとも容易く砕き去った。

 わたくしもまた、悪夢から逃れるように、必死で馬首を返し、命からがら、その場を離脱した。

 丘の上から、振り返って見た。

 そこには、無数の仲間と、愛馬たちの亡骸が転がる、地獄のような光景が広がっていた。そして、あの穴の中からは、茶色い軍服の兵士たちが、何事もなかったかのように、その黒い鉄の棒を手入れしている姿が見えた。


(我らの誇りは……。我らが、命を懸けて磨き上げた騎士道は……)


 その光景を前に、わたくしは、ただ、膝から崩れ落ちることしかできなかった。


(……この、土を掘る農民の前で、何の意味も、なかったというのか……)


 帝国の、そして、我ら騎士の時代の終わりを告げる、あまりに静かで、あまりに無慈悲な音が、まだ、耳の奥で鳴り響いていた。

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