第143話 怒りの総動員令【序盤 神の鉄槌 閉幕】
【ライル視点】
『アヴァロン帝国歴169年 11月28日 深夜 冷たい雨』
僕の、その一言が、帝国の運命を、そして僕自身の運命を、後戻りのできない血塗られた道へと突き進ませる号令となった。
だが、僕の心に、後悔も、迷いも、ひとかけらもなかった。あるのは、ただ、腹の底から燃え盛るような、氷のように冷たい怒りだけだった。
(友達を殺し、その子供まで手にかけようとした。そんな奴らと、同じテーブルにつくことなんて、もうできない。言葉は、もういらない。力で、分からせるしかないんだ)
僕は、その場に、ランベール侯爵とヴァレリアたち、僕の陣営の主だった者たちを全員、集めさせた。
僕の、普段とはあまりに違う、硬く、冷たい表情に、誰もが息をのみ、ただ、僕の次の言葉を待っていた。
「ユーディル」
「は」
「ハーグにいる全軍に、ただちに伝令を送れ。『総動員令を発する。帝都へ向け、即刻出撃準備に入れ』と」
僕の静かだが有無を言わせぬ命令に、ユーディルは、ただ一言「御意」とだけ答え、影の中へと消えていった。
僕は、次にヴァレリアへと視線を向ける。
「ヴァレリア。帝都にいる我らの兵をまとめ、この屋敷の警備を、鉄壁にしろ。そして、アウレリアン殿下とルキウス殿下を、一歩も外へ出すな。絶対に、だ」
「承知いたしました」
彼女もまた、僕の覚悟を悟ったのだろう。その翠色の瞳には、騎士としての、強い決意の光が宿っていた。
最後に、僕はビアンカに命じた。
「ビアンカ。戦になる。金と、兵糧と、弾薬の準備を。鉄道を使い、ハーグから帝都までの補給線を、何としても維持しろ」
「お任せください、陛下」
僕の立て続けの命令に、ランベール侯爵が、慌てて割って入ってきた。
「ライル殿、早まるな! ここで兵を動かせば、我らが逆賊の汚名を着せられてしまいますぞ! まだ、話し合いの余地が……!」
「話し合い?」
僕は、その言葉を、冷たく笑い飛ばした。
「子供の命を、平気で狙うような奴らと、何を話せと? 逆賊? 上等だ。奴らが掲げる、腐りきった『秩序』や『伝統』なんて、僕がこの手で、全部、叩き壊してやる」
僕は、窓の外で降りしきる、冷たい雨に濡れた帝都の街並みを、強く、睨みつけた。
「待ってろよ、バルバロッサ。あんたたちの、偽物の正義ごと、根絶やしにしてやるから」
帝国の平和は、この夜、完全に終わりを告げた。
僕が、自らの明確な意志で引き金を引いたのだ。後戻りはできない、全面戦争という名の、引き金を。
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