表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/279

第142話 王子襲撃

【ヴァレリア視点】


『アヴァロン帝国歴169年 11月28日 深夜 静寂』


 ランベール侯爵の屋敷は、深い静寂に包まれていた。だが、この静寂は、嵐の前の不気味な静けさ。私は、アウレリアン、ルキウス両殿下の寝室へと続く廊下で、息を殺し、壁の影と一体化していた。

 私の騎士としての勘が、この闇の中に、招かれざる客の存在を告げている。


(……来たか)


 廊下の向こうの暗がりから、音もなく、三つの黒い影が姿を現した。その動き、訓練された兵士のものだ。一切の無駄なく、一直線に、王子たちの寝室へと向かってくる。

 影の一つが、寝室の扉に手をかけた、その瞬間。私は、床を蹴った。

 そして、それと全く同じタイミングで、反対側の影から、もう一人の守護者が、音もなく姿を現した。


「……お引き取り願おうか。夜更かしは、子供の成長によくありませんので」


 ユーディル。彼の声は、静かだが、死の宣告のように、冷たく響いた。

 暗殺者たちは、一瞬驚愕に目を見開いたが、すぐに状況を理解し、その手に握った毒々しい光を放つ短剣を、我々へと向けた。

 戦闘は、一瞬だった。

 金属音が、短く、二度、三度と響き渡る。敵は手練れだ。その連携は巧みで、私は、一人の攻撃を防いでいる隙に、もう一人に懐へと入り込まれそうになる。


「くっ……!」


 私が、体勢を立て直そうと一歩後ろへ下がった、その時。一人の暗殺者が、私を無視して、王子たちの寝室の扉へと手を伸ばした。


(――させん!)


 私は、騎士の礼装の下に隠し持っていた、アシュレイ殿が私のために特別に作ってくれた『護身用の切り札』を、抜き放った。ユーディルもまた、それと全く同じタイミングで、ローブの下から、同じものを引き抜いていた。

 黒光りする、回転式弾倉を持つ、小型の拳銃。リボルバー。


 バァン!


 バァン!


 廊下に、鼓膜を突き破るような、二つの鋭い炸裂音が響き渡った。

 扉に手をかけていた暗殺者は、眉間に正確に風穴を開けられ、声もなく崩れ落ちる。もう一人も、胸から血飛沫を上げて、壁に叩きつけられた。

 残る最後の一人は、その場で呆然と立ち尽くしていた。剣でも、魔法でもない。あまりに理解不能な、一瞬の死。その恐怖に、完全に戦意を喪失していた。だが、彼は、最後の力を振り絞り、懐から一つの短剣を取り出すと、それを、わざとらしく、扉の前へと放り投げた。


(……わざとらしい)


 その直後、ユーディルのリボルバーが、三度目の火を噴き、最後の暗殺者の命を、無慈悲に刈り取った。



【ライル視点】


『同日、同刻』


 銃声に叩き起こされた僕は、何事かと、部屋を飛び出した。

 王子たちの寝室の前には、信じられない光景が広がっていた。黒装束の男たちの亡骸、火薬の匂い、そして、呆然と立ち尽くす侍女たちに抱きしめられ、わんわんと泣きじゃくる、アウレリアン君とルキウス君の姿。


「ライル様。ご安心を。両殿下は、ご無事です」


 ヴァレリアが、まだ硝煙の匂いが残るリボルバーを手に、静かに報告する。僕は、床に転がる、一つの短剣に目をやった。そこには東方諸侯の一つの、見覚えのある紋章が、はっきりと刻まれていた。


 ダリウス公爵の紋章だ。


「……ユーディル。これは、奴らの仕業か?」


「いえ。最後の一人が、捕まる寸前に、これを投げ捨てました。あまりに芝居がかっておりましたな。これは、我らの目を真の黒幕から逸らすための、偽装工作でしょう」


 偽装工作。その言葉を聞いた瞬間、僕の中で、何かが、完全に、切れた。

 ユリアン皇帝の死も、この、幼い王子たちへの襲撃も。全ては、誰かが描いた、汚い筋書きの上で起きている。そして、そのために、僕の友は死に、彼の子供たちが、こんなに怖い思いをしている。


(……子供たちまで、利用するのか)


 僕は、泣きじゃくる二人の王子の頭を、そっと撫でた。


(もう、容赦しない)


 こみ上げてくる、氷のように冷たい怒りを、僕は、ただ、静かに、心の奥底へと沈めた。

 僕は、ヴァレリアとユーディルの方を、ゆっくりと振り返る。


「……もう、終わりだ。あいつらは、殺す」


 僕のその一言が、帝国の運命を、そして僕自身の運命を、後戻りのできない血塗られた道へと突き進ませる号令となった。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ