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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第140話 影の中の聖印

【ライル視点】


『アヴァロン帝国歴169年 11月22日 深夜 静かな雨』


 帝都での滞在先としてあてがわれた、ランベール侯爵の屋敷の一室。窓の外では、冷たい夜の雨が、静かに街路を濡らしていた。

 部屋の中には、僕と、その護衛を兼ねるヴァレリア、そして、いつの間にか影の中から現れたユーディルの三人がいた。昼間の選帝侯会議での出来事が、まだ重く、部屋の空気にも影響しているようだった。


「……閣下。一つ、ご報告したいことが」


 沈黙を破ったのは、ユーディルだった。彼は、懐から黒い布に包まれた、小さな何かを取り出すと、そっとテーブルの上に置いた。

 布が開かれると、現れたのは、泥に汚れた、古めかしい金属の徽章だった。女神をかたどってはいるが、そのデザインは、僕が見慣れた教会のものとは、どこか違って見える。


「これは……?」


「我が配下の者が、皇帝陛下が崩御なされた森を、再度、秘密裏に調査いたしました。その際、陛下の愛馬が狂った地点の近くで、これが、泥の中に半ば埋もれているのを発見した、と」


 僕が、その徽章を指先でつまみ上げようとした、その時。部屋の隅の暗がりから、もう一つの小さな影が、すっと現れた。いつの間にか、そこにいたノクシアちゃんだ。彼女は、テーブルの上にある徽章を一瞥すると、その紫色の瞳を、鋭く細めた。


「……これは、『断罪の聖印』じゃ」


 彼女の声は、いつもの無口な少女のものではなく、闇の世界を束ねる、教皇としての、底知れぬ深みと威厳を帯びていた。


「女神の名の下に、不義を正すために使われた、古い印。今のピウス七世が率いる教会では、まず使われることのない、狂信者どものシンボルじゃよ」


「狂信者……?」


「左様。女神の教えを、自らの都合の良いように解釈し、異端の思想を持つ者を、力で排除することも厭わぬ、過激な一派。いわば、光の教えの中に潜む、最も深い闇じゃな」


 ノクシアちゃんの言葉に、ヴァレリアが、はっとしたように息をのんだ。


「……つまり、この聖印は、二つの可能性を示唆している。一つは、教会の過激派が、真の暗殺者である、という可能性。そして、もう一つは……」


 彼女は、悔しそうに唇を噛んだ。


「東方諸侯が、我らの目を教会に向けさせるために、これを偽装工作として、現場に残した、という可能性です。下手に教会を追及すれば、我らは敬虔な信徒全てを、敵に回しかねません」


(なんだろう……。なんで、こんなに、ややこしいことばっかりするんだろう……)


 敵が誰なのか、はっきりしない。それどころか、手がかりが見つかるたびに、事態は、どんどん複雑になっていく。

 僕は、深いため息を一つつくと、椅子から立ち上がった。


「どっちが犯人でも、僕たちのやることは変わらないよ」


 僕は、仲間たちの顔を、一人一人、見回した。


「アウレリアン殿下を守る。そして、僕たちの国に手を出そうとする奴らは、それが誰であろうと、叩き潰す。ただ、それだけだ」


 僕は、ユーディルとノクシアちゃんの方を、まっすぐに見つめた。


「二人とも、引き続き、両方の線で調べてほしい。本当の敵が誰なのか、その尻尾を、必ず掴んでくれ」


「「御意のままに」」


 二つの影が、静かに、そして力強く、頷いた。

 帝都の夜は、まだ明けない。僕たちの見えない敵を探す戦いは、さらに深い闇の中へと、進んでいくことになった。

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