表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/277

第13話 逃げ出す北方の民たち

【ニヴルガルド王 ドラガル=フリムニル視点】


『アヴァロン帝国歴157年 1月20日 夜 吹雪』


 玉座に座る我、ドラガル=フリムニルの耳に届くのは、荒れ狂う吹雪が城壁を叩く音と、部下からの忌々しい報告だけだった。


「……はなはだ申し上げにくいことですが、ドラガル様。この一月で、さらに二千の兵が逃亡いたしました。現在の総兵力は、およそ五千かと……」


 我は、手にした羊皮紙を音を立てて握りつぶした。一万を誇った我が軍勢が、今やその半分。すべては、あの忌々しい小娘、フリズカ=スヴァルディアを逃したことから始まっていた。


(あの小娘が、南の辺境伯……ライルとかいう若造の元に逃げ込んだ。その噂が広まった途端、我に忠誠を誓ったはずの者たちが、雪解け水のように消えていく!)


 スヴァルドめ……。長年、我が前に立ちふさがってきたあの男は、死してなお、我を苦しめるか。奴の娘というだけで、民は我よりも、父の仇を選んだのだ。


(これでは、スカルディアと我が本拠地ニヴルガルドの両方は守れぬ……)


 もし、あの『槍の英雄』とやらが攻めてくれば、間違いなく戦力は分散させられる。ならば、答えは一つ。


(スカルディアは捨てる。だが、ただではくれてやらん。あの地が長年蓄えてきた富は、すべて我がニヴルガルドへ移してくれるわ!)


 その日を境に、我はスカルディアからの徹底的な略奪を命じた。食料、家畜、武具、そして金銀財宝。すべてが、雪道を越えて我が城へと運び込まれていく。


 だが、その行いは、さらに人心の離反を招いた。


「父上! これ以上、スカルディアの民から奪うのはおやめください!」


 玉座の間に、我が娘、ヒルデの悲痛な声が響いた。いつからそこにいたのか。その瞳には、強い意志と、父への憂いが浮かんでいる。


「彼らもまた、同じ北の民にございます! 飢えと寒さに凍える民は、南のハーグという街へ、次々と逃げ込んでおります。あの『槍の英雄』を頼って……! このままでは、父上の周りには誰もいなくなってしまいますぞ!」


「うるさいっ!」


 我は、こみ上げる苛立ちのままに叫んだ。


「英雄だと? 小娘一人に何ができるというのだ! 逃げたい奴は逃げるがいい! 残った真の強者だけで、我は新たな帝国を築くのだ!」


 我は、思わず手を振り払っていた。


「きゃあっ!」


 ヒルデの華奢な体が、冷たい石の床に打ち付けられる。彼女は、唇の端から血を流しながらも、まっすぐに我を見つめていた。その瞳には、恐怖ではなく、深い、深い失望の色が浮かんでいた。


「……父上は、いつからそのような……もはや真の王ではありません。ただの……略奪者になられてしまったのですか……」


 その言葉が、棘のように我の胸に突き刺さる。我は何も言い返せず、そばにあったエールの杯を掴むと、一息に呷った。


 ヒルデは静かに立ち上がると、一礼し、音もなく玉座の間から去っていった。残されたのは、孤独な王と、空になった杯だけだった。


 それからというもの、我は酒に溺れた。

 窓の外では、いつしか吹雪が止み、城壁の氷が解け、ぽつり、ぽつりと雫が落ち始めていた。


 季節は、容赦なく春へと向かっていた。


 春になれば事態が動き出すだろう……誰もがそんな予感を持っていた。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ