表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/278

第129話 ライルのところへ行こうとしたら、女どもにつかまって風呂に連れていかれたんじゃが?

【アズトラン帝国女皇帝 シトラリ視点】


『アヴァロン帝国歴169年 9月12日 昼 快晴』


 鉄の道が、ついに妾を、あの男の元へと運んできた。

 ハーグの駅に、皇帝専用の特別列車が滑り込むと、ホームには、出迎えの者たちがずらりと並んでおった。その中心に、ライルの姿を見つけた瞬間、妾の心は、自分でも驚くほど、高鳴っておった。


「ライル!」


 妾が、喜び勇んで列車から駆け下りようとした、その時じゃ。

 行く手を阻むように、ずらりと、美しい女たちが立ちはだかった。その数、六人。誰もが、腹に一物も二物も抱えていそうな、一筋縄ではいかぬ顔つきをしておる。

 先頭に立つ銀髪の女騎士が、一歩前に進み出た。その顔には見覚えがある。アカツキの街で、ライルの隣に控えておった、ヴァレリアとかいう女じゃ。


「シトラリ陛下、ようこそおいでくださいました。アカツキの都以来ですな」


 ヴァレリアは、丁寧な礼をしながらも、その声には「やれやれ、本当に来てしまったか」というような、深い諦めの色が滲んでおった。


「まあ! ヴァレリアはご存知でしたの?」

「どういうことですの!?」


 周りの女たちが、一斉にヴァレリアに詰め寄る。ヴァレリアは、深いため息を一つつくと、その女たちと、そして妾を、まとめて見回した。


「話せば長くなります。さあ、陛下、長旅でお疲れでしょう。まずは、城の風呂で、汗を流していただきましょうか。話は、それからです」


 有無を言わさぬその言葉に、北の王女や発明家の女も、しぶしぶといった様子で頷く。


「ま、待て! 妾は、まずライルと……!」


 妾の抵抗も虚しく、ユリアン皇帝はライルに任され、妾だけが、この女どもに、半ば拉致されるようにして、城の大浴場とかいう場所へと連行されたのじゃ。


 湯気が立ち込める、広大な湯殿。

 そこは、女たちの戦場であった。

 湯船に浸かると、早速、発明家の女、アシュレイが切り込んできた。


「で、ヴァレリアさん! どういうことなんスか! それに、シトラリ陛下! あんたとライルは、どういう関係なんスか!?」


 その問いに、妾はふんと鼻を鳴らしてやろうとした。じゃが、それよりも早く、ヴァレリアが、再び、深いため息をついた。


「――というわけです。アカツキの都で、シトラリ陛下とライル様との間に、マクシミリアンという王子も、すでにお生まれになっております」


 ヴァレリアが、新大陸での出来事を掻い摘んで説明すると、その場にいた女たちの顔が、驚愕に染まった。


「まあ!」「七人目……」「……やりおるのう、ライル」


 その反応を見て、妾は、最高の優越感に浸っておった。

 じゃが、次の瞬間、その場の空気は、意外な方向へと変わった。


「なるほど! つまり、あんたもライルの被害者仲間ってわけっスね!」


 アシュレイが、にっと笑うと、いきなり妾の背中に回り、ごしごしと洗い始めた。


「まあまあ、固いこと言わないで、背中でも流しましょ! 異国の女帝だろうが何だろうが、あの朴念仁に振り回されてるって点じゃ、あたしたちはみんな、同じ穴の狢なんスから!」


 その、あまりに気さくな一言に、他の女たちも、ふっと緊張の糸が切れたように笑い出した。

 肌を突き合わせ、湯船に浸かりながら語り合えば、国も、身分も、関係ない。

 皆、ただ、あの、どうしようもなくお人好しで、優しくて、そして、いざという時には誰よりも頼りになる、一人の男を、心の底から愛している。ただ、それだけの、同じ女であった。


(……ふん。面白い。面白いではないか)


 あの男、面白い女ばかり集めおって。

 見る目だけは、あるということか。


 風呂から上がった頃には、妾たちは、まるで長年の友のように、笑い合っておった。

 宴席で、ライルの隣に座る権利を、皆で本気でジャンケンをして決め、負けた妾が、悔し涙を流したのは、ここだけの秘密じゃ。


(まあ、よい。しばらくは、この国で、この女たちと過ごしてみるのも、一興じゃな)


 妾のアヴァロン帝国での、奇妙で、騒々しくて、そして、温かい日々が、こうして幕を開けたのじゃった。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ