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【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


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第127話 ほう、ここがアヴァロン帝国か! ハーグ黒豚、確かに美味いのう!

【アズトラン帝国女皇帝 シトラリ視点】


『アヴァロン帝国歴169年 8月25日 昼 快晴』


 長い、長い船旅であった。

 じゃが、見張り台から「見えましたぞ、陛下! アヴァロン大陸にございます!」という声が上がった時、妾の胸は、旅の疲れなど微塵も感じさせぬほどの、高揚感に満ちておった。


 妾の乗る旗艦が、西方の港町フィオラヴァンテへと入港していく。

 船上から見下ろすその街並みは、我らが都とは、何もかもが違っておった。石畳は規則正しく敷かれ、家々は赤や茶色の瓦屋根で彩られておる。そして何より、港に満ちる活気。見たこともない商品を運ぶ商人たちの、力強い声。


(ほう、ここがアヴァロン帝国か! ライルの生まれ育った大陸……。面白い。実に、面白いではないか)


 タラップが降ろされ、妾が大陸への第一歩を踏み出す。その威容と、ずらりと並んだアズトラン帝国の護衛艦隊に、港にいた者たちは息をのみ、ただ遠巻きに見ているだけで、誰一人として近づこうとはせぬ。

 まあ、よい。妾は、妾のやり方で、この国に挨拶してくれるわ。


「者ども! 先触れを出す! 『アズトラン帝国女皇帝シトラリ、これより、この地を訪れる』とな!」


 我が声に応じ、一人の伝令が、飛ぶようにして街の中心部へと駆け出していった。

 その報せは、瞬く間に、この地を治めるヴェネディクト侯爵と、そして、ライルの国の交易を担うビアンカという女の元へと届いたらしい。


 しばらくして、港がにわかに騒がしくなった。

 一台の豪華な馬車が、砂塵を巻き上げてこちらへ向かってくる。馬車から転がり出るようにして現れたのは、息を切らし、上等な服の襟が少しだけ乱れたヴェネディクト侯爵と、ビアンカじゃった。


「も、申し訳ございません、シトラリ陛下! 御来訪の報せが、あまりに突然でしたもので、出迎えが遅れましたこと、深く、深くお詫び申し上げます!」


 二人は、妾の前にひざまずき、必死の形相で頭を下げる。

 その慌てふためく様は、実に滑稽で、愉快であった。


「うむ、苦しゅうない。顔を上げよ。妾も、急な来訪であったからの」


 その日の夜、ヴェネディクト侯爵の城で、盛大な歓迎の宴が開かれた。

 テーブルに並ぶのは、我らが都では見たこともない、珍しい料理の数々。そして、ついに、妾の目の前に、あの伝説の料理が、運ばれてきた。


「こちらが、ヴィンターグリュン王国が誇る『ハーグ黒豚』のローストにございます」


 こんがりと焼かれた表面、滴る黄金色の脂。一口、口に運ぶ。

 次の瞬間、妾は、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。


(な……なんじゃ、この、とろけるような甘みと、濃厚な旨味は……!)


 これが、あの男が、故郷の味として焦がれたという豚肉か。

 なるほど、我が国が誇るラム酒を、山と送ってやったのは、正解であったわ。あの男は、きっと、子供のようにはしゃいで、喜んでおるに違いない。


 上機嫌で料理を味わう妾に、ビアンカが、にこりと笑いかけた。


「陛下。ハーグまでの長旅となりますが、ご安心くださいまし。まずは帝都まで、最高の馬車をご用意いたします。そして、帝都からは、我が国が誇る『鉄の道』をお使いいただけますわ」


「鉄の道?」


「ええ。蒸気の力で走る、鉄の馬車……『蒸気機関車』に乗れば、これまでの旅とは比べ物にならぬ速さで、快適にハーグまでお着きになれますのよ。ここフィオラヴァンテまでの鉄道も、今、急ピッチで建設を進めております」


(ほう……)


 あの男の国は、妾の知らぬ間に、また新しい玩具を作り上げておったか。

 ますます、面白くなってきたではないか。


 その夜、あてがわれた豪華な客室のベッドの中で、妾は、これから始まる旅に、胸を躍らせておった。

 鉄の道が、妾を、あの男の元へと運んでくれる。


(待っておれ、ライル。この妾が、直々にお前の元を訪ねてやったのじゃ。最高の歓待で、もてなすがよい)


 そして、その先にある、新たな命の誕生を夢見て。妾は、異国の夜の静寂の中、一人静かに、そして不敵に微笑んだ。

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