表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化作業中】投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/278

第100話 製紙会社ができる? こうしてはおれん!

【ヴェネディクト侯爵視点】


『アヴァロン帝国歴164年 11月20日 昼 冷たい雨』


 私の西方の領地にある執務室の窓を、冷たい秋の雨が叩いていた。だが、今の私の心に比べれば、この空模様など、春の陽だまりのようなものだ。

 机の上には、領内の各地から集められた、惨憺たる会計報告書が、まるで墓標のように積み上がっている。


「……なんだ、これは」


 指先でなぞった羊皮紙の数字は、我が目を疑うほどに、絶望的なものだった。

 牧羊ギルドからの収益、前年比、八割減。

 伝統ある皮なめし工房、倒産寸前。

 そして、何よりも、我がヴェネディクト家が古くから多額の出資をしてきた、由緒正しき『帝国羊皮紙組合』からの収益……ゼロ。


(あの、北の田舎王……! 豚肉、珈琲、砂糖、カクテル……。次から次へと、飽きもせず……!)


 全ての元凶は、わかっている。

 ライル侯爵が手に入れた港町アイゼンポルト。あの地で、新たに稼働を始めたという『製紙工場』。そこから生み出される、雪のように白く、驚くほど安い『紙』なるものが、今、この帝国の経済を、根底から破壊し尽くそうとしていた。


(戦う? 愚の骨頂だ。あの青い亡霊どもと正面から戦うなど、破滅を早めるだけ。競争して製紙工場を作る? それも違う。あの天才アシュレイと、新たに現れたクララとかいう小娘の技術力に、今から追いつけるはずがない……)


 では、どうする。このまま、指をくわえて、時代の奔流に飲み込まれていくのを待つだけか?

 断じて、否。


(……待てよ。戦うのでも、競うのでもない。ならば……)


 私の脳裏に、一つの、あまりに大胆な考えが、稲妻のように閃いた。


(……仲間になればいいのではないか?)


 そうだ。敵の懐に、自ら飛び込むのだ。生産を支配できぬのなら、その富の流れを、内側から支配してしまえばいい。


(あの会社の名前は、確か『クララ製紙』と言ったか。あの会社に、我々が出資するのだ。株主となり、利益の分配にあずかる。そして、経営そのものを、金の力で掌握する!)


 だが、問題は資金だ。あの抜け目のないビアンカという女が提示する株価は、きっと天文学的な数字になるだろう。私一人の財力では、経営に影響を及ぼせるほどの株を、買い占めることは難しい。


(……そうだ。あの御方と、あの男を巻き込むのだ!)


 私は、すぐに帝都へ向かうべく、席を立った。

 まずは、ランベール侯爵を説き伏せる。「帝国の未来への投資」という大義名分を掲げ、彼の軍事的な影響力と、潤沢な資金を、この計画に取り込む。

 そして、二人で、皇帝陛下の御前へ。陛下は、必ずや、この面白い遊戯に乗ってこられるはずだ。

 三家の財力を合わせれば、あの北の王国の心臓部を、我らが握ることも、決して夢ではあるまい!


「こうしてはおれん!」


 私は、すぐさま最速の馬車を準備させた。

 側近が、畏敬の念を込めて尋ねる。


「して、閣下。どちらへ?」


 私は、窓の外、遠い北の空を睨みつけ、不敵に笑った。


「まずは帝都へ。それから……ハーグよ。あの、恐るべき田舎王に、極上の商談を持ちかけに行くのだ」

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ