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98、カシスの体調不良

 カシスは、そのまま王宮へ戻り、シャワーを浴びて、執事の黒服に身を包んだ。


 表面の火傷は完全に治っていた。だが、右腕を動かすと少し違和感はあるが、痛いわけではない。カシスは気にせず、王女の夕食の付き添いに行く。



「カシス、仕事をして大丈夫なの? 3人とも救護室に送られたわよね?」


「ファファリア様、大丈夫ですよ。火傷は治癒魔導士さんに治してもらいましたし、ニガイ薬湯も飲みました。お薬もいただいてます」


「右腕の方は、服も燃えていたでしょ。ウィルラークお兄様も、ギリギリのタイミングで飛び込んだから、カシスへのダメージを完全には防げなかったと、悔しそうにおっしゃっていたわ」


「ウィルラーク王子が助けに来てくださらなければ、私達は死んでいました。命の恩人です。あっ、ウィルラーク王子も火傷を負われたのではありませんか」


「ウィルラークお兄様は、服も全く燃えてなかったわ。魔力でガードされていたのよ。しかし、まさかの出来事だったわね。私が叫んでいる間に、お兄様は転移魔法を使って、カシスの前に正確に立たれたわ」


「ファファリア様が、頼んでくださったのではないのですか」


「私は騒いでいただけよ。観客席の前の方には、冒険者達もいたわ。本来なら、彼らが学生を守るべきよ」


 カシスは、第二王子が、自らの判断で助けに来てくれたのだとわかり、とても驚いた。闘技場に降りてきた冒険者が言っていたように、公爵令嬢イザベルがいたためかと、カシスは納得した様子。



「ウィルラーク王子が助けてくださるとは、驚きました」


「私も、そこまでの術だとは思わなかったの。だから冒険者も助けに入らなかったのね。でも、ウィルラークお兄様は、魔力で物を見ておられるから、いかに危険かが察知できたみたい。私も、対戦相手の剣士が魔導士の方に移動したから、おかしいとは思ったんだけど」


「いつの間にか魔導士の後ろに移動していましたね。魔法がほとんど効かないという彼らにも、ダメージを与えるほどの威力だったんですね」


「ええ、ウィルラークお兄様のおかげだわ。あの炎の先にいた観客も、ジョセフさんと同じく、魔法が発動できない状態だっただろうから、甚大な被害になるところだったわ。ウィルラークお兄様の防御バリアは、一枚砕かれたそうよ」


「防御バリアが砕かれた?」


 カシスが聞き返すと、王女はコクリと頷き、口を開く。


「事故に見せかけて、観客席にいる大勢の人達を殺すつもりだったのだろうと、ウィルラークお兄様はおっしゃっていたわ。これは、終焉の引き金だわ。対戦相手の魔導士は、終焉を引き起こす魔物だったのよ!」


(あっ、同じことを……)


 悪役令嬢イザベルも、あの魔導士のことを、終焉を引き起こす魔女だと言っていたことを、カシスは思い出した。


「だから、ウィルラーク王子は、あんな無茶な止め方をされたのですね。でも終焉の引き金は、不発に終わりましたよ」


 カシスがそう言うと、王女は首を傾げた。



「カシス、私に何か隠してる?」


「申し訳ありません。隠し事はあります。ですが……」


「いえ、その先は言わなくていいわ。セイラに口止めされているのね? 魔女達がウロウロしているから、おかしいとは思っていたの」


 カシスは、静かに一礼をした。これだけで王女には、何を隠しているかを伝えるには充分だった。




 ◇◆◇◆◇




 翌日、秋の感謝祭の最終日になった。カシスは、珍しく体調を崩している。前日の火傷の後遺症らしい。


「カシスも、今日は外出禁止ねっ。私の部屋に軟禁するわ。カシスの朝食は、私の部屋に運ばせるからね」


 王女の朝食の付き添いのとき、カシスの異変に気づいた王女は、カシスに、王女の部屋での軟禁を命じた。王女の部屋に飾った紫色の花の加護があると、考えたのだろう。


「かしこまりました。体調を崩して申し訳ありません」


 頭を下げたカシスのおでこに、小さな手が触れた。


「火傷の後遺症による発熱かしら。たくさんフルーツを食べる方がいいわね」


 王女は、料理長を呼びつけ、あれこれと指示をしている。カシスの体調を心配してのことだったはずが、次第に王女が食べたい物に、注文が変わっていく。


(ふふっ、かわいい)


 カシスにとって、癒し系な王女がキラキラとしていることが、何よりの薬になっている様子。


 王女の部屋には、簡易ベッドになるソファも運び込まれ、カシスはそこで休むことになった。




 ◇◇◇



「始まるわっ! カシスを起こす方がいいかしら」


(ん? 何?)


「魔力のない人が受けた魔法ダメージは、私達の想像より酷いわよ。起きるまでは……あら、起こしちゃったわね」


 カシスは目を覚ますと、そこが王女の部屋だということに気づき、ハッとして飛び起きた。だが目の前にセイラがいることに、理解が追いつかない。



「セイラさん?」


「カシスさん、大丈夫? 結構な高熱だったわ。スライムタオルで熱を吸収していたけど、なかなか下がらないわね」


「あ、ご迷惑をおかけして……あれ?」


 王女の部屋に、王宮務め以外の人が入ることはないと考えていたカシスは、混乱していた。


「カシス、さっきセイラに来てもらったの。私は今日は外出禁止だし、カシスの熱が高くなっちゃったからね。王宮の治癒魔導士は、部屋に入れたくないし」


「ファファリア様が、セイラさんを呼んでくださったんですね。そんなに高熱を出していたなんて……」


「カシスが眠っていたときに、ウィルラークお兄様が来られたの。それで、セイラを呼べないかと頼んでみたら、ウィルラークお兄様の近衛騎士が、セイラを探して連れて来てくれたのよ」


「そうなんですね。何とも申し訳ないです」


「気にしなくていいわ。そんなことより、始まったわよ」


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