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95、悪役令嬢イザベル

 翌日、カシスは、王宮近くの大きな闘技場にいた。


 王立大学校の交流試合は、準決勝の2戦目だったが、大会の開始時刻には、参加者の待機室に行っていた。幼馴染のジョセフも、カシスより早くから来ていたようだ。


「カシス、話すのは久しぶりだよな」


「そうだね。私は2年生になったからね」


「おまえなー、進級が早すぎるんだよ。まぁ、才女のファファリア様の護衛だから、必死に勉強したんだろうけどさ」


 カシスは、ジョセフが負けず嫌いなことを、よく知っている。だから、ここでどう言うと彼が拗ねるのかも、わかっていた。カシスは、話をはぐらかすのが最適だと判断した。


「まぁ、私は専属執事だからね。ファファリア様は、この大会に出場したかったみたい。選ばれなかったときは、ぷりっぷりな膨れっ面をされていたよ」


「王女様が出場? いや、さすがに危険だろ」


「ファファリア様は、負けず嫌いなのよ」


 カシスがそう話すと、ジョセフは意外そうな表情をしていた。学校内では、王女はいつも穏やかで可愛いと噂されているためだろう。




「あら? 下級生は、出迎えもしないのかしら?」


 大会の第1戦が始まった頃、もうひとりのメンバーが参加者の待機室に入ってきた。


「イザベル様、お初にお目にかかります。2年生のカシスと申します。剣術で参加します」


「公爵家令嬢イザベル・アルール様、初めまして。俺は、1年生の……」


「知っているわよ。貴方は、スクルト伯爵家の次男でしょう? 様々な情報で、よく目にしているわ。魔法大学校の参加者は、貴方が王立大学校から出場することを知って、大騒ぎになっていたみたいよ。なぜ、貴方は、王立大学校に入学したのかしら」


 イザベルは、カシスのことを完全に無視したような態度だった。悪役令嬢イザベルは、新規転生者のことは、無条件で目障りらしい。彼女は、カシスの素性を知らなかった。ガッシュ男爵家の娘だとわかると、同じ騎士貴族として、さらに威圧的になるだろう。



「俺は、魔法大学校からは無試験での入学許可証をもらっていました。ですが、兄の比べられるのは、気分の良いものではないと考えたためです」


(へぇ、そうなのね)


「なるほど。貴方は、お兄さんより劣っていることを認めたくないのかしら。いえ、違うわね。貴方の方が優秀だと、スクルト家の家督問題が勃発するためかしら」


「いろいろと考えた結果です。家を継ぐのは兄なので、俺は自由にさせてもらっています」


「ふぅん、貴方なら、容姿端麗だし、婚姻関係を結びたい貴族も多いでしょうね。王立大学校を選んだのは、ある意味、正しいわ」


 イザベルは、ジョセフがより優位な結婚相手を探して、王立大学校に入学したと考えたらしい。



「それで、そちらの女の子のような顔をした坊やは、ちゃんと剣を振れるのでしょうね? 私の邪魔は、しないでいただきたいわ」


(坊や、か)


 ジョセフがカシスの紹介をしようとしたが、カシスはそれを止めた。


「イザベル様ほどの才能はございませんが、私はシルバーカードの冒険者です。足手まといにならないように気をつけます」


「ふん。まぁ、シルバーカードの冒険者なら、ちょうどいいわ。対戦相手は、魔物だもの」


「魔物? ですか?」


「平民は何も知らないのね。アスナログス国という混血種だらけの国よ。昨日の予選では、2人の死者が出ているわ」


(えっ? 死者?)


 カシスが驚きで固まっていると、ジョセフが口を開く。


「アスナログス国とは、ほとんど交流がないですから、俺もあまり知りません。魔物と人間の混血種が統べる国で、魔導士を喰うという噂はありますが」


「ええ、野蛮な国よ。近寄りたくないわね。昨日の予選で殺されたり瀕死の重傷を負ったのは、すべて剣士よ。魔物の血には、剣を持つ者を殺したいという本能があるんじゃないかしら」


(何、その本能……)


 カシスは、アスナログス国という国名で、ラーク達がミッションで行っていたことを思い出した。また、第二王子と婚姻関係を結ぼうとしているという噂も、思い出した。


「おそらく、魔導士は、彼らにとって餌なのでしょう。だから、彼らの餌にはならない、魔力の少ない剣士ばかりが狙われるのかと」


「そういう見方もできるわね。貴方にかかっているわ。私は平気だけど、そっちの2年生が殺されないようにしなさい。アスナログス国の混血種には、魔法攻撃はほとんど効かないからね」


「わかりました。攻撃ではなく、防御魔法や支援魔法に徹します」


 ジョセフがそう返すと、イザベルはカシスの方を真っ直ぐに見て、口を開く。


「シルバーカードの冒険者くんは、魔物を狩るつもりでやりなさい。相手は、試合中の事故を気にしないわよ」


「はい、イザベル様。承知しました」



 打ち合わせが終わったとき、第1戦の決着がついていた。魔法大学校が、決勝に勝ち進んだ。


「学生の安全を考えたのね。きっと、剣術大学校は、手を抜いたんだわ。決勝でアスナログス国と当たると、殺されると思ったのね」


 イザベルは、吐き捨てるようにそう言ったが、カシスも、彼女の意見に賛成だった。大会参加者は、各チーム3人で、剣術担当と魔法担当がいる。その構成は自由だが、魔法大学校は、剣術担当でも魔導士だろう。




「第2戦の参加者は、出場ゲートへ移動してください」


 大会の運営者が、カシス達の待機室に呼びに来た。対戦相手とは、待機室を分けてある。


(いよいよだわ)


 大会で使うことができる剣は、原則として、刃先が潰されている模擬剣だ。だがイザベルは、スペアとして、通常の剣も装備している。


 カシスも、王女から渡された護身用の短剣を装備して、待機室から、出て行った。


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