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93、待ってもらえないか

「あはは、おまえら似てるよな。助かったぜ」


 店が満席になり、厨房のピークを乗り切った頃、店頭にいた店長が厨房に移動してきた。


「感謝しろよな。俺は、こうなるのがわかってたから、早目に来てやったんだぜ? まさか、カシスまでが手伝いをしてるとは驚いたけどな」


 多くの調理をこなしたラークは、汚れた皿を洗い場の近くへと移動させながら、カシスの方をチラチラと見ている。カシスは、また手早くゴミを集め、外へと運んでいった。



「カシスさんは、少し前にミッションで来てたからな。しかし、商人ギルドのミッション組とは、動きが違う。ここまで忙しくなると、慣れているミッション組でも、調理の邪魔になるが、カシスさんの場合は全くそれがない」


「ふふん、当然だろ。カシスは、明日の大会のメンバーに選ばれている有能な剣士だぜ?」


「あぁ、大金の賭けが飛び交うアレか。予選でどこが勝ち抜くか、昨日、賭け屋が来ていたな。俺は買ってないが、倍率が著しく低いチームがあったぜ」


 店長は魔道具を操作して、その画面をラークに見せた。すると、ラークは眉をしかめる。


「なぜ、コイツらに参加権があるんだ?」


「ん? 何か知ってるのか? 昨夜の営業中に、冒険者達が情報交換をしていたみたいだが、アスナログス国なんて、どこにあるかさえ、俺は知らないぞ」


 アスナログス国は、ラークが第二王子として、何度か行ったことのある国だ。魔術に長けた第二王子と婚姻関係を結ぼうと、必死になっている国の一つだ。常設の転移魔法陣がないため、冒険者も商人も、アスナログス国のことを知らない者が多い。



「アスナログス国は、大半が混血種だからな。関わらない方がいい」


「混乱種? あぁ、人間と魔物の混血か。そうか、それがアスナログス国か。魔導士の行方不明事件が多いと聞いたぜ。ミッションで引きつけて、来た魔導士を喰うんだろ? そういえば、去年の感謝祭の開催地だったか」


「そういう噂もあるな。実際には、そこまで野蛮な国ではないが、魔物に近い人間も少なくない。繁殖期には、近寄らないほうがいいんだがな」


「繁殖期なんてあるのか?」


「あぁ、秋だな。正確に言えば、晩秋だ」


 ラークがそう答えると、店長は魔道具で情報を調べ始めた。そして、ラークの表情が暗い理由に気づく。



「晩秋って、今じゃねぇか。アスナログス国のチームが予選優勝すると、明日は王立大学校と当たるぜ」


「そうなるな。きっと、魔力のない新規転生者は不要だから、殺すこともいとわないだろう。第三期だからな」


 彼らは、『終焉の書』の時期を、第三期と呼ぶ。


「カシスさんが出るんだろ? マズくないか」


「店長、暇なら応援に行ってやってくれ。俺は、近くには居られない」


 感謝祭の期間は、店長が暇なわけないのだが、ラークはそんな言い方をした。そして、店長はラークの素性を知っている。


「わかった。予選で死者が出たら、誰か暇そうな奴に、適当に吹き込んでおく。第三期は、新規転生者がすごい勢いで死ぬらしいからな」


「あぁ、冒険者ギルドと商人ギルドも、それがわかっているはずなのに、秋の感謝祭には、新規転生者を参加させるイベントを開催する。まぁ、カシスは大会があるから、ギルドのイベントには不参加だろうけどな」


「そういえば、この国の商人ギルドに登録する新規転生者は、年寄りを含めて、もう100人を切ったらしいな」


「昨日時点で、90人を切っている。冒険者は10人も残ってないらしい」


 ラークはそう言うと、表情を切り替えた。カシスが、ラークの方に近寄って来たためだ。




「ラークさん、だいたい落ち着きましたよ」


「あぁ、俺の方も、暇になった。店長、俺らの給料代わりに、豪華な昼飯をおごってくれるんだろうな?」


「もちろんだ、任せてくれ。カシスも助かったぜ」


 店長は、自ら、二人をカウンター席へと案内した。




 ◇◇◇



 カシス達が昼食を食べ終えた頃には、厨房内は、仕込みも含めて、また忙しくなっているようだった。


「カシス、呼び出したのに、思わぬ展開になったな」


「殺気だってましたよね。結局、セイラさんは来られてないんですね。体調は大丈夫でしょうか」


 ラークは、元からセイラには声をかけていないが、二人っきりだと誘いにくいと感じ、3人の予約席を取っていた。


「セイラは、もう大丈夫だ。今日は、カシスにちゃんと話したいと思って、来てもらったんだ」


(ラークさんと二人?)


 カシスは驚いたが、王女のキラキラな笑顔を思い出した。紫の小径を進むことができたから、互いに想いあっているのだということも、わかっている。



 しばらく沈黙した後、ラークは口を開く。


「俺は、カシスに隠していることがある。だが、無責任なことは言いたくない。もうしばらく、待ってもらえないだろうか」


「えっ? あ、感謝祭が終わるまで……」


 カシスは、終焉の先に進めることが確定するまで、ラークは恋人にはなれないと考えている、と悟った。


「いや、もう少し先だ。来年のカシスの16歳の誕生日までには、すべてを片付ける。それまでは、今まで通り、冒険者仲間として接してほしい」


 ラークが話す言葉と、彼の表情は別物だと、カシスは感じた。ラークがカシスを見つめる目には、熱がこもっている。だが、何か話せない特殊な事情があるのだろうと、カシスは察した。


「わかりました。これまで通り、冒険者仲間として接します。その後は、どうなるのですか?」


 カシスがそう尋ねると、ラークの頬は赤く染まった。ラークは、どう返事をしようとしても、大商人サンサンのような言い方になると感じ、言葉が出てこない。


 ラークからの返事はないが、カシスには充分に彼の気持ちは伝わっていた。


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