91、秋の感謝祭が始まる
それから数日後、カシスは、王女と共に王立大学校内の体育館にいた。
剣術、武術、護身術、魔術の中から選択して受ける試験だが、秋の感謝祭の期間中に行われる他校との交流試合は、剣術と魔術の成績優秀者が参加するため、この時期に試験を受ける学生は、どちらかで挑むようだ。
この試験は簡単に合格できる。剣術は、剣を使って的を切るだけだし、魔術は、何かを発動できれば合格らしい。
「次の人は、魔法ですか」
「魔法ですっ!」
(ふふっ、張り切ってる)
王女は、派手な風魔法を発動した。よっぽど、交流試合に出たいらしい。
あの翌日、炎の魔女ミランダに会うために、王女は、わざわざ1年生の教室に、ミランダを捜しに行った。そして王女は、カシスを説得したときのように、大会案内の紙を見せて熱心に説明していた。
ミランダは、自分が魔女だとは言っていないが、王女が当たり前のように話すことから、素性がバレていると理解した様子。またミランダは、王女に付き添うカシスに魔力がないことも、当然わかっていた。
魔女達は、新規転生者を調べているが、他の魔女達は、カシスのことを、虹の塔にいた新規転生者ではないと判断していた。その根拠は、カシスが2年生の制服を着ていることだった。他の魔女達は、カシスはずっと勉強ばかりしていたと考えたらしい。
だがミランダは、カシスが男装を隠していることを知っていたため、捜している新規転生者の可能性があると疑っていた。
しかし、王女の護衛として、またカシスがノコノコと自分の前に現れたことから、カシスを候補から除外したようだ。カシスが、必死にポーカーフェイスをしていた成果だろう。
「では、次の人。剣ですか」
カシスの番になった。
「はい。剣で、的を切れば良いだけですよね?」
「一発で切れなくても構いません。切ることができれば、合格です」
(ん? まぁ、いいけど)
カシスは、スッと剣を振り下ろした。当然、剣の速度が速く、全く揺らぎがないため、スパッと簡単に切れた。
「はい、合格です」
「ありがとうございました」
カシスが壁の方に戻ると、王女は、ぷっくりと膨れっ面をしていた。
「カシスっ! 真面目にやりなさいよ。全然アピールできてないわっ。大会に出られないわよっ」
「そう言われても、アピールの仕方がわかりません」
「もうっ、私が先生に直談判を……」
「ファファリア様、学校で、地位や権力を使うのは、良くないですよ」
「そんなものは使わないわよっ。私の話術で押し切るわっ」
「先生方は、ファファリア様の素性をご存知ですから、純粋な交渉はできないですよ」
「むぅ〜、カシスは真面目すぎるのよっ」
ぷりっぷりに膨れっ面をした王女の可愛さに、周りにいた人達は、メロメロになっていた。
◇◆◇◆◇
秋の感謝祭が始まった。学校や多くの仕事が休みになり、3日間続くお祭りだ。王都のメイン通りには、感謝祭の露店がズラリと並んでいる。
開催国の国王が始まりを宣言し、終わりには祭を司る精霊から終了の宣言があるという。
カシスは、感謝祭の終わりに、道化師ボックスが出てくるのだと考えた。魔女達は、きっとまだ、虹の塔にいた新規転生者を捜しているだろう。
「どうして、私が選ばれなかったのかしら。しかも、ミランダには、あれだけ言ったのに、試験を受けてなかったのね」
感謝祭の初日の朝、早朝の国王の始まりの宣言の後、交流試合に参加するメンバー発表があった。その情報を見た王女は、朝食を食べながら、ずっと膨れっ面をして、文句を言っている。
(ふふっ、かわいい)
「ファファリア様は、魔導士ではありませんし……」
「むぅ。絶対に、裏で賄賂が飛び交ったのよ。これは、記事で稼ぐ連中の策略だわ!」
「それなら、ファファリア様が出場される方が、話題になりそうですよ」
「私の場合は、記事にするには一定の規制がかかるでしょ。この人選は、アルール公爵家が何かやってるのよ。じゃないと、彼女が選ばれるわけないもの」
(それで、怒ってるのね)
王立大学校からは、剣士2人と魔導士1人が選ばれていた。王女が、プンスカと怒っているのは、グループリーダーの、イザベル・アルールのことのようだ。
イザベル・アルールは、乙女ゲームでは『終焉の書』に登場する悪役令嬢だ。ただ、アルール公爵家といえば、ガッシュ男爵家と同じく、騎士貴族である。そして、乙女ゲームの中では、悪役令嬢イザベルは強い剣士として、主人公の前に立ちはだかる。
だからカシスとしては、おかしな人選ではないと思っていた。それに、悪役令嬢イザベルは3年生だから、リーダーになるのも当然だろう。
他に選ばれているのは、2年生のカシスと、1年生のジョセフだった。
「カシスっ! 今日は、私は外出許可がないの。明日の大会は、公務としてだけど、応援に行くからねっ」
「はい。ですが王立大学校は、一度も勝ったことがないんですよね? これを見ると今回も無理だとわかります」
開催地にある大学校は、3校が出場するが、初日に行われる予選は不戦勝扱いになっている。明日の大会では、準決勝と決勝が行われる。初日の優勝校と当たるのが、王立大学校だ。
「なっ!? ひどいわね! くじ引きにも賄賂が……」
「ファファリア様、ただのくじ運ですよ」
王女がご機嫌ナナメなのも、カシスから見れば、癒される可愛い姿だった。周りはハラハラしているが。
「カシスさんに、お手紙です」
王女の朝食後、王女を部屋に送り届けると、扉番の警備兵が、カシスに手紙を渡した。
「カシス、誰から?」
カシスが手紙の差出人の名を見せると、王女のご機嫌は、一気に良くなったようだ。




