表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/111

88、迷いと動揺

「お待たせいたしました」


 カシスは緊張しつつ、第二王子ウィルラークと第三王子スグリットの前に、紅茶のカップを置く。そして、切り分けたプリンケーキも置くと、王女のカップにおかわりの紅茶を注ぐ。


「美味そう! カシス、プリンケーキはまだあるのか?」


 スグリット王子は、プリンケーキに目を輝かせている。だが、いつもほどは騒がない。スグリット王子は、兄のことが少し苦手な様子。


「スグリット王子、まだありますよ。こちらにお持ちしますね」


「おうっ! あ、いや、まだいいや」


 第二王子の前だと、いつものようには振る舞えないスグリット王子を見て、王女は口を開く。



「お兄様は、少し大人になられたのかしら? カシスも、そちらの椅子に座りなさい。立っていると話を聞きづらいわ」


 王女の気遣いに、カシスは頭を下げ、まるテーブル横の椅子に座る。さすがに第二王子がいるテーブルに、同席させるわけにはいかないと、王女は的確に判断していた。


 カシスが座った椅子からは、王女とスグリット王子の顔は見えるが、第二王子の顔は横顔しか見えない。


(目が見えないのよね)


 第二王子にカップやフォークの位置を教えるべきか、カシスは悩んだが、カシスがハラハラしていることに気づいたのか、第二王子は、美しい所作で紅茶を飲んだ。


(あっ、魔力で見るんだっけ)


 カシスは、ついつい、第二王子の手元を見てしまう。



 一方で、カシスに見られていることがわかっている彼は、ガラにもなく緊張していた。


 彼は、カシスを応援している妹や弟から、自分が避けられていることを知っている。弟や妹と、このようにプライベートでお茶をするのは初めてのことだった。


 彼は、自分への印象を改善してから素性を明かすべきか、小細工をしない方が良いのか決めかねていた。二人の前で自分がAランク冒険者のラークだと告げることは決意したが、彼はまだ、どう話すべきかを迷っている。




「カシスっ、昨夜からの報告をしてちょうだい」


 王女は、勉強机の引き出しから、手紙を出してきていた。セイラから届いた長い手紙だ。


「はい、昨夜は、集団転移魔法でガッシュ領へ移動しました。レッドボックスの方々もおられましたが、私はブルーボックスの方々と……」


「カシスっ、それはわかっているわ。セイラからの手紙に、予定が書いてあったもの。カシスの屋敷にセイラ達が泊まったのでしょ?」


 手紙を何回も読んでいたのか、王女は丸暗記しているようだった。それに気づいた第二王子は、居心地の悪さを感じたが、素知らぬフリをする。顔半分を覆う仮面をつけていて良かったと、彼はホッと息を吐く。


「はい、セイラさん達が宿泊されました」


「それで、何か事件はなかったの? ラークさんも一緒だったのよね? ラークさんも必ず宿泊させると書いてあるわ」


「セイラさんは、私の家に泊まる予定まで、手紙に書かれていたのですか」


 王女のキラッキラな笑顔に、カシスは小さなため息を吐く。今朝シャワー室でラークとぶつかってしまったことを思い出したが、顔に出ないように気をつけた。


「何かあった?」


「いえ、セイラさん達が父と何かを話されていたのを待っているうちに、私は私室で寝てしまったので……」


「なーんだ。じゃあ、次ね」


 紙をめぐる音が響く。


 カシスよりも、第二王子の方が、手紙の内容が気になっている様子。分厚い手紙を楽しそうにめくる妹の表情から、彼は何が書かれているのか、だいたい想像はできたが。



「カシス、紫の小径こみちには、行ったの? あっ、そうか。紫の小径で、紫色の花を見つけたのね」


「はい、子供の頃に遊んでいた半地下の水路の奥にありました。ただの壁なのに、その先に行けたんです」


 カシスがそう答えると、王女は、スグリット王子の方に視線を向けた。昨夜、王女はスグリット王子に、紫の小径のことを説明していた。



「カシス! ラークと行ったんだよな?」


 スグリット王子も、キラッキラな笑顔で、会話に入ってくる。


「はい。紫の小径に進んだのは、ラークさんと二人でした。セイラさん達は、水路を調べると言って、手分けすることに……」


「きゃ〜っ! お兄様、完璧ですわっ」


「そうだな、セイラの作戦は完璧だな!」


 仲良し兄妹は、キャッキャと盛り上がっている。


 第二王子は、今が会話に入るチャンスだと考えたが、弟と妹のキラキラな笑顔が消えるのではないかと、迷っていた。



「ファファリア様、何が完璧なのですか?」


 カシスは立ち上がって、紅茶のおかわりを、それぞれのカップに注ぐと、また椅子に座る。第二王子は、カシスが自然に二人の会話を繋ぎながら、執事の仕事も忘れないことに驚いた。


「カシスっ! 紫の小径は、互いに愛し合っていないと、進めないのよ。紫の小径には、恋人達に祝福を与える精霊様がいるの。紫色の花が咲いていたのでしょう?」


「えっ? あ、はい、紫色の花がたくさん咲いていました」


「きゃ〜っ! カシスっ! ラークさんとお付き合いをする話はしたの?」



 そのとき、第二王子は、ポロッと、口に運ぼうとしていたプリンケーキを皿に落とした。彼は、自分の動揺をどう隠そうかと、必死に頭を働かせている。


 だがカシスは、第二王子は目が見えないと思っているため、特に違和感は感じなかった。また仲良し兄妹も、話に夢中で、全く気づいてない様子。


「いや、そういう話は……あっ、紫色の花が新鮮なうちに、保管庫に持って行かないといけなかったですし」


「あー、もうっ、じれったいわねっ。ラークさんも、なぜビシッと言わないのかしら! あっ、ウィルラークお兄様、騒いでしまいましたわ。カシスの恋が成就しそうですの!」


「そ、そうか」


 第二王子は、自分がそのラークだとは、言い出せなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ