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86、王宮に戻ると

 カシスは、サンサン家の屋敷の転移魔法陣から、先に一人で王宮に戻った。空間の門番の魔導士が、王宮の中庭に繋いでくれたためだ。


 セイラから、カシスは一つだけ口止めをされた。紫色の魔石を見つけて虹の塔に行ったことだ。紫色の花に関することは、話しても構わないと言われた。レッドボックスが知っている話は隠すべきではないというのが、セイラの判断だ。


 カシスは、サンサン家で他言無用だと話していたのを聞いたため、王女に話すべきかを迷っていた。




「カシス、早かったわね。今日は戻らないかと思っていたわ。成果はどうだったの?」


 王女の夕食の付き添いにギリギリ間に合う時間に戻ったカシスは、急いでシャワーを浴びて執事の黒服に身を包んだ。


「はい、ガッシュ領にある半地下の水路で、紫色の花が見つかりました」


「そう。その続きは、夕食の後に聞くわね」


 カシスの表情が暗いことに気づいた王女は、紫色の魔石が見つからなかったのだと思った。カシスは、いつも通りに接しているつもりでも、王女には見抜かれてしまう。


 ただ、カシスの表情が暗い理由が、紫色の魔石を見つけても終焉の先へ進めるかわからないためだとは、王女には予想もできないことだった。



 ◇◇◇



 王女の夕食の後、カシスも夕食を食べるために、使用人の食堂へと移動した。


 カシスに関する様々な記事が出て以降、すべての使用人が、カシスの顔を知るようになった。そのため、気軽に声をかけてくる人も増え、親しく話せる人もできた。



「カシスさん、無事だったか」


 最近話すようになった近衛騎士を目指す20代前半の使用人が、カシスを見つけ、隣の席に座った。彼の名もラークという。


「はい? ラークさん、何のことでしょうか」


「昨夜、鍋屋の前から大規模な転移魔法の発動があったという噂で、王都は大騒ぎだよ。ガッシュ領に、捜索に行ったとかでさ。あんなことができるのは、ブルーボックスだろ。その中に、カシスさんの姿を見た人もいたんだ」


(バレてる……)


「あー、私も驚きました。私は、ガッシュ領の生まれなので、道案内です。レッドボックスの人も大勢いましたよ」


「最高位パーティの共同作戦か。新規転生者を何人か同行させていたって聞いたぜ」


「そうですね。私以外にも居たようですけど、現地に先に入っていた人達の方が多いので、全体の数はわからないです」


 カシスは、自分が話している言葉を、多くの使用人が聞いていると感じた。セイラが『いつも通りで』と言っていたことを思い出し、カシスは少し警戒していた。


 セイラの言葉で、いつも通りではない人物を魔女の協力者が捜しているのだと、直感したためだ。だから、隠れると逆に見つかりやすいのだと、カシスは考えた。


 実際に、このカシスの推察は正しい。そして、王宮の中にも、魔女に繋がる人間は数多くいる。



「今夜のカシスさんは、いつもとは違うね。何か特別なことでもあったのかな?」


 心配そうに声をかけられ、カシスはマズイと思った。いつも通りにしているつもりだったのに、そうは見えないらしい。


「えっと、どう違いますか? 同じようにしているつもりなんですけど」


「疲れているのかな? 元気がないように見えるよ」


 カシスは、この返答に迷った。疲れていると言えば、それで流すことができそうな会話だ。しかし、カシスの話を聞いている中に、魔女に繋がる者がいる可能性も考えた。



「疲れもありますけど、やっぱり隠せてないんですね」


「ん? 何かあったの? 話なら聞くよ」


 近衛騎士を目指す兵が、魔女と繋がりがあるとは思えない。だが、カシスは、元気がない原因を示す必要があると思った。


「あの、個人的なことなんですけど……」


「俺は、口はかたいぞ?」


「ふふっ、ありがとうございます。昨夜、ガッシュ領に行ったとき、実家に泊まったんです。私には6歳の弟がいるんですが、昨夜は弟も母も不在で、その理由を知るはずの父は何も話してくれなくて、ちょっとモヤモヤが残っていて……」


「弟さんとお母さんは、外泊されていたのか」


「はい。母が弟の寮に行っているとだけ聞いたんですが、この秋から弟が初等学校に入学することは知っていたんですけど、寮に入るなんて聞いてないし……」


「なるほどなぁ。まぁ、お父さんが話し下手な人なら、カシスさんとの関わり方が難しいのかもしれないね。だけど、久しぶりに実家に帰って、それでは寂しいよな」


「はい、モヤモヤします……」


 カシスの話を、近衛騎士を目指すラークは、親身になって聞いていたが、二人の会話に耳を傾けていた使用人達は、興味を失ったらしい。席を立つ人もいた。


「今夜は、そんなことは忘れて、早目に寝る方がいいぞ。疲れていると、必要以上に気になってしまうこともあるからな。そういう問題は、時が解決することもある。俺も10代の頃は、親といろいろぶつかったよ」


「そうなんですね。ありがとうございます。今日は、早目に休みますね」


 カシスが笑みを見せると、彼も、ふわっと笑顔を返した。だが、すぐにその表情は、キリッと引き締まる。


(えっ? なぜ?)



 二人の供を連れて、第二王子が、使用人用の食堂に入ってきた。チラッと、カシス達の方に顔を向けたが、そのまま厨房の方へ行き、すぐに出て行った。


「あぁ、またか」


「どうしたんですか?」


「確か、昨夜も来たぜ。第二王子は、潜入者を徹底的に排除する気だ。こうやって、王族が出入りしない場所にも、牽制に来るんだよ」


「潜入者への牽制?」


「あぁ、俺達としては緊張するだけだが、潜入している奴らは必死じゃないか? ほら、数人が裏口から出て行っただろ。何か証拠がないと、捕まえられないだろうけどな」


(まだ、他にも居たのね)


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