85、嫉妬の女神と魔女と道化師の虹の塔
「まるでリゾート地のような絵が、この場所なんですか? ここは、フルールニア王国内ですか?」
驚いたカシスは、次々とラークに質問をしていた。
「どこの国にも属さない秘島かな。さぁ、早く食べて、帰るぞ」
ラークは、テーブルに並ぶ料理を食べ始めた。カシスも食べ始めてやっと、自分が空腹だったことに気付く。
軽食だったが、鍋屋で有名なサンサン家の料理人が作る料理はとても美味しく、食べ過ぎてしまいそうだとカシスは思った。
「セイラさん達は、大丈夫でしょうか。魔女の攻撃が直撃したんですよね?」
「あぁ、虹の塔は、道化師が管理しているからな。魔女と道化師との直接の繋がりは、確認されていない。おそらく、魔女達は、嫉妬の女神の下僕だろう」
「嫉妬の女神?」
カシスが聞き返すと、ラークは軽く頷いた。だが、カシスには、嫉妬の女神に関する知識はない。
「その話をするために、カシスをこの場所に連れて来たんだ。ここは、どの国にも属さない私有地だから、魔女達も立ち入れないからね」
「私は、嫉妬の女神という人は、知らないです。乙女ゲームにも出てこない名前です」
ラークは、カシスの返答を予想していたため、軽く頷くと、食事の手を止めた。
「魔女達は、道化師の本を壊した新規転生者を捜すはずだ。だから、精霊様は、隠れているようにと命じられたし、魔女達に偽の情報をつかませた」
「あ、それで、あのとき、ラークさんとセイラさんは、笑っていたんですね」
「あぁ、新規転生者の帰る場所に先回りをするために、去ったのだろう。だが、ここからの話をよく聞いてくれ」
ラークはそう前置きすると、紅茶を飲み、頭の中を整理している。
「はい、ちゃんと聞きます」
カシスも紅茶を飲み、ラークを真っ直ぐに見つめる。
「嫉妬の女神は、おそらく精霊様だ」
「えっ? 精霊様は、セイラさん達を回復してくれたし、私の特徴に関する偽の情報を、魔女達につかませたんですよね?」
「あぁ、そうだ。俺にも、すぐに紫色の魔石を渡してくれた。だが、これまで長年に渡って、紫色の魔石だけが発見されていなかったのは、おかしいと思わないか?」
(確かに……)
カシスは、すべてが順調だと感じていた。しかも、これまで揃わなかった石が揃い、遺跡のような鏡は元に戻った。これで、終焉の先に進めるのだと思っていた。
「簡単でしたよね。どういうことでしょうか」
「おそらく、これまでの人達は、どこかで嫉妬の女神の怒りに触れてしまったのだと思う。すべてが消されるから、簡単に入手できる紫色の魔石に関する情報が、残っていないのだろう」
ラークの表情を見て、カシスは、達成感を感じていた気持ちが、スーッと冷えていくのを感じた。
「じゃあ、感謝祭まで隠れていなさいという命令は……」
「それに従うべきか、逆らうべきか、俺にはわからない。だが、虹の塔で聞いた話から考えると、感謝祭で道化師が宣言するまでは、終焉の先はないのだろうな」
重い沈黙が続く。
カシスは、セイラ達が、攻撃されても魔法を使わなかったのは、嫉妬の女神の怒りに触れないようにするためだったのだと、察した。だからセイラ達は、精霊アーシェルの正体に気づかないフリをしていたのだろう。
女神フルンちゃんとして描かれていた姿を思い返したカシスは、紫色の髪を逆立てる姿が、嫉妬の女神の怒りに触れたときの姿なのだと思った。
感謝祭で道化師が宣言をするかも、確定していない。せっかく石が5つ揃って鏡のエネルギーが開放されたのに、これだけではまだ足りないのだ。
「あら〜? 何を暗くなってんのー?」
「セイラ、もう大丈夫なのか?」
部屋に入ってきたセイラは、余っていた料理をつまんでいる。子供のような振る舞いは、彼女がラークの前でよくやることだ。
「魔力は大丈夫じゃないけど、身体は大丈夫よ〜。何? 作戦会議? せっかく二人っきりだったのに、お邪魔しちゃったかしら」
「あのなー。こんな状況で、浮ついていられるか」
ダインとケインも、部屋に入ってきた。動けるようになった姿を、ラークに早く見せようと考えたようだ。
「賑やかですね。俺達は、もう大丈夫です。セイラさんは、しばらくは魔法が使えないと思いますが」
「そうか。おまえらも無理するなよ。虹の塔から戻ったら、普通は、ひと月は寝たきりになるはずだからな。魔女は、魔導士の魔力コアを攻撃するだろ」
「無理はしませんが、普通の生活に早く戻るべきですね」
カシスには見分けがつかないが、ケインが、ラークにそう伝えた。
「あぁ、簡単に打ち合わせをしたら、すぐに帰るべきだな。特に、俺とカシスは狙われる」
ラークは、カシスに気を遣ってそう言ったが、セイラは首を横に振っている。
「狙われるのは、カシスさんだけだよ。精霊様は、おそらく嫉妬の女神だからね。私達を回復してくれたのには驚いたけど、魔女達に偽の情報を与えたのは、私達に味方だと印象付けたかったからだよ。あれを聞いた魔女達は、逆だと考えたはずだよ」
「精霊様のようにかわいくて素敵な女の子とか、精霊様に似ているとか、紫色がよく似合うと言われましたが……」
「ええ、きっと、その逆だと魔女はわかっているわ。精霊様は、小柄で可愛らしい少女だったわね? つまり、捜すべき新規転生者は、背が高くて、精霊様には似てないってことよ。わざわざ女の子と言ったのは、少女じゃなくて大人の女性ということね」
「じゃあ、感謝祭まで私は隠れていないと……」
カシスは、頭が真っ白になっていた。ラークも、頭を抱えている。
「カシスさんは、いつも通りでいいんじゃない? 隠れると、魔女達は逆に捜しやすくなるよ。王女の専属執事は、カッコいい男の子で有名だもの」




