83、塔からの脱出
鏡が放つ強いエネルギー光が収まると、さっきカシス達が入ってきた扉が開いた。
(えっ!? セイラさん)
服がボロボロになったセイラの背中が見える。扉が開いたため、セイラは中に倒れ込んだ。魔女達に攻撃されても、迎撃しなかったのだとわかると、カシスは、手先が冷たくなるのを感じた。
「ロザリー、魔法の使用を許可してくれ」
ラークがそう言ったが、ロザリーは首を横に振る。
「ロザリー! セイラさんが死んじゃうわ」
カシスが思わずそう叫ぶと、紫色の花束から、強い香りが漂い始めた。
(どうなっているの?)
香水のような強い香りは、黄色っぽい光を放ちながら、扉の近くに倒れているセイラを包み、さらにその先へと出て行く。そして、塔の一階まで落ちていた双子の魔導士も、強い香りに包まれた。
「えっ……何の奇跡?」
セイラは、上体を起こすと、キョロキョロしている。そして、何かを見つけ、慌てて立ち上がった。
セイラの視線の先には、黄色っぽい光があった。
「もしかして、精霊様?」
カシスがそう呟くと、黄色っぽい光は、パッと弾けて、紫色の髪の少女の姿に変わった。
『キミ達、素早く行動できたね。道化師が私から逃げ回っている隙に、上手くできたよ。あとは、道化師が宣言すれば、箱庭は開かれる。一番近いお祭りはいつかな?』
(やはり、精霊アーシェル様だ)
「秋の感謝祭かな? 来月の末にあります」
カシスは、ラークの表情を見ながら、そう答えた。
『そう。じゃあ、それまでは、キミは隠れている方がいいね。きっと魔女達は、鏡のエネルギーを解放した主人公を捜すよ。あぁ、この塔にも来てるね』
精霊アーシェルは、ニヤッと笑うと、人差し指を口の前に立てた。そして……。
『ボックスの本を破った子は、やっぱり私みたいに、かわいくて素敵な女の子ね。キミ、私に似てるよね。紫色がよく似合うよ』
(えっ? 何?)
カシスは、精霊アーシェルとは、全く似ていない。精霊アーシェルは、小柄でとても可愛らしい少女だ。
しばらくすると、セイラがケラケラと笑い始める。それに釣られるように、ラークも笑っていた。魔力のないカシスは、何が起こったか理解できていない。
「精霊様、仲間の治療をありがとうございます。それに、塔の一階にいた魔女の気配が消えました」
ラークが深々と頭を下げる。
『魔女達は、嫉妬深い道化師に告げ口をしに行ったのよ。私、もう何十年も前から、この箱庭に飽きてたのよね。これでスッキリしたわ。私に媚びる魔女達にも、うんざりだったの。あっ! 道化師を見つけたわ。ふふん、ボコボコに蹴り倒してくるわっ』
そう言うと、紫色の髪の少女は、スッと姿を消した。黄色っぽい光も残っていない。精霊アーシェルは、完全にここから離れたようだ。
「あの、私って、精霊様に似てますか?」
カシスは、最初に笑い始めたセイラにそう尋ねた。
「全然似てないよ。どちらかと言えば、真逆かもね。ここでは長話はできないよ。虹の塔から出よう」
セイラはそう言うと、半透明なロザリーの方に視線を移す。このロザリーは、部屋を守っているのだろう。
『ここでの人間の魔法発動は、神々の目障りになるため禁じられています。私が1階への転移魔法陣を発動します。すみやかに塔から離れてください』
ロザリーはそう言うと、壁にあるスイッチを押した。すると、扉の前に、魔法陣が現れた。
カシスは、ラークに背を押されて、その魔法陣へ足を踏み入れる。セイラもそこに立つと、魔法陣が光り始め、カシスは浮遊感を感じた。
◇◇◇
塔の一階は、広い空間になっていた。あちこちに、黒く焼けたような跡がある。
(あっ! ケインさんが)
塔の上から落ちた双子の魔導士は、生きていた。まだ、床から立ち上がれない状態のようだ。ケインの服は、血でひどく汚れている。
「ダインさん、ケインさん、動ける? このまま塔の外に出るよ。すぐに塔の修復が始まるから、ぐずぐずしていたら閉じ込められる」
「動けます。終わったのですね。じゃあ、治癒魔法を」
「ダメだ! ケイン、まだ魔法は使うな。魔女にバレる。先に離れるぞ」
ラークはそう言うと、ダインに肩を貸している。ダインの方が重傷だったため、香りによる回復魔法でも、動ける程度にしか治っていない。
そして、5人は、虹の塔から出た。だが、まだ歩き続ける。数分歩いたところで、やっとセイラが足を止めた。カシスには見えないが、塔を囲う結界があるためだ。
「じゃあ、二人を回復するね」
セイラはそう言ったが、ラークがそれを止めた。
「セイラ、そんな状態で魔法は使うな。死ぬぞ。とりあえず万能薬を飲んでくれ」
ラークはそう言うと、三人に小瓶を渡した。
その直後、カシスの目にも、ほんの数メートル先に、塔を囲う結界が見えた。その結界内に強いエネルギーが渦巻いている。
「あぶねー。ギリギリだったな」
「万能薬があるなら、先に飲んでから離れればよかったじゃない」
セイラの意見に、カシスも賛成だった。苦しい状態のまま、ここまで歩かされた双子の魔導士が可哀想だと思ったが……ラークの表情を見て、それが間違いなのだと察した。
「セイラ、ちゃんと考えろ。俺達が塔の結界の外まで逃げられたのは、5人全員が、精霊様の加護の香りを纏っていたからだ。万能薬を飲むと、加護の香りは消えるだろ」
「えー、カシスさんが花束を持ってるじゃない。あっ、匂いがしないわね」
セイラは、ラークの指摘にツッコミを入れたが、すぐに自己解決していた。
「とりあえず、着替えだな。カシスには悪いが、ちょっと変な場所に行く。コイツらをまだ放置できないからな」
カシスが頷くと、ラークは転移魔法を発動した。




