82、虹の塔
セイラの転移魔法で移動した先は、虹の塔と呼ばれる場所だった。カシスは、虹の塔を見上げて驚いた。
「これって、スタート画面に描かれている塔かも」
乙女ゲーム『創世のループ』の三部作のどの宣伝でも必ず登場していた景色だから、カシスは完璧に覚えていた。塔が虹色をしているわけではない。いつも虹がかかっている幻想的な美しい塔だ。
「やはりね。私にはその記憶はないの。だけど、新規転生者を連れて各地を回った記録には、虹の塔のことは、どの新規転生者も覚えていたよ」
セイラはそう言うと、入り口ではなく、塔の右の方へと歩いて行く。
(塔に入らないの?)
「ダインさんとケインさんは大丈夫だろうけど、ラークは気をつけてよ? ここからは魔法は一切使わないで」
「俺もわかっている。カシス、この塔に入るとすぐに魔女にバレるんだ。魔法を発動してもバレる。だから、高い場所だが、歩くからな」
ラークは、ずっと右手でカシスの背に触れている。何かあればすぐに、転移魔法を発動できるようにしているようだ。カシスは、彼に守られていると感じていた。
「はい、わかりました。塔には、正面入り口以外の所から、入るのですね」
「あぁ、そうだ。虹を渡る」
「へ? 虹? いや、虹なんて歩けないですよ」
「俺が支えているから大丈夫だ。花束を抱えていると、足元が見にくいかもしれないが、おそらく歩きにくさはないと思うぜ」
セイラは、虹の端にたどり着くと、カシス達が来るのを少し待っていた。
『鏡の部屋に通してください。5人です』
揃ったところで、セイラは念話を使って人数を告げた。すると、虹が返答するように白っぽい光を放ち始める。
「さぁ、歩くわよ」
セイラがまず虹を踏む。そして、ラークに促されてカシス、その後ろにラーク、さらにダイン、ケインが続く。
カシスは、柔らかな物の上を歩いている感覚だった。虹の7色のうち、黄色がふわふわなマシュマロのような筒状になっていて、その中を歩いて行く。
「虹の中を歩いてるんですね。すごくファンタジーです」
「そうだよ〜。外からは見えないから、スカートでも大丈夫なのよ。空中を浮遊魔法で飛んでいると、下から覗かれそうで嫌だけど、虹の中は大丈夫!」
セイラは、カシス以外が困惑しそうな話をしながら、ズンズンと歩いて行く。急な上り坂だが歩きやすいと、カシスは思った。
虹は、カシスが知る映像では、虹の塔の背景に見えていたが実際には、虹の塔を突き抜けるようにかかっている。
そのまま歩き続けると、塔の中に入ることができた。
(面白い!)
「カシスさん、虹から出ると魔女が気づくわ。何があっても大丈夫だから、剣を抜いたりしないでね。ここは、神の庭園の一部と交わっている塔なの。あっ、声も出さないで。同時に出るよ」
セイラは、カシスにそう伝えると、ラークと魔導士二人の様子を確認した後、合図をした。
その合図に合わせて、5人同時に右側に移動して虹から出る。カシスは、床の感触がないことに驚いたが、声を出さないように我慢した。
カシスの背にラークが手を添える。そして、カシスが一番前を歩く形で、塔の中を進んだ。
(えっ!?)
目の前に、部屋の扉が見えたとき、下から炎が飛んできた。セイラに直撃したように見えたが、誰も何も言わないし、セイラも歩いている。
ラークに促されて、カシスは、その扉を開けた。
◇◇◇
『こんにちは。中へどうぞ』
(半透明のロザリーだわ)
カシスは会釈して、部屋に入った。そして、ラークが入ったところで、扉がパタンと閉まった。
「えっ? まだ3人が……」
『この場所に入ることができるのは、魔石を持って来た者達だけです。護衛は、扉の前にいます』
「下から炎が飛んできたんですけど……」
カシスは、ラークの視線を感じて、言葉を止めた。
『優しいのですね。アナタは初めて来たのでしょう。この塔では、死はありません。ご安心ください』
(それって……)
カシスは、セイラ達が魔女に襲われているのではないかと心配になったが、どうにもできない。早く用事を終わらせようと考えた。
「こちらにお進みください」
カシスは、ロザリーについていく。ラークは右手で、花束を抱えたカシスの腕を掴んでいた。
(あっ! 遺跡だわ)
その部屋の奥には、大きな窓があり、その手前に大きな鏡らしき物があった。乙女ゲームで見たシーンと重なる。魔女の高笑いが響くのは、この場所なのね。
「最後の魔石ですね。3番目の穴が空いています」
(並び順が違う!)
「あの、ハマっている石の入れ替えはできますか?」
「新規転生者なら可能です。他の者が外そうとすると、鏡は再び壊れ、外そうとした者には罰が下ります」
「私は新規転生者です」
「それなら、どうぞ。石同士が触れないようにしてください。鏡が壊れますし、この部屋が吹き飛びます」
カシスは頷くと、大きな鏡に近寄る。上から時計回りに、紫、赤、白、青、黒。乙女ゲームの記憶だけでなく、鏡の穴にも、その色が見える。カシスは、左手で花束を持ち、手早く調整した。魔石があまりにも軽くて驚いたが。
「できました。あとは、一番上に紫色です」
カシスがそう言うと、ラークは、左手をその穴に押し当てる。
カチッ
石がハマった音がした直後、その鏡は空中にふわりと浮かんだ。クルクルと回転し、角度を変えた位置で止まる。
そして……。
バリンッ!
鏡から、強烈なエネルギー光が放たれ、大きな窓のガラスが粉々に割れて吹き飛んだ。
(ひゃ〜っ)
割れた窓から吹き込む風とエネルギーの風圧に押し返され、倒れそうになるカシスを、ラークが必死に支える。カシスは、紫色の花束を飛ばしてはいけないと、必死に抱きかかえていた。




