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81、花の香り

「カシスさん、すごく大きな花束ね〜。ラーク、魔石は無かったの?」


 光る壁を通り抜けると、そこにはセイラと双子の魔導士が、二人が戻るのを待っていた。


 ラークは、無言で左手を逆さまにして見せる。セイラは驚いた顔をしたが、ラークが喋らないようにと合図をしたため、両手で自分の口を押さえている。



「セイラ、今から虹の塔に行くぞ。終わるまで質問は無しだ。カシス、花束の香りはどうすれば良い?」


 ラークは緊張した様子で、早口になっている。


「精霊様は、この香りが、新たな花になると言われてましたよね。ここじゃなくて、もう少し階段の近くに紫色の花が咲いていた記憶があります」


「じゃあ、階段の方に歩こう」


 ラークは右手でカシスの背に触れ、ゆっくりと歩き始める。セイラ達は、そんな二人の後ろからついて行く。



「あっ! カシスさんが歩いた場所に、何か生えてきたよ!」


 セイラが叫んだため、カシスは振り返った。子供の頃に見たように、壁沿いに、スルスルと背の高い植物が生えてきて、紫色の小さな花がたくさん開き始めた。前世にあったスターチスに似た花だ。


「香りから花が咲くみたいです。この上の畑で栽培する紫色の花と同じ花だと思うんですけど、畑では種まきして育てるんですが」


「へぇ、確かに、この紫色の花は、今カシスさんが持っている花と同じね。香りは、私にはわからないわ」


「もう花束から匂いはしなくなってるから、強い香りはすべて花に変わったのかな」


 カシスは、ラークに背を押されて、そのまま階段下まで歩いた。そして、そのまま階段をのぼって外に出た。



 ◇◇◇



「あっ、日の光を浴びると消えた?」


 セイラは、ラークの左手を見ている。紫色に輝いていた石は、ラークの手のひらからは消えたように見える。


(魔石じゃなかったの?)


 カシスは、精霊アーシェルが言っていたことを思い返した。だが確かに、5つ目の石だと話していたはずだ。



「いや、ある。透明になったというか、日の光の元では、俺達には見えないのかもしれない」


「びっくりしたぁ。カシスさんの花束は、どうするの?」


「カシスが摘んだ花は、地下水路に花を咲かせるためのものだ。香りは消えたし、壁沿いに花が咲いたから、もう不要かもしれないな。ただ、畑の物と同じ花になったのなら、魔法袋は使えない。終わるまでは、カシスはそのまま持っている方がいいと思う」


「そうね、状況は変えない方がいいわね。あら」


 セイラは、斜め上に視線を向けた。それに釣られるように、カシスも視線を向ける。


(人が飛んでる)


 赤い髪の人が数人、セイラ達の前にスーッと降りてきた。レッドボックスのメンバーだ。




「紫色の花を大量に持っているようだな。それで、紫色の魔石は見つかったのか?」


(レイルさんだっけ?)


 空を飛んで来たのは、この国のレッドボックスのリーダーを含む数人だった。


 乙女ゲームでは、レッドボックスは剣術メインの印象があったため、カシスはゲームとは少し違うのだと感じていた。


「紫の小径で、カシスさんがたくさんの紫色の花を見つけたのよ。秋の感謝祭に必要だから、これも大切な成果だわ」


 セイラは、なぜかケンカ腰で、返答した。これは彼女なりの芝居だろう。


 レッドボックスのメンバー達は、ラークや魔導士二人の手元にも素早く視線を走らせている。ラークは、上を向けていた左手を広げたまま下ろす。魔石を持っていることを隠したのだろう。魔石は手のひらにくっついているため、手を下ろしていても落ちることはない。


「ふん、やはりな。レッドボックスに協力している新規転生者の方が優れているということだ。ユウリさんは、他国だと言っていた。昨夜からずっと探していたが、ガッシュ領には、マナだまりさえ無いからな」


 勝ち誇ったような表情のレッドボックスのメンバーに、セイラは、冷ややかな視線を向けている。だが、ラークに禁じられているため、魔石のことは何も言わない。



「レイルさん、私達は一旦この場所を離れるわ」


「ふふん、紫色の花が新鮮なうちに、保管庫に入れたいらしいな。その花は、魔法袋を使うと、効果が失われるんだったか。次のない俺達には、どうでもいい花だけどな」


「紫色の花は、希望の花よ! 終焉が近いのだから、それを知る多くの人達が欲しがるわ」


「じゃあ、今回の捜索はブルーボックスの失敗ということで、俺達は撤収させてもらう。まぁ、表向きは、紫色の花の捜索だったから、一応は及第点かな」


 ふふんとバカにしたような笑みを浮かべると、レッドボックスのメンバー達は、再び空へ浮かんだ。手分けをして連絡するらしく、皆、バラバラな方向へと飛んで行った。



「私達も移動するわよ。ブルーボックスの他のメンバーには悪いけど、もう少し捜索をしてもらうわ」


 セイラはそう言うと、淡い光を放っている。魔法が得意なブルーボックスは、念話で連絡が完結する。


『カシスさんが、紫色の花をたくさん見つけたよ。私達は、ちょっとここを離れるね。レッドボックスは撤収すると言っているけど、ブルーボックスはもう少し捜索してくれるかな? 東部に魔物の気配があるのよ。終焉は魔物のスタンピードから始まるわ。強い魔物は、討伐してちょうだい』


 魔力のないカシスにも、セイラの念話は聞こえた。ラークが、カシスの背に触れているためだろう。



「これでよし。じゃあ、私達も移動するよ」


 セイラがそう言ったとき、ラークは、両手が塞がっているカシスの肩をしっかりと抱いた。


 パチンと指を弾く音がすると同時に、5人はセイラの転移魔法の光に包まれていた。



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