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80、紫色の魔石と紫色の花

『ふぅん。キミは、女神フルンちゃんは、見た目のかわいさに騙されるけど、魔女たちを使って最悪な終焉を演出する絶大な影響力を与える女神で、人気のあるラスボスだと思っているのね?』


 カシスが強制力のせいで話してしまったことを、精霊アーシェルは復唱するようにまとめた。


 ラークは、カシスが返事をすると自分達が消滅させられると感じた。繋いでいた手には、自然と力がこもる。


 カシスは、ラークが真っ青な顔をしていることに気づいた。声をかけようとしたが、黄色っぽい光から目を逸らすことができない。



「はい。私の女神フルンちゃんの印象は、そんな感じです。精霊様が女神フルンちゃんに似ていると感じたのは、かわいい声だけど怖いと思ったからです』


(なぜこんなことを……)


 カシスは聞かれてないのに、余計なことを言った自分に混乱している。


『どうして怖いと思ったの? みんな、私のことは、女神フルンちゃんみたいで、かわいいって言ってるよ』


「ここでは、隠し事はできても嘘はつけないと言われたからだと思います。いや、精霊様の質問に答えないと、出られないと言われたからかな。女神フルンちゃんも、かわいい声で、恐ろしいことを言っていたから、敵に回したくないって……す、すみません。私、すごく失礼なことばかり……」


 カシスは、心底焦っていた。ラークが諦めた顔をしていたのは、こうなることを予知したのだと思った。



『キミは、女神フルンちゃんは好き? 嫌い?』


 これが最後の質問だと、カシスは直感した。精霊アーシェルが望まない返答をすると、ここから出られなくなるのではないかと、恐怖を感じる。


「私は、女神フルンちゃんは好きじゃないです。嫌いというほどでもないけど、魔女たちを操るから、関わりたくないと思っていました」


(こんなこと言っちゃダメなのに)


 カシスは、手を繋ぐラークの力が強くなったことに気づいた。言葉を飾ることができず、精霊を怒らせてしまったことは、明らかだ。


(殺されるのかも)


 カシスは、頭から血の気が引いていくのを感じた。ラークは生まれ変わりができないのに、自分の発言のせいで、彼を消滅させてしまう。



『そんなことを正直に話したのは、キミが初めてだよ』


 黄色っぽい光はパッと弾け、白い像に座る紫色の髪の少女が現れた。


(あれ? 違う)


 目の前にいる精霊アーシェルは、紫色の髪の少女だが、乙女ゲームで見た女神フルンちゃんとは全くの別人だと、カシスは思った。


『キミは、素直だね。私が女神フルンちゃんに似てると言った人は皆、キミのようなことは言わなかったよ。弱い術しか使ってないから、必死にあらがって、考えていることを隠してた』


「すみません。私には、あらがうチカラがなかったみたいです。でも、精霊様が女神フルンちゃんじゃないとわかって、ホッとしました」


『ん? あの物語の女神フルンちゃんは、私だよ』


「ええっ? でも、見た目が全然違います。女神フルンちゃんは、もっと派手な大人の女性で、ふわふわな髪がすごく長くて、怒るとホラーな感じで髪がぶわっと広がって……」


『あぁ、やっぱりそう描かれていたのね。ボックスの性根が腐ってるのよ。あ、ボックスというのは、キミが言っていた道化師ボックスね。本の神なの。キミの前世では、魔道具の中に物語を綴っていたわね』


「本の神? この世界の創造神と聞きました」


『物語を入れ物に閉じ込める能力があるわ。本というのは、キミが思っている紙の重そうな物だけじゃないのよ。物語を綴った箱庭も、本なのよ』


「じゃあ、この世界が、本?」


『ええ、そういうことよ。ったく、道化師ボックスは許せないわね! 私、しばき倒して来るっ!』


 そう言うと、目の前にいた精霊アーシェルは、黄色っぽい光に、姿を変えた。



 カシスは、どうすればいいかわからず、ラークの方に視線を向ける。ラークは、混乱しているように見えた。


「ラークさん、これって……私は、精霊様の怒りに触れたかと思いました」


「俺も同じだ。カシスは精霊様の術にかかっていたから、何も隠せなかったよな。話す前から終わったと思っていたが……」


(でも、出口がないよ)


 カシスは、周りを見回したが、入ってきた場所もわからないし、出口も見えない。



『あー、忘れてた! キミたちは、帰っていいよ』


「精霊様、出口がわからないです」


『ん? キミたちが入ってきた場所は、外の紫色の花が光っているでしょ』


「いえ、外には紫色の花が咲いてませんでした」


『え〜っ? じゃあ、ここの庭園から花を摘んで行ってちょうだい。花の香りが外に出ると誘導灯に変わるの。摘んだ花は、キミたちにあげるよ。出口が見えるまで摘んでちょうだい。私は忙しいから、じゃあねっ』


 白い像の前の黄色っぽい光が消えた。



「ラークさん、花を摘めば帰れそうです」


「あぁ、そうだな。よかったよ。カシスのおかげだ」


 ラークは、カシスをギュッと抱きしめる。だが、何かを思い出したように、パッと離れた。


「カシス、ここは精霊様の庭だから、長話はできない。さっさと花を摘んで、外に出よう」


「は、はい」


 カシスはドキドキしながら、紫色の花を摘み始める。


 ラークも、花を摘むために、握っていた紫色の魔石をどこかへ収納しようとしたが、石が手にくっついて離れない。


「カシス、悪いけど、俺の左手は、魔石を手放せないみたいだ。おそらく、鏡にはめ込むまで取れない気がする」


 ラークは、手を広げて逆さにして見せた。ラークの手のひらにピタリとハマっているのか、大きな石は落ちない。


「私に任せてください。花を摘むのは得意です」


 カシスの腕の中に大きな花束が出来上がったとき、出口を示す紫色の光が見えた。



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