8、王都へ
夜明け前に交易都市クースを出た魔導馬車は、昼過ぎに、王都近くの街道沿いにある宿場町で停まった。
「カシスさん、ここで馬車を乗り換えます。食事休憩にしましょう。荷物は手分けして持ちますね」
馬車を降りると、王家からの迎えのラークは、カシス達を先導するように、大きな酒場のような店に入っていく。カシスは、ロザリーと共に、ラークについて行った。
「とても広い店ですね」
「この時間は、ガラガラでしょう? 宿場町にある酒場は、夕方からは混むんですけどね」
カシスは、自分達が注目されていると感じた。その視線は、どれも友好的なものではない。
(よそ者だから、かな)
ラークは窓際の席を選び、カシスとロザリーを座らせ、食事を注文しに行った。
「カシスさん、この後は、普通の馬車で王宮へと行くことになります。魔導馬車は、王都の中には入れません。ペガサスは、魔物ですからね」
「あっ、それで、乗り換えるのですね。ロザリーさんは、いつまで一緒にいてくださるのですか」
「私は、王宮の雑務を請け負っているので、基本的にはずっと、王宮にいます。私の他にもロザリーはいますが、カシスさんのサポートは、この私のみが担当しますよ」
(ロザリーが他にも?)
カシスの頭の中には、服屋の近くの通りがロザリーだらけだったことが浮かんでいた。
「それは、ロザリーという名前の人が多いということですか? 交易都市クースでは、似た雰囲気の女性を多く見かけましたが」
「新規転生者は、そんな風に捉えるのですね。この世界にいる人は、ロザリーがたくさん居ることが当たり前だと考えていますよ。10歳の儀式の後に読まれた書物にも、ロザリーはたくさん出てきませんか?」
「書物でのロザリーは、案内人という想定だと思っていましたけど、たくさん居るのですね」
「ええ、主人公の数だけ、ロザリーは誕生します。言い換えれば、新規転生者が来るたびに増えるいうことです」
「新規転生者は、たくさん来るのですね」
「はい。それだけ、この世界から魂が消えているということですけどね」
「それは、どういう……」
カシスが尋ねようとしたとき、ラークが戻ってきた。ロザリーは、シーッと人差し指を口に当てている。
「軽食しかありませんでしたが、無いよりはマシでしょう。手早く食べてしまいましょうか」
ラークは、大きなトレイを持っていた。
「立派な昼食ですよ。いただきますね」
「カシスさんがそのような感覚でいてくれると、助かりますよ。貴族を使用人にすると、プライドが邪魔をするのか、よくトラブルが起こりますからね」
「ラークさんは、王宮では、どのような役割を担われているのですか? 私は、どう接するのが正解でしょうか」
「私は、スグリット王子が外出される際の、護衛というか、付き人です。ロザリーと同じような役割だと思ってもらって構いません。毎日の決まった仕事はない、何でも屋ですね」
「では話し方は、このままで大丈夫ですか?」
「丁寧すぎるくらいですよ。あはは」
◇◇◇
食事休憩の後、別の馬車で、王都の門をくぐった。
「カシスさん、眠いようなら寝てください。到着は、夜になります」
「えっ? そんなに遅くなるのですか」
「王女の夕食後に王宮に着くように、途中で時間調整をします。カシスさんの夕食は、顔合わせをした後になります。眠れるときに寝るのが、鉄則ですよ」
(確かに、そうね)
カシスは目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。一方、ロザリーとラークは、無言で睨み合っていた。
◇◇◇
「カシスさん、もうすぐ着きます」
ロザリーが、隣で爆睡しているカシスを起こした。
「は、はい。すみましぇん。あっ、すみません」
「ふふっ、寝ぼけてます? ちょうど王女の夕食時間に着きそうです。使用人はバタバタしているので、出入りするには最適な時間帯なのですよ」
「スグリット王子が抜け出すのも、この時間帯ですからね。今夜は、絶対にいらっしゃるでしょうけど」
「はぁ、そうなんですね」
カシスは、二人の会話の意味がよくわからなかったが、少し寝ぼけているのか、気にしていない様子。
「わぁっ! すごい……」
夜の王宮は、美しくライトアップされていた。王都のどこからでも見えるように照らされていることに、カシスは感動していた。
馬車は、そのまま、王宮の中へと入っていく。
フルールニア王国を舞台にしたストーリーは、彼女が前世にプレイしていた乙女ゲーム『創世のループ』では、三部作の中の『終焉の書』にしか登場しない。
この『終焉の書』は、世界が魔物に襲われて、終焉を迎えるというバッドエンドがメインストーリーになっていたため、ゲームの中では、炎に包まれた景色しか描かれていなかった。
(もしかして!)
10歳の儀式の後、今が『転換の書』のストーリー中だと聞いたことを思い出したカシスは、この美しい王宮が炎に包まれるのかと、恐怖を感じた。
(いや、まさかね)
ゲームと現実とは違うと、カシスは頭を振り、気持ちを切り替えた。
◇◇◇
王宮の中を、ロザリーが先導して歩いていく。
「カシスさん、こちらの部屋をお使いください。カシスさん専用の執事室となっています」
ロザリーに促されて部屋に入ったカシスは、その広さに驚いていた。当然、ラークは、部屋の前で待たされている。
「私の専用ですか? 右側にも部屋が……」
「そちらは、カシスさんの休憩室として、自由にお使いください。住む場所が決まるまでは、寝泊まりをしてもらって構いませんよ」
「こんな広い部屋だと、落ち着きませんね」
「ふふっ、すぐに慣れますよ。では男装して、王女ファファリア様に、ご挨拶に参りましょうか」




