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79、精霊アーシェルと女神フルンちゃん

「俺達は……」


 ラークは、どう答えるべきか、迷っていた。目の前の黄色っぽい光だけでは、精霊の正体の手掛かりにもならない。もし、嫉妬の女神であれば、些細な言葉で逆鱗げきりんに触れてしまう恐れもある。


 カシスは、ラークが話しにくそうなことに気づいた。いつものラークらしくないと不思議に思いつつ、口を開く。


「精霊様、私達がここに来た理由は、5年後も一緒に居たいからです。まだ、恋人でもないけど、私は彼を尊敬してるんです」


 カシスの言葉に、ラークはハッとした。どうごまかそうかと考えていた自分を、思いっきり殴りたい気持ちになっていた。


「俺、やっぱり、カッコ悪いな」


 心の声が口から飛び出して、慌てるラーク。



『キミは、どうしたいの?』


 精霊アーシェルは、ラークの方を向いた。だが二人には、精霊の姿は、ただの光にしか見えない。


「俺は……」


 ラークは、カシスの顔を真っ直ぐに見つめる。


「俺は、彼女と一緒にいたい。5年後も10年後も、ずっと彼女が笑顔でいられるように、支えたいと思う」


 ラークは、侍女ローラから聞いた話を思い出していた。ずっとカシスが、何かに我慢して生きてきたなら……幼い少女が笑わなくなるほど苦しい思いをしてきたなら、ラークは、これまでの時間を取り返すくらい、カシスが笑顔でいられるようにしたいと思っていた。



『そう。それは困ったわね。キミには、これを授けましょう。5つの魔石が必要だから、他の4つは頑張って探しなさい。ときの神の鏡が壊れたせいで、ここは、ループ世界になっているわ。この世界を創った神が、嫉妬して壊したみたいね』


 黄色っぽい光は、ラークの手に、紫色に輝く石を出した。あまりにも強い光で、カシスは目を開けていられない。


「精霊様、ありがとうございます! これで、俺は……」


『この世界を創った神は、嫉妬深いの。早くした方がいいわ。これで、5つ揃ったのでしょう?』


 ラークは、また返答に迷った。ラークは、ここで肯定してはいけないと直感した。だが、嘘もつけない。



「あの、精霊様。道化師は、誰に嫉妬しているのでしょうか。ときの神は、男性なのですか?」


 カシスは、疑問に思っていたことが、勝手に口から出てしまい、なぜこんなことを言ったのかと焦った。


『キミは、あの神の物語を知る異世界から来たのね。ええ、道化師は、ときの神に嫉妬していたわ。私が、刻の神と一緒にいることを選んだからね』


「もしかして、精霊様は、紫色の髪のかわいい女の子の姿をしていますか? 今の私には、黄色っぽい光にしか見えないけど、物語の終盤に登場した女神フルンちゃんに似てる気がして……」


(なぜ暴露しちゃうの?)


 カシスは、さっきから思い出したことがすぐに言葉として口から出てしまうことに、戸惑いを感じていた。


『私は、紫色の髪だよ。見た目は、アナタよりも若いと思う。以前にも、女神フルンちゃんに似ていると言った人がいたよ。キミは、女神フルンちゃんのことをどう思っていたの?』


 精霊の光がそう問いかけたとき、ラークはマズイと思った。今のカシスは、完全に精霊の術にかかっている。話を逸らそうと、ラークは口を開く。



「やはり、女神……様。あぁ、お名前が言えない」


『やぁね、地上では、精霊アーシェルよ。キミじゃなくて、女神フルンちゃんを知るキミに答えて欲しいの。女神フルンちゃんのことをどう思っていたの?』


 ラークは、この精霊が、嫉妬の女神であることを確信した。他の石を見つけると、嫉妬の女神に気をつけろ、と石を守っていたモノが忠告したことが伝わっている。


 紫色の石が今まで発見されなかったのは、見つからなかったのではない。見つけた者が、嫉妬の女神の怒りに触れて消滅させられたのだ。


 それに気づいたラークは、強く後悔した。不思議と自分が消滅することへの恐怖はない。ただ、何も知らないカシスを巻き込んでしまった自分の愚かさに、反吐が出る。


 せめて最期は、と、ラークはカシスの手をしっかりと握った。



「女神フルンちゃんのことは……」


 カシスは、頭の中で考えをまとめようとしたが、何かの強制力のせいで、全くまとまらない。目の前の黄色っぽい光が、女神フルンちゃんか否かもわからない。精霊アーシェルが肯定したのは、紫色の髪の少女だということだけだ。


『女神フルンちゃんは好き? 嫌い?』


「うーむ、女神フルンちゃんは、魔女たちを率いるラスボスっぽい感じがありました。見た目はかわいいのに、やることが強烈で、プレイヤーとしては敵に回したくないなって思ってました」


『ラスボスって何?』


「えーっと、最後に立ちはだかる最強の守護者でしょうか。どんなゲームでも、プレイヤーは、ラスボスの攻略ができなくて散っていくことが多いです。だから、課金者が有利になるんですけど、ラスボスの攻略情報はたくさん出回っていて、それを読んでも攻略できなくて、そのゲームのクリアを諦めてしまったりとか……あ、すみません。全然、言葉が上手くまとめられなくて」


『ふぅん。じゃあ、キミは、ラスボスは嫌いなのね?』


「好き嫌いは、そのラスボスによります。ゲームによっては、ラスボスの方が勇者よりも人気があるものもあります。プレイヤーの敵として現れるのですが、ラスボスが優れているゲームは、人気が出ます」


『へぇ、じゃあ、女神フルンちゃんって、キミから見れば、その人気の出るラスボスみたいな存在なのね』


「はい。見た目のかわいさに騙されるけど、女神フルンちゃんは、魔女たちを使って、最悪な終焉を演出する絶大な影響力を与える女神だと……あっ、なんかすみません」


 カシスは、ラークがすべてを諦めた顔をしていることに気づき、頭から血の気が引くのを感じた。


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