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78、紫の小径

「セイラさん、紫の小径こみちは、ここで行き止まりだと思いますよ」


 カシスはすぐさま言葉を返したが、セイラはニヤニヤしながら水路に入って、手をひらひらと振っている。


 双子の魔導士も、セイラに従って、水の少なくなった足場の悪い水路を奥へと歩いていった。


(行き止まりなのに)


 カシスは、セイラに、ラークと二人っきりにされたのだと察した。ラークも、セイラの強引すぎる行動力に、ため息を吐く。



「カシス、この白い壁の先が、紫の小径こみちらしいぜ。ここに案内板がある」


 ラークにそう言われて、カシスは、白い壁の前に、小さな木の看板のようなものがあることに気づいた。


「紫の小径こみちと、書かれてありますね。今まで気づかなかったです。でも、この白い壁に近づきすぎると、先程の階段下にワープしてしまうんですよ」


「ワープ? あ、転移ということだな」


「転移魔法とは違って、押し返される感じです。ビュンと、階段下に戻ってしまうので、それが楽しくて、何度も近寄って遊んだ記憶もあります」


「へぇ、じゃあ、進んでみようぜ」



 ラークは、カシスの手を掴み、白い壁に近寄っていく。突然、手を繋がれたカシスは慌てたが、転移事故を防ぐためにラークが身体に触れることは、これまでにも何度もあった。意識しすぎてはいけないと、邪念を振り払う。


(あれ?)


 白い壁にかなり近づいても、ワープが起こらない。もう6年ほど来ていないから、ワープのエネルギーが枯渇しているのかと、カシスは思った。


「ぶつかりそうですが、まだ進むので……ええっ?」


 カシスは、ラークに手を引かれて、白い壁をすり抜けた。ラークの魔法だと思ったカシスだったが、ラークも驚いた顔をしていることに気づく。


「マジかよ……」


「どうしたんですか、ラークさん。今のは、ラークさんの魔法ですよね? 薄暗いですけど……」


「あぁ、そこでは見えないだろ。カシス、あと2歩前に進んでみて」


 カシスは、ラークの横に並んだ。


(えっ!? 何?)


 そこには、体育祭の入場ゲートのような、大きな白い門があった。青く輝く空があり、地面は見渡す限り、紫色に染まっていた。そして、まるで香水を振りまいたような甘い香りが漂っている。




『なぜ止まっているの? 紫の小径こみちを通って、私の像までおいで』


 可愛らしい女性の声が聞こえた。


「カシス、行こう」


「は、はい。これは一体……」


 ラークに手を引かれて、カシスは紫色の花の中を真っ直ぐに歩いていく。この花は、農家が育てている小さな花と同じ種類に見えるが、こんなにも強い香りを放つ花ではない。



 しばらく歩いていくと、噴水付きの人工的な泉のような物があるのが見えた。その泉のような物には、白い像が飾られていることに、カシスは気づいた。


「ラークさん、あの泉みたいな物の中に、白い像がありますよね。あれのことかな」


「あぁ、そうだろうな。驚いたよ。こんな所に、神の庭園に繋がる入り口があったなんて」


「神の庭園?」


「あぁ、カシスは知らないよな。この世界で死んで転生するときに招かれる庭園だ。正確にいえば、神の庭園の一部だよ。白い像は、神の数だけあるんだ。精霊様ではなく、この世界にいる神様だよ」


「ええっ? そうなんですね。ってことは、私達は死んでしまったのですか」


「いや、それはない。俺には、次の人生はないはずだからな。しかし、これは一体……」


 二人は話しながら歩いていた。ラークは、ここでの発言はすべて聞かれてしまうから、無言を貫こうとしている。だが、何かの強制力によって、思っていることを話してしまう。


 カシスは、白い像に触れそうな位置で、足を止めた。なるべく近寄りたくないラークも、カシスの横に立っている。



 白い像から、黄色っぽい光の塊が出てきた。


『ようこそ、紫の小径こみちへ。私は、精霊アーシェルよ。アナタ達の望みは何かしら?』


「精霊様?」


 カシスは、ラークから聞いた話と違うことに戸惑いを感じた。


『キミは、異世界から来たばかりの子なのね。私達は、地上にいるときは精霊と名乗っているの。だけど、この名前は口にはできないわ。名前を発すると、私に聞こえるから、あちこちで呼ばれると迷惑だもの』


「そうなんですね。精霊……様。ほんとだ! 名前を言えないです!」


 カシスは、いつもとは違って、子供のように、はしゃいでいる。その変化に、ラークは少し驚いていた。


「精霊様、この庭園では、俺達の本性が暴かれてしまうのでしょうか。俺は、彼女にはまだ何も告げていません」


 ラークがそう言うと、精霊アーシェルは、無邪気な笑みを浮かべた。だが精霊の姿は、二人には、ただの光にしか見えていない。



『隠し事は、難しいかもね。だけど、相手を想う隠し事なら、暴かれることはないと思うよ。キミ達は、世界の終焉が近いことを知っているね。死を迎えた後、近くに生まれ変わりたいのかな』


「精霊様、俺には次はありません。だから……」


 ラークは、ここで言葉を止めた。


『そう。じゃあ、紫色の花は必要ないね。互いの気持ちを確かめるために来たの?』


 精霊アーシェルは、ラークとカシスの顔を交互に眺めている。この精霊アーシェルが何の精霊なのか、ラークにさえ、わからない。そのため、妙なことは言えないと、ラークは警戒していた。



「精霊様、ここは恋人になる場所なのですか? 私が子供の頃に何度か、白い壁の前で消えた大人を見ました。階段下にワープしたんだと思ってたけど」


 カシスの素朴な疑問に、精霊アーシェルは好感を抱いた。


『キミは、この地の子なんだね。ここは素直になる場所だよ。隠し事はできても嘘はつけない。私の質問に答えないと、出られないの。キミ達は何を望んで、ここに来たの?』


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