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77、紫色の花の畑

「カシスさん、おはよう。先に朝食をいただいているわよ」


 シャワーを浴びたカシスが、食卓のある部屋へと移動すると、ニヤニヤしたセイラが、明るく声をかけた。


「セイラさん、皆さん、おはようございます。私、遅くなりましたよね。すみません」


「別に時間は決めてなかったから、気にすることはないわ。昨夜のうちに、ガッシュ男爵から情報を提供してもらったから、今日は良い日になりそうな気がするよ」


「紫色の花が、見つかりそうなんですね」


「そうね。まぁ、紫色の花が見つからなくても、別の成果を期待できそうだわ」


(紫色の石ね)


 カシスは、セイラが上機嫌な様子から、魔石に関する情報を得たのだと考えた。だが、セイラがニヤニヤしていたのは、別の話を聞いたためだ。


 セイラは、昨夜、紫の小径こみちについての問い合わせが多いことを、ガッシュ男爵から聞いた。他国からでさえ、恋人同士で来ることもあるとの情報も得た。

 また、さっき、カシスがシャワーを浴びている間の、ラークと侍女の話を立ち聞きしたことから、ニヤニヤが隠せなくなっている。



 カシスが朝食を食べている途中で、ガッシュ男爵は、用事があるとのことで、セイラ達に挨拶をして外出した。彼は、年頃の娘との対話が難しいと感じている様子。カシスと深く関わってこなかった結果だろう。


 そんな親子の関係に気づいたラークは、ガッシュ男爵の行動は、今までの自分と似た部分があると感じた。このように深い関わりを避ける行動は、魂のループが終わる者によくあることだと、ラークは思った。



 ◇◇◇



「ここですか? 紫色の花の畑ですが、今の季節は何もないですよ」


 セイラの転移魔法で移動した先は、カシスが子供の頃によく遊んでいた場所だった。夏に花を収穫した後は、春に種まきをするまで雑草が生え放題で、子供達の遊び場になっている。


「カシスさんが入り口を知っているんじゃないかと、ガッシュ男爵はおっしゃっていたわ。この付近の子供達の秘密基地がどうとか」


「あぁ、それなら水路ですね。畑の真ん中を通る水路があるんですが、夜は水が流れるけど、日が昇ると畑への柵が開くので、水路からは水が消えるんです」


「へぇ、それで、この場所の土は、端の方がぬかるんでいるのね。雑草畑に水をやっている形ね」


「はい。春に種まきをする前には、薬を撒いて雑草を枯らすみたいですが、それが畑の栄養になると、農家さんから聞いたことがあります」


「なるほどね。今は肥料を育てる時期かな。その水路は、どれかしら? いくつも水路らしきものはあるけど」


「他の水路は、ずっとチョロチョロと流れているんですよ。ご案内しますね」



 カシスは、雑草畑の中を歩いていく。


(久しぶりだな)


 まだ弟が居なかった頃、カシスは、この雑草畑でよく遊んでいた。野菜農家の男の子が、この付近のリーダー格で、カシスもその中に混ざって遊んだことを懐かしく思い出した。


 だが、弟が生まれて、その弟が身体が弱いことがわかった頃、泥まみれになって遊んで帰ると、母にキツく叱られたことがあった。カシスが持ち帰った泥に含まれる毒のせいで、弟モールが高熱を出したと叱責されたのだった。


 幼児が高熱を出す奇病は、原因は知られていない。王女ファファリアが3歳のときに患ったのも、同じ熱病だろう。


 その件があって以降、カシスは、子供達と遊ぶことをやめた。初等学校の長い休みの間も、剣術の練習をして過ごす毎日だった。




「入り口は、ここです。覚えていてよかった」


 カシスが足を止めた場所に、双子の魔導士が同時にサーチ魔法を使った。


「カシスさん、どこが入り口なの? 水路らしきものなんて、ここには無いわよね?」


「ふふっ、だから秘密基地なんですよ。この付近は半地下に水路があります。この階段から降りるんですよ」


 カシスは、雑草をかき分けて見せた。


「まぁ! 畑に穴が空いているじゃない。危ないわね」


「網の囲いがあるから、子供の背丈なら、うっかり足を踏み入れることはないんですよ。こちら側から入れます」


 カシスは、階段を囲う網の扉を開けた。


「へぇ、子供が好きそうな場所ね。急な階段だけど、それほど深くはないわね。ガッシュ男爵は、小川を歩いていけば着くとおっしゃっていたけど」


「あぁ、それは水路ですよ。確かに、その方が広いですが、下り坂で足場が悪いし、ちょっと臭いんです」


「ん? 秘密基地は、水路にあるのよね?」


「説明が難しいので降りましょうか。私が先に行きますね」


 カシスは、幅の狭い階段を降りていく。その後ろをセイラが追い、双子の魔導士が降りた後にラークが降りる。




「あら? 水路だわ。そうか、水路の横の空洞ね」


「はい、そうなんです。目的の場所は、ここだと思います。紫の小径という言葉は知らなかったですけど、そういえば、子供の頃に何度か、紫色の花を探しに来た大人を案内した記憶があります」


 カシスは半地下と言っていたが、セイラは地下水路だと感じた。差し込む日差しがあり、空洞内は、わりと明るい。


 ここが、山の水が流れ込み、自然にできた洞穴だとわかったラークは、周りを注意深く観察しながら歩く。


 地下水路の右側の空洞には、子供の遊び道具が散乱している。階段を降りた付近が秘密基地なのかと、セイラは興味深く眺めながら歩いた。



「ここで終わりです。紫色の花はなかったですね。咲いていたこともあったのにな」


 淡く光る白い壁の前で、カシスは立ち止まった。水路横の空洞は、ここで行き止まりだった。


「この辺は、水路の水が少ないね。傾斜があるからかな。じゃあ、二手に分かれようか。私は、ダインさんとケインさんと一緒に、水路を歩いてみる。カシスさんはラークと一緒に、紫の小径こみちを進んでね」



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