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73、サラリとかわすケイン

「カシスさん、こんばんは〜。みんな来てるよ〜」


「すみません、遅くなりました」


 中庭に関する不可解な事件があった翌日、カシスは、王女の夕食の付き添いの後、王宮近くの鍋屋にやって来た。王女への手紙で指定された通りの時間のはずだが、すでに皆が揃っていると言われ、カシスは焦った。


 だが、実際には、セイラの予定通りだ。カシス以外の皆と、これからの行動に関する打ち合わせを済ませていた。


「大丈夫よ〜。白いチーズ鍋を追加したから、新しいのが来るよ〜」


「白いチーズ鍋、ですか?」


「そそ。この店舗だけの新作なのよ。ダインさんは食べないと思うけどね」


 セイラに店の中へと案内されながら、カシスは自分が注目を集めていることに気づいた。カシスは、あのゴシップ記事のせいだろうと、小さなため息を吐く。


 そんなカシスのため息に気づいたセイラ。だが、注目を浴びることに慣れる機会だと考え、気付かぬフリをしていた。



 ◇◇◇



「みんな〜、カシスさんが来たよ」


 個室の扉が開き、中の様子が見えると、カシスは目を見開いた。以前、女子会をした個室とは違って、会議室のように広い部屋だったためだ。しかも、パッと見ただけでは数え切れないほどの人数が集まっていた。


 カシスは、慌てて会釈をする。



「カシスさん、もうすぐ白いチーズ鍋が来ますから、こちらの席にどうぞ」


(あれ? この声)


 カシスに声をかけたのは、双子の魔導士のどちらかだった。だが、チーズを食べられるのは、弟のケインだと考えたカシス。


「はい、ケインさん、ありがとうございます」


「おっ? あんたは、双子の見分けができるのか」


(えーっと、誰?)


 見たことのあるような赤い髪の男性が、カシスに声をかけた。魔法が使えないカシスにも、その男の戦闘能力が高いことがわかる。


「見た目はわからないですけど、チーズ鍋の前にいるから、ケインさんかなと……」


「へぇ、女みたいな顔をしてるわりには、まともじゃないか。その分析力の高さは、新規転生者でも珍しいぜ」


(女なんですけど!)


 カシスは反論しようかと思ったが、自分のことをセイラがどう伝えているかわからないため、曖昧な笑みを浮かべておいた。



「カシスさん、気にしないでね。レイルさんは脳筋なのよ。あっ、白いチーズ鍋が来たわ!」


(レイルさん?)


 セイラに座るようにと促され、カシスは、ケインの隣の席に座った。ケインの反対側の隣には、無言のラークが座っている。カシスからは、ケインの奥にラークの横顔が見える状態だ。セイラは、店員を呼びやすい扉の近くの席に座っている。



「さて、皆が揃ったところで、改めて紹介するね。私はセイラ、この国のブルーボックスのリーダーをしているわ。そして彼、レイルさんは、この国のレッドボックスのリーダーよ。レイルさんの隣にいるお姉さんが、新規転生者のユウリさんで、今、来たお嬢さんが、新規転生者のカシスさんよ」


 カシスは、名を呼ばれて軽く会釈をした。


「悪い、カシスさんは男だと思っていた。王命ミッションで、女が生き残るなんて、ありえないからな」


 レイルが、カシスに謝った。


「いえ、私は、男だと思われているので、大丈夫です」


「レイルさんは、いつも失礼ね。カシスさんは、王女の専属執事をしているわ。シルバーカードの冒険者よ」


 セイラがそう言うと、レイルはまた頭を下げた。



「そうか。ブルーボックスは、よい新規転生者を味方につけたな。レッドボックスほどじゃねぇけどな」


(なんだか、バチバチね)


 皆の視線が、レッドボックスに協力する新規転生者の方に向いた。ユウリという名のアラフォーに見える女性だ。


 黒い石を見つけるヒントを与えたのが、ユウリだった。だが、レッドボックスの雑な討伐のせいで、王命ミッションが出されるほどの大規模なスタンピードが発生している。



「じゃあ、今回の共同計画をもう一度、確認するわ。当初の予定では、ケインさんの参加が難しかったため、一部は冒険者ギルドの転移魔法陣を利用するつもりだったけど、全員の転移が可能になったわ」


(この人数の転移魔法!?)


 セイラは、話を続ける。


「魔石は、夜には発光するわ。これからガッシュ領に移動して、手分けして探すわよ。ユウリさんの記憶から、魔石のある草原は、かなり広いことがわかったわ。農業が盛んな領地だけど、狭い場所を排除できるから、候補となる草原は、7〜8ヶ所だけよ」


「ガッシュ領なら、5年前に捜索済みだけどな。ユウリさんは、他国だと言っていたぜ。同じ国に、二つの魔石があるなんて、バランスが悪い」


 レイルが即座に反論すると、セイラは不機嫌さを隠さない。


「他国は、これまでに何度も、紫色の魔石が生じる場所を探してきた記録が残っているわ。それで見つからなかったんだから、バランスなんて考える必要はあるかしら? レッドボックスも、ちゃんと探してくださいね。魔法が得意なブルーボックスの方が有利ですけど」


「は? どっちも見つけた魔石は二つだろ。過去の話をしているようだが、今の俺達は、互角だということを忘れるなよ?」


(バチバチだよ……)




 その後、カシスは静かすぎる夕食を食べた。白いチーズ鍋というのは、クリームシチューのようだと思った。


「カシスさん、これ、美味しいですよね」


 重苦しい静けさを破ったのは、隣に座るケインだった。


「ええ、美味しいですね。あの、ケインさんって、昨日、鎧を身につけてませんでした?」


 カシスが気になっていたことを尋ねると、ケインの奥にいるラークが、ギクリと肩を震わせた。


「鎧ですか? 俺は一応、魔導士なんですけど」


「あっ! そうですよね。変なことを聞いてすみません」


 ケインは、サラリとカシスの質問をかわした。


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