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72、中庭での練習と王女の笑み

「じゃあ、カシスはその日は休みを取ればいいわ。カシスのロザリーに、代わりをさせるよ」


 セイラ達と酒場ベリーズで夕食を食べた翌朝、カシスは王女の朝食の後、送り届けた王女の部屋へ少し立ち寄った。そして、セイラが話した内容を、簡単に説明した。


「ありがとうございます。まだ、日にちは決まってないんですけど」


「ふふっ、でもその話の流れで、ガッシュ領に行くと言われたら、ラークさんは慌てたんじゃない? まるで、カシスの家に行って挨拶しなさい、って言われているようなものでしょ」


「紫色の石の件ですよ? 冒険者が領地に立ち入る許可はいらないから、私の家に行く必要はないと思います」


「わかってるわよ。だけど、私としては、石のことはどうでもいいの。期待して叶わなかったら、苦しいじゃない」


(ファファリア様……)


 カシスは、王女の本心に触れた気がした。王女は、あと3年も経たないうちに自分のループが終わることを、むしろ喜んでいるようにカシスに見せていた。だが、終焉が怖くないわけじゃない。王女も、可能なら終焉の先に進みたいのだ。



 コンコン



 扉がノックされ、カシスは王女の部屋の扉を開けた。


「ファファリア様に、急ぎのお手紙が届きました」


 王宮内の連絡係の使用人が、封筒をカシスに渡した。差出人はセイラになっていたため、カシスは、そのまま王女に渡す。


 王女は、何かの魔法を使ってから、手紙を開封した。差出人が、本当にセイラかわからないためだろう。


 手紙を読み進めると、王女の表情はキラキラと輝き始めた。何枚もの長い手紙だから、セイラがラークの動向について書いてきたのだと、カシスは思った。


 実際には、セイラのガッシュ領での計画が記されていた。カシスも知らないガッシュ領に関する噂話が、詳細に綴られている。



「カシスっ! 明後日の夜に、こないだ行った鍋屋に来て欲しいそうよ。おそらく、そのまま移動すると書いてあるわ。明後日の夜は、ガッシュ領に泊まるみたい」


「夜からですか。あぁ、皆さんの都合を合わせるのは、難しいのですね」


「セイラのことだから、ガッシュ領のことを調べた結果、夜から行くのが良いと判断したのかもね」


「魔導馬車でも、交易都市クースまで一晩かかりましたからね。ガッシュ領は遠いですよね」


 カシスがそう返すと、王女は首を傾げた。そして、カシスが転移魔法のことを理解していないことに気づくと、納得した様子。移動方法に関しても、セイラからの手紙に書かれていたが、王女の判断で、何も話さないことにしたようだ。




 ◇◆◇◆◇




 その翌日、カシスは、学校をサボる王女と中庭で過ごした。なぜか王女が、カシスに剣を教えてほしいと言い出したためだ。


 目立つ場所での剣術の練習は、大勢の使用人の目に触れた。王宮には、訓練用の室内ホールもいくつかある。スグリット王子は、室内で剣の練習をしていた。


「ファファリア様、なぜ、剣の練習なんですか?」


「試験があるもの。私は、剣で受けるわ」


「王立大学校の試験ですか?」


「ええ、そうよ。剣術、武術、護身術、魔術の中から、選択して受けるのよ」


 カシスは、体育館を使った何かがあることは記憶していたが、その内容はまだ確認していなかった。


「ファファリア様は魔術なら、何もしなくても合格できるんじゃないですか?」


「それでは意味がないのよ。私、剣術は教わったことがないの」


(すごい向上心ね)


 カシスは、王女が頑張り屋さんだと思ったが、何かの違和感を感じた。



「ファファリア様、本当の目的は何ですか」


 カシスが小声で尋ねると、王女は、わずかに口角をあげたが、何も答えない。だが、この反応でカシスは、王女には別の目的があるのだと感じた。



 ◇◇◇



 練習を終えて、王女を部屋に送り届けた後、カシスは、使用人の食堂に、遅めの昼食を食べに行った。


 カシスが座る席に、使用人達が近づいてくる。見知らぬ顔ばかりだと気づいたカシスは、少し身構えた。



「王女はなぜ、中庭で、キミから剣を教わっていた?」


(いきなり?)


 突然、挨拶もなく、そんなことを言ってくるとは思わなかったカシスは、少し反応が遅れた。


「王女に剣術など不要だろう?」


「キミが、幼き王女を誘導しているのか。王立大学校では随分と有名なようだが、何か勘違いしているのではないか」


 次々と怒りをぶつけられることに、違和感を感じたカシスは、先程の王女の笑みを思い出した。


(これが目的?)



「ファファリア様が、おっしゃったことです。剣術を教わったことがないと」


「王宮には、キミよりも剣術に優れた者は、大勢いるぞ。なぜキミが、中庭で指導していたのだ!?」


「中庭がいいとおっしゃったからです。私も、外で身体を動かすことは、ファファリア様にとって良い運動になると考えました」


「は? キミは、何様のつもりだ? 平民風情が、中庭で、騎士の真似ごとか。ふざけるなよ!」


 カシスは、文句を言ってきた使用人達の顔をサッと見回したが、やはり知らない顔だった。中庭への強いこだわりを感じる。


(げっ!)



 使用人の食堂なのに、彼らの背後から、数人の護衛を連れた第二王子が姿を見せた。


「ファファリアから、餌を撒いたと聞いて来てみたら、執事はもう釣り上げたのか。おまえら、彼は平民ではない。貴族の生まれだ」


 カシスに文句を言っていた使用人達は、青ざめている。そして一斉に、第二王子の護衛によって捕縛された。



「執事さん、助かりましたよ。潜入者がわからなかったんですよね。王女への手紙を隠していたのも、この者達でしょう。中庭に隠し通路が作られていました」


「そうでしたか」


 カシスは軽く会釈を返したが、この兜を被った男性の声には、聞き覚えがあるような気がした。



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