71、無意識に出る前世のセリフ
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします(*´-`)
たくさんのデザートと一緒に、4人分のベリーのショートカクテルが運ばれてきた。
するとすぐに、ラークはカクテルを手に取り、セイラは、デザートの取り分けを始めた。好きな物から手をつけるのは二人の共通点だと、カシスは思った。
(やはり親子なのね)
王宮近くの鍋屋で聞いた話を思い出したカシスは、セイラの話がどこまでが本当なのかと考えていた。ラークの前世を疑っているわけではない。カシスは、今のラークが、自分をどう思っているのかが、気になっていた。
「セイラ、それで本題は何だ? あまり時間がない」
ラークが再びそう尋ねると、セイラが不機嫌そうな顔をして口を開く。
「せっかちな男は嫌われるわよ? 女子会で、すごい発見をしたかもしれないの。鏡に関する情報よ〜」
カシスは、セイラが酒場にいるのに何も気にせず大事な話をしていることに、少し慌てた。カシスは気づいていないが、ラークが軽い阻害魔法を使っているから、注意していないと会話の内容は、すぐ後ろの席でも聞き取れない。
「それは、興味深いな」
ラークがベリーのカクテルを飲みながら、話をさらりと流したように、カシスには見えていた。
(聞き流すのね)
慌てたカシスが口を開こうとしたとき、ラークはカシスの前に、カクテルグラスを置いた。
「カシスも飲んでみろよ。ベリーズの店名を背負ったカクテルだ。ちょっと驚くぜ」
「は、はい。あの、セイラさんの話は……」
「飲んでから聞くよ」
(あっ、口止めかも)
カシスは、勘がいい。酒場でこれ以上の話はしない方がいいのだと、察した。
以前、ラークがカクテルの美味い店を見つけた、と話していたことを思い出したカシスは、この店のことなのかと考えながら、グラスに口をつけた。
(強いお酒ね)
「カシスの口に合うか?」
「あ、はい。味は美味しいですが、ちょっと私には強すぎるみたいです」
「確かに、アルコール度数は高めだな。ちょっと待て」
ラークは、スッと席を立つと、カウンターへ歩いていき、細長いグラスを持って戻ってきた。中にはクラッシュ氷と半分くらいの水が入っている。カシスのベリーのカクテルをそのグラスに移し、グラスを左右にゆすって混ぜると、カシスの前に置いた。
(あっ、大商人サンサンだ)
カシスは、乙女ゲームでの酒場のシーンを思い出した。サンサンは、わざと主人公に強い酒を飲ませた後、バーテンダーに氷を入れたグラスを用意させる場面があった。そして、飲みやすい酒に変えてみせる。そのときのセリフを、カシスは覚えていた。
「飲みやすい度数に調整したぜ」
(あーっ! 同じセリフ)
水を入れてアルコール度数を下げても、全部飲んだら、強いお酒を飲んだことと同じだと、前世のカシスは思っていた。
乙女ゲームでは、その後、酔った主人公は、サンサンの家に連れて行かれ、プレイヤーには選択肢が示される。そのまま一夜を共にするか、逃げ出すか。
「ありがとうございます。そのセリフって、記憶にありますけど……」
「ん? セリフ?」
ラークは無意識だったらしく、カシスの言葉の意味がわからない様子。
「カシスさん、やっぱりそうよね? 私が女子会で暴露しなくても、今のラークの行動とセリフで、前世が何者だったか、わかるよ。ゲーム中に、クズだなぁって思ったもん」
(セイラさん……)
「もしかして、サンサンがやっていたことか? 飲みやすいカクテルにすることが、クズなのか?」
「だって、この後、家に連れ帰ろうとするんだもん。女の子を酔わせて一夜を共にするなんて、クズでしょ」
セイラがそう言ったことで、ラークは何かを思い出したらしい。はぁぁと、苛立ちを隠さないため息を吐いた。
「完全に無意識だったが、この後どうかしようという意図はないぞ。セイラが明かさなくても、いつかはバレていたということか」
珍しく、落ち込んだ表情を見せるラーク。
カシスは、どう声をかけるべきかわからず、とりあえず、細長いグラスのカクテルに口をつける。
「あっ、美味しいです。なんだか甘くなってる」
「シロップも入れてもらったからな。俺としては、カッコいいつもりだったんだよ。はぁぁ、カッコ悪いな、俺」
ラークの反応を、カシスは意外だと感じた。だが、今のラークは大商人サンサンとは別人なのだと考えると、カシスはフッと気持ちが軽くなった。
「でも、飲みやすくなりましたよ」
「次は、バーテンダーに作り直しをしてもらうよ」
(本気で落ち込んでる?)
「ラーク、ださっ」
セイラがそう言うと、ラークはキッと睨んだが、頭を抱えている。ラークは、カシスに幻滅されたと感じ、焦っていた。
しかし、カシスは、今のラークは普通の冒険者の青年なんだと、逆に好感度が上がっている。彼の前世が大商人サンサンだと知ったときには、自分には遠い存在だと感じていたが。
カシスは、身分差が嫌いなようだ。より高い地位の人との婚姻を狙う令嬢たちの話を、幼なじみのジョセフから頻繁に聞いていたからだろう。
また、様々な調査をしてきたラークは、カシスの価値観を知っていた。だから、前世が、ガッシュ男爵家よりも圧倒的に裕福な商人貴族だったことは、隠すつもりでいた。当然、今の素性も明かす気はない。
「ラークさん、大丈夫ですよ? 印象的なシーンだったから覚えていましたが、今のラークさんは、前世とは違うことは、わかっています」
カシスがそう言うと、ラークはパッと顔をあげた。
「そうか、それならいいんだ」
ホッとした笑みをもらしたラーク。
(ちょっとかわいいかも)
「ラーク、ホッとしてるところを悪いんだけど、近いうちにガッシュ領に行くわよ。日程調整してね」
セイラは、意味深な笑みを浮かべて、そう告げた。




