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69、カシスが有名になったのは

「カシスさんは有名人だから、注目されてるね。シャツもハーフパンツも、女性物のデザインなのにね。うふふっ」


 セイラが周りを見回すと、鋭い視線は消えた。だが、すぐにまた、カシスに鋭い視線が突き刺さる。


「私、また男だと思われてますよね? セイラさんと二人っきりだから、周りの冒険者が嫉妬してません?」


「そうね〜。でも女性グループは、私に冷たい視線を向けているわよ。これは楽しいわね。ラークちゃんが、キャッキャと笑う気持ちがわかるわ〜」


(似てるよね……)



 王女ファファリアは、前世は悪役令嬢ファルメリア・サフスだった。その頃に、今のセイラと仲良くなったらしい。


 乙女ゲームでは、三部作のそれぞれに悪役令嬢がいた。王女の前世は『転換の書』の時代だから、同じ時代に悪役令嬢は二人存在しない。カシスは、セイラが『創世の書』の悪役令嬢だったのではないかと、予想している。



「セイラさん、私が有名人とは、どういう意味ですか? 確かに王命ミッションに参加したことで、冒険者ギルドの職員さんには、顔を覚えてもらった気がしますが」


「あら? カシスさんは知らないの?」


 セイラは、どこからかタブレットのような魔道具を出した。そして少し操作すると、目的の記事を見つけてカシスの前に置く。


「記録記事ですか?」


 タブレットのような魔道具の画面には、王立大学校の入学式の様子が映っていた。王女の入学に関する記事のようだ。この世界には写真技術はないが、魔法はある。魔道具を使って、撮影されたらしい。


「そそ。その下の方を見ていくと、時間が進むわよ。スクロールできる?」


 カシスは頷き、下の方を見ていく。


 入学式は、王女ファファリアのことしか書かれていないが、学校生活の記事は、次第に様子が変わっていく。王女と一緒にいるカシスに関する記事が、増えていくようだ。



「私が、やたらと出てきますね。素性は暴露されてないようですが、余計な憶測でいろいろと書かれています」


「でしょ? カシスさんが王命ミッションに参加していたことを突き止めた記事もあるでしょ。王女の専属執事には、やはり皆、興味があるのよ。その記事は、王家も閲覧するからその程度なんだけどね。他にもいろいろあるよ」


 セイラは、また魔道具を操作して、別の記事を見せた。そこには、カシスが驚くほどの量の盗撮が載っていた。


「これって……」


「いわゆるゴシップ記事も多いんだけどね。あれこれ見てると、楽しいわよ。今は、カシスさんが一番のネタじゃないかしら」


 カシスは、記事を読んでみたが、あまりにも的外れな物が多くて困惑した。最初に見た物とは比較にならないほど、ガセネタや想像で描かれたものが多い。



「私はなぜ、男扱いされてるんでしょうか。公爵家でも、ご令嬢の専属執事は、男装した女性が多いですよね」


「それだけ女性ファンが多いんじゃない? あっ、この投稿者の物なんて、私から見ても、カシスさんがカッコいいと思うもの」


 セイラが見せたのは、静止画ばかりを集めた記事だった。学校内での、ふとしたカシスの表情を集めてある。光の加減を上手く利用してあるため、カシスが見ても、男に見える。


「こういうのって、規制はできないんですか?」


「何かの秘密に関わるものなら、規制できるわ。だけど、無加工な映像は、どう切り抜かれていても対象外よ」


「なるほど。だから、私は男だと思われてるんですね。まぁ、その方が、護衛にはいいのかもしれないけど」


「王命ミッションの参加が効いてるのかな。ほら、これは良いことが書いてある」


 セイラが見せた記事は、王女の専属執事を過大評価していた。どこかの伯爵家の生まれだとか、文武に優れているとか、あまりにもひどいガセネタだと、カシスは思った。


「全部、嘘ばかりじゃないですかー」


「そんなことないよ? カシスさんは、王女の専属執事を続けていれば、そのうち伯爵の称号が得られるだろうし、ラークちゃんでさえ落ちた試験をすべて合格してるでしょ。剣術は、私は見たことないけど、ラークが認めていたわ。ほら、全部事実じゃない」


「いや、そんなことは……」


 カシスが反論しようとしたとき、セイラが頼んだ料理が一気に届いた。



「それにラークちゃんも、この記事が楽しいって言ってたわ。お兄さんと一緒に、隠れて読んでいるそうよ」


(あー、なるほど)


 カシスは、仲良し兄妹がケラケラと楽しげに笑っている様子が目に浮かんだ。外との繋がりを抑制されている王女には、身近な知り合いに関するゴシップ記事も、娯楽の一つなのだろうと、カシスは思った。


「まぁ、楽しいなら、いいですけど」



 不満そうなカシスの表情をチラッと見ながら、セイラは、せっせと料理を取り分けている。


 カシスは、円卓いっぱいに並んだ料理は多すぎると思いつつ、セイラがいろいろな物を少しずつ食べたい性格だったことを思い出した。


「それに、ラークも読んでると思うよ。カシスさんが一気に有名人になったから、戸惑ってるかもね」


「えっ……そう、ですかね」



 ゴチン!


(ええっ!?)


 カシスは全く気づいてなかったが、セイラがラークの話を出したのは、店にラークとケインが入って来たことに気づいたためだ。


「痛ぁ〜い! ひどいじゃない、お父様〜」


「誰がお父様だ。ったく……」


 ラークは、セイラの正面の席に座った。4つの椅子がある円卓だから、カシスの隣でもある。そして、ケインはカシスの正面に座って、軽く会釈をした。


(どうしよう……)


 まさかラークが来るとは思ってなかったカシスは、緊張してラークの顔を見ることができない。


 カシスは、正面に座った魔導士に会釈を返すと、ダインかケインかを考えるフリをしていた。



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