67、セイラの大発見
「カシスっ、今、大商人サンサンって言った?」
カシスの小さな呟き声も、王女は聞き逃さなかった。
「はい。乙女ゲームの『創世の書』に登場する攻略対象のキャラです。ファファリア様は、覚えておられませんか?」
「私、商人は、攻略対象に選んでないと思うわ。確かにサンサンは大商人になるけど、途中のチマチマが私には合わなかったのよ」
(へぇ、初めて聞いたわ)
カシスは、いつもスグリット王子がいるためか、王女と、どんなキャラが好きだったかを話したことがない。
「あぁ、それで、ラークは前世の素性を隠したがっていたのかもね。父親としての彼は、娘の目から見れば、優しくて良い父だったけど、乙女ゲームの大商人サンサンって、ちょっとクズだもんね」
(セイラさん……)
「そうなの? 私は領主キャラばかりを選んでいたわ。あっ! この国を建国することになるキャラもプレイしたわね。私のお爺様かしら?」
「へぇ、そう考えると不思議な縁ね。あっ、領主を目指すキャラは、たくさんいたけど、成功する人は、みんな金髪じゃなかった?」
「そうね、みんな金髪だったかも。『創世の書』の領主キャラの領地で、今も国や領地が残っている所は、他にあるかしら」
カシスは、二人の会話を聞きながら、頭の中で考えていた。領主を目指す攻略キャラは多くて、すぐに名前は出てこない。それにカシスが、手をつけなかったキャラも少なくない。
(あっ! ガッシュ領も?)
カシスの髪色は、黒に近い茶髪だが、亡き祖父が、落ち着いた金髪だったことを思い出した。
「カシスさん、私、すごいことを発見したかもしれないわ」
「ガッシュ領主も、攻略キャラだったということですか? 私の祖父は、暗い金髪でした」
カシスはそう返したが、セイラの表情には笑みがない。
「セイラ、どうしたの?」
王女がそう尋ねると、セイラは、以前ラークがカシスにした鏡の話を始めた。石の配置に関して、カシスの記憶が役立ったことも付け加え、これが終焉の先へ進む方法かもしれないと話した。
「鏡? 終焉で、魔女が壊す骨董品のことかしら?」
「ラークちゃんは覚えてるのね。私は全然覚えてないわ。その骨董品のような鏡に、埋め込む石が発見された場所は、その国や領地なのよ」
「えっ? じゃあ、金髪の攻略キャラを全部思い出さないといけないの? カシスの出番よっ!」
(いや、無理です……)
王女の無茶振りに、カシスは苦笑いを浮かべた。
「ラークちゃん、その必要はないわ。5つの石を探さなきゃいけないのだけど、赤、青、白は、すでに入手されているの。こないだの王命ミッションでは、4つ目の黒が発見されたよ」
「王命ミッションで見つかったの?」
「あー、話し方を間違えたわ。レッドボックスが雑な捜索をして、黒い石を見つけたときに、ちゃんと魔物を始末しなかったせいで、王命ミッションが出されるほどのスタンピードが発生したのよ」
「赤の箱団ね。セイラ、あまりボックスという言葉を出さない方がいいわ」
(知らないのかな)
カシスの予想通り、王女は、セイラと親しいが、彼女がブルーボックスのメンバーだということは知らない。
「そうね、気をつけるわ」
「それで、なぜ、カシスの記憶を辿らなくていいの? 5つの石を集めるんでしょ。あと一つの所在は、わかっているの?」
王女の問いに、セイラは肯定とも否定とも受け取れるような、曖昧な笑みを浮かべた。
「あと一つは紫なの。その場所は、これまでに発見された記録がないわ。石は、周りの色を吸収する魔石だから、紫色の物がある場所を、あらゆる国で探していたけどね」
(あとは、紫なのね)
「じゃあ、ダメじゃない」
「それが、ダメじゃないのよ。一番最近見つかった黒い石は、王都に近い北の山の漆黒の洞窟でしょ? 他の3つも、金髪の領主や王がいる領地や都に近い場所ばかりなのよ」
「ということは、紫色はカシスのとこ?」
「偶然の一致かもしれないわ。だけど、探してみる価値はあるはずよ」
二人は、カシスの顔を真っ直ぐに見つめていた。カシスは頭の中で、エンディング画面を必死に思い出している。
「乙女ゲームのエンディングで、魔女の高笑いとガラスが割れる音、そして、バッドエンドの音楽……そのストーリーに登場する魔女が、鏡を叩き割っていましたよね」
カシスがそう話すと、二人は同時に首を傾げた。
「カシス、それは覚えてないわ」
「5つのシーンのどれかがいつも行けなくて、道化師がバツをつけるんです。どれが、どの色かはわからないですが、炎の中とか暗い洞窟とか……」
「カシスさん、その中に、ガッシュ領はある?」
「ガッシュ領には絶対にない場所は、3つわかります。あとの2つは、どこにでもありそうな草原と、炎に包まれたシーンです」
「その炎は違うわ。一番見つけやすい赤い石は、火山にあるのよ。ということは、ガッシュ領の草原ね!」
(草原……)
「草原なんて、限られた場所にしかないから、すぐに見つかるんじゃない? 紫色の草原でしょ」
「ラークちゃん、草原は普通は緑色よ。それに、ガッシュ領は農業が盛んだったわよね?」
「ハッ! そうだったわ。ガッシュ領は、草原や畑だらけだったわね。草原や畑に紫色の石が埋まっているなら、探せないわ」
二人の表情が、一気に暗くなっていく。
だがカシスにも、紫色の石がどこにあるかなんて、想像もつかない。
「仕方ないわね。ラークちゃん、明日以降でカシスさんを借りられる日はある? 来月末の秋の感謝祭までに、手掛かりだけでも見つけたいの」
「ちょうど良かったわ。私達、10日ほど休むことに決めていたのよ。ラークさんも巻き込めないかしら」
「もちろん、巻き込むわよ。任せて!」




