66、女子会にて
「ラークちゃん、カシスさん、個室を予約してあるわよ〜」
王宮から、カシスの足で5分ほどの距離にあった鍋屋が、数日前に改装オープンした。
セイラは、王立大学校の基礎商業学講師という肩書きを使って、王女に授業のアイデアを伺いたいという理由を付け、王家に手紙を送っていた。
店には長い行列ができていたが、セイラは店頭で待っていた。そして二人の姿を見つけると、個室へと案内する。個室には室料がかかるため、別の受付が用意されていた。行列に並ぶ人達にも睨まれなくて済みそうだと、カシスは感心していた。
「セイラ、お招きありがとう。この距離なら、適度な散歩になるわね。いい場所だわ」
「そうでしょ? 今日のカシスさんは女の子なのね。女性の姿をしているのは、初めて見たわ。ラークちゃんは、男の子ね」
「私は、カシスの弟だからねっ。そそ、入学式の日にね、カシスは普通に制服を着ていたのに、男の子と間違われてたわ」
(言うと思った……)
カシスが不機嫌な表情を浮かべると、王女はケラケラと笑っている。
「どういうこと? 王立大学校って、制服は男女同じよね? 学者風のローブでしょう?」
「そうそう。男女同じなのに、上級生の女の子から、カッコいいって言われてたわ。ほら、今もまた不機嫌な顔をしてるでしょ」
「カシスさんは、私より背が高いもんね。紺色のローブを身につけると、確かにカッコいいわ」
「ふふっ、カシスのことを男の子だと思って、授業中にチラチラ見ている女の子もたくさんいるの」
「へぇ〜、それは面白いわね」
「でしょでしょ? お兄様も、毎日笑ってるのよ」
カシスは、王女が喜んでいるのはスグリット王子が笑うからだと、思っていた。だが、実際には、王女自身も楽しいらしい。今も男の子の服を着て変装している王女は、カシスがカッコいいと言われることが誇らしい様子。
「カッコいいといえば、ジョセフさんもカッコよかったわね。カシスさんと並ぶと、あまり身長差はなかったけど」
(嫌な予感……)
カシスは、運ばれてきたランチセットを、無言で食べ進める。王女より先に食べるのは、念のために毒見をするという意味もあるが、王女が好まない味ではないかを確認するためだ。
「確かに、カシスの幼なじみはカッコいいわね。何度か同じ授業を受けたけど、ジョセフさんは、たくさんの女の子に囲まれていたわ。カシスには、私が近くにいるから、誰も近寄ってこなかったね。残念だわ」
「あはは、残念って、なぁに? やはり、ジョセフさんはモテるのね」
すると王女は、ニッと口角を上げた。悪役令嬢ファルメリア・サフスのようだと、カシスがいつも思っている笑い方だ。
「ねぇ、セイラ。見学会について来てくれたときのことなんだけど、もし私と同じことを考えていたら、組まない?」
「ん? その流れって、カシスさんに関係のあること?」
「ええ、もちろんよ」
ゴホゴホ
カシスは、食べていたパンが喉につまり、慌てて紅茶を飲んだ。
「あら、カシスさん、大丈夫? 食べにくいパンだったかな」
「違うわ。カシスは動揺したのよ」
「あぁ、なるほどね。もしかして、ラークのことかな? 私は、ラークがカシスさんに片思い中だと思ってるんだけど」
(ええっ!?)
「まぁっ! そうなの? まぁっ!! カシスっ」
王女は、はしゃいでいる。手をバタバタさせ、なぜか王女の顔が赤い。
「いや、でも……」
「カシスっ、でもじゃないわよっ! セイラ、どういうところでそう思ったのか、教えてくれるかしら」
「そうねぇ。なんだか、ラークの行動がおかしいのよ。私には知られないように、コソコソしているというか……」
(あっ、恋人だったから)
「セイラに知られないように? セイラって、ラークさんと随分と親しいのね。もしかして隠し子だったりする?」
まさかの王女の爆弾発言に、カシスは顔をあげた。
「ちょっと、ラークちゃん! 私は、あんな大きな子がいるほどの歳じゃないわよ。逆よ、逆!」
「逆って、何? どういうこと?」
「どうしようかな。ラークは隠したいみたいなのよね。でも、カシスさんも変な勘違いをしてるし、隠すようなことじゃないと思うんだけど。あっ、ラークちゃん、料理が冷めちゃうわよ」
セイラは、そこで口を閉じた。
話の続きを聞きたい王女は、急いで食べ始める。こういうところを、カシスはいつもなら可愛いと思って癒されていたが、今日は『逆』が何かを考えていて、その余裕がない。
二人の様子を見ていたセイラは、フッと笑みを浮かべると、二人に気づかれない隙に、淡い光を放った。
『ラーク、今、女子会をしてるんだけど』
『は? 俺は執務中だ。急用か?』
『あのねー、ハイかイエスで答えて欲しいんだけど、二人に話すわよ?』
『はい? 何の話だ?』
『ハイって言ったわね。ありがと。じゃあね〜』
『おい待て、じゃあね〜じゃねぇだろ。何の話だ?』
『ラークの前世の話よ。だって、カシスさんは私が恋人だったって誤解してるし、妹ちゃんは、私の隠し子だとか言ってるんだもん』
『ちょ、待て……』
セイラは、念話を強制的にカットした。防御結界のある個室には、外からの干渉は難しく、ラークからの念話は弾かれた。
「セイラ、冷めないうちに食べ終わったわっ」
王女のキラッキラな目には、セイラも敵わないらしい。
「デザートが来るわよ〜」
「その前に、逆って何?」
カシスも、セイラの顔を真っ直ぐに見る。
「ふふっ、ラークは、私の父親だったのよ。私が12歳のときに、前世の彼は亡くなったけどね」
「ええっ! まさかの親子なの?」
目を丸くする王女。だが、カシスは別の意味で驚いていた。ラークの前世が、乙女ゲームに登場するキャラだったからだ。
「大商人サンサン……」




