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65、あっという間に

 王立大学校の入学式の日がやってきた。


(緊張する〜)


 カシスは制服に身を包み、王女の朝食時間より先に、朝食を食べた。今日からは、今までの慣れた日常とはガラリと変わる。名門大学校の学生になるだけでも不安なカシスだが、その上、王女の専属執事として、王女を守る役割もある。


 一方で、王女は、のんびりとしていた。前世で卒業した学校だから、気持ちにも余裕がある様子。



「カシス、何をピリピリしているの? 往復は馬車だから、道に迷う心配はないわよ」


 王女は、いつもよりゆっくり朝食を食べながら、カシスに尋ねた。


「名門大学校ですし、外でファファリア様をお守りするのは初めてのことですから、緊張しています」


 クルッと振り返った王女は、首を傾げた。


「カシスには、その制服の色は似合わないわね。私も好きじゃないわ。さっさと2年生の制服にするわよ」


(はい?)


 カシスは、王女が何を言っているのか理解に苦しむ。紺色の魔導ローブのような制服を、カシスは気に入っていた。それに、2年生の制服に関する知識がないカシスは、王女が何を言いたいのか、わからない。



「ファファリア様、2年生の制服というのは?」


「青色よ。3年生の水色は汚れが目立つから、汚れが付着しない加工が必須ね。さらにその上の課程に進むと、4年生が紫色、5年生が赤色、6年生は白色よ」


(学年ごとに色が違うの?)


「じゃあ、毎年、制服を作り替えないといけないのですね」


「カシスは何を言っているの? 色くらい服屋がすぐに変えるわよ。私、2年生の青色の方が好きなの」


「は、はぁ。それは、来年が楽しみですね」


 カシスがそう返すと、紅茶を飲んでいた王女は、ガシャンと乱暴にカップを置いた。


「来年まで紺色だなんて、冗談じゃないわ。毎月の月末には試験を受けられるから、カシス、来月末には1年生の試験にすべて合格するわよ!」


「えっ……私には無理すぎますよ。ファファリア様は卒業生だから賢いですけど、私には未知の世界ですよ」


「試験なんて、ちょろいから大丈夫よ。今月末も、授業のあったものは試験を受けるわよ! 1回以上出席しないと試験の受験条件を満たさないのは、悪しき慣習よね」


(いや、ちょっと……)


 王女がいつも可愛らしい服装を好んでいることに気づいたカシスは、大きなため息を吐く。紺色のローブは、クールで賢そうに見えるが、王女は暗い色の服は好まない。



 ◇◇◇



「王女ファファリア様だ!」


 馬車が校門前に着くと、通学してきた学生達がすぐに気づいた。王家の紋章が刻まれているためだろう。


「本当に入学されたのか。なんて可愛らしいんだ」


 カシスが先に降り、王女をエスコートすると、あちこちから歓声があがる。


「あの男の人も制服を着ているわ。王女様の執事かしら。カッコいいね」


(男装してないよ?)


 カシスが不機嫌になったことに気づいた王女は、ふふっと笑みをこぼした。するとまた、歓声が起こる。


 ここに来る前に、王女が制服の色の話をしていたから、カシスは学生の学年がわかった。校門前にいたのは、大半が水色の制服を着た3年生のようだ。



 王女が前を向くと、学生達はサッと道を譲る。カシスは、自分までが王族になったかのような錯覚を起こし、一瞬、めまいを感じた。


(えっ?)


 カシスは、王女の後ろを歩くつもりだったが、王女の小さな手が、カシスの手を掴んだ。


「カシス、何をボーっとしているの? 早く行くわよ」


「は、はい。ファファリア様」


 王女がカシスと手を繋ぐと、周りにいた学生達からは、また、キャーキャーと歓声が飛び交う。執事と手を繋いでトコトコと歩く王女の可愛さに、心をガッツリ掴まれた様子。


(あっ、結界かも)


 何かがコツンと当たる音が聞こえた。音のした方には、小石が転がるのが見えた。王女は常に狙われていることを思い出し、カシスは警戒を強める。


 王女がカシスと手を繋いだのは、カシスにも防御の結界を発動するためだ。それに気づいたカシスは、自分が逆に守られている気がして、少し複雑な気分になった。




 ◇◆◇◆◇




 それから、あっという間に、時間が流れた。


 入学式の翌日から授業が始まったが、大学のような単位制になっていると、カシスは思った。


 王女は、受講できる授業をすべて1回ずつ出席した。カシスも当然、王女に合わせていたが、ほとんどの授業は、出席した授業中に教科書を読み終えることができるほど、簡易なものだった。


 そして、入学した月の月末に、カシスは王女と共に試験を受けた。試験の受験者は、授業に出席する人数と変わらないほど多かった。



「ちょっと、カシスっ! どうして12個すべて合格してるの? 私は10個しか合格しなかったわっ」


 試験を受けた日の夜に、もう合否通知が届いていた。魔道具を使って管理するため、このスピードが実現できるようだ。


「私は、授業中に教科書をすべて読んでいたからでしょうか」


「なっ? そんな変人、聞いたことないわっ」


(変人って……)


「ファファリア、新規転生者と張り合うのは、疲れるだけだぞ。俺なんて、王立大学校にまだ入学してないからな」


「お兄様! 私は卒業生ですのよ? まぁ、いいわ。20個合格しないと、2年生にはなれないもの。カシスっ、来月が勝負よっ!」


(ふふっ、かわいい)


 鼻にクリームをつけて、カシスをビシッと指差す王女。カシスは、タオルでそっと王女の鼻のクリームを拭くと、口を開く。


「来月も油断しないように、明日からも頑張ります」


「何を言ってるの? 明日から10日ほど休むわ。セイラから、昼食のお誘いが来ているもの」


「えっ? もう、サボるんですか」


 まだ、試験を含めて9日しか、通学していない。


「当たり前でしょ。そのために試験を受けたのよ」


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