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64、待ち構えていた二人

「カシスっ! 遅いじゃないっ」


(やっぱりね)


 カシスが夕食後、王女の部屋へ行くと、いつものまるテーブルの上は、綺麗に片付けられていた。カシスの予想通り、待ち構えられていた様子。


「ファファリア様、フルーツのパイをお持ちしました。スグリット王子、こんばんは」


「おう! カシスは、ケーキのときは遅くなるんじゃないか? ファファリア、クリームがたくさん乗ってるぞ」


「パイは食べにくいけど、クリームがあれば、飛び散ることはないかしら?」


「そりゃそうだろ。飛び散らないように、クリームを添えてあるんだぜ」


(よかった、ご機嫌ね)


 カシスは、執事長と話していたせいで、遅くなったと感じた。王女が待ち構えていることを予想して、今夜のデザートは、料理人にクリームを添えてもらったのだ。


「すぐに、紅茶を淹れますね」


「ええ、急いでねっ」


(ふふっ、かわいい)


 仲良し兄妹は、パイをボロボロにしない食べ方について、議論を始めた様子。



 紅茶を淹れ、取り皿を持って、まるテーブルに戻ると、スグリット王子の前には、パイの食べかすが少し落ちていた。涼しい顔をしているスグリット王子に反して、王女はクスクスと笑っている。


(ツッコミ待ちかな)


「あら? まだ、取り皿を用意してないのに、パイの一部が無くなっていますね」


 カシスが、スグリット王子の方を向いてそう言うと、王女のクスクスは、ケラケラに変わった。


「ファファリアが笑うから、カシスにバレたじゃないか」


「違いますわ。お兄様が、パイをボロボロとこぼしたから、カシスが気づいたのですわ」


「カシス! ファファリアも食べたんだぞ」


「そうなのですか? ファファリア様の前のテーブルは汚れてないので、全然、気づきませんでした」


「キャハハ、お兄様の負けですわ〜」


 王女は、足をバタバタさせて笑っている。こういうとこは4歳の普通の女の子らしいと、カシスは癒されていた。



 紅茶と取り皿を二人の席に置き、カシスは数歩さがった。だが、もう一つ用意されている椅子を、王女がポンポンと叩く。


「カシスは、ここに座りなさい。後ろに立っていたら、話しにくいじゃないの」


「かしこまりました」


 カシスは、王女の鼻についたクリームをそっと拭くと、用意されていた席に座る。



「カシスっ、お兄様に、今日のことをお話したのよ。やっぱり、お兄様も私と同じ意見だったわ」


 仲良し兄妹は、互いに頷き合っている。


「やはり、遅れて手紙が届いたのは、何かの罠だったのでしょうか」


 カシスがそう尋ねると、仲良し兄妹は同時に首を傾げた。王女は、その話を完全に忘れていた様子。


「今日行ったから、罠だったとしても回避できたわ。そんなことは、どうでも良いの。Aランク冒険者のラークさんに会えて嬉しかったわ。私がイメージしていたタイプとは少し違ったけど」


(やはり、その話なのね)


「カシスの幼なじみと会ったことで、よりハッキリしたみたいだな。ジョセフだったか? スクルト伯爵家の者なら、魔法大学校に行けば首席も狙えるはずだ。それを捨てて、王立大学校に入学するなんてな」


「スグリット王子、ジョセフのお兄さんは魔法大学校を優秀な成績で卒業されています。やはりスクルト家は、魔術の能力が高いのですね」


「あぁ、父上や母上が他の領地に行くときには、スクルト伯爵が同行してるぞ。防御魔法には特に優れているからな」


「魔法大学校を首席で卒業すると、何か良いことがあるのでしょうか」


「あるに決まってるだろ。爵位を与えられる可能性がある。スクルト家は代々、当主だけじゃなくてその兄弟姉妹も、何かの爵位をもらっているらしいぞ」


「なるほど、スクルト伯爵家は、すごいのですね」


 カシスは、王女にジッと顔を見られていることに気づいた。王女は、カシスがジョセフのことをどう思っているかも、探っている様子。



「お兄様、カシスの話術に騙されてはいけませんわ。話を本題に戻しますわよっ」


「おおっ、そうだな。俺は、スクルト家の話をもっと語りたくなっていた。これは、カシスの話術なのか!」


(いやいや……)


「カシスが、ニヤニヤしていますわっ。カシスの話術ですわっ!」


「気をつけないとな。新規転生者が賢いのを忘れていたぞ。カシス、Aランク冒険者のラークの話に戻すからな」


 なぜか鼻息の荒いスグリット王子に、カシスは苦笑いをしていた。彼が素直だから、妹のペースに乗せられるのだろう。



「ラークさんは、ジョセフさんに嫉妬していたわよ。カシスは、ジョセフさんのことはどう思っているの?」


 王女は、ストレートにカシスに尋ねた。カシスの表情の変化を見逃さないように、顔をジッと見ている。


「嫉妬? ラークさんは、次の予定があって急いでいたように見えましたよ。ジョセフは、初等学校の頃からの友達ですが、特別な感情はないです。嘘か本当かわからないようなことばかり言うので、ちょっと困っていますが」


「何? その話を詳しく聞かせてっ」


 カシスは、キラッキラな王女の目に耐え切れず、ジョセフが、恋人探しに忙しそうだという話をした。そして、カシス自身も、その候補の一人かもしれないと伝えた。


 本当は、ジョセフはガッシュ家に婿入りしてもいいと言っていたが、カシスは冗談だと思っているため、王女には話さなかった。



「カシスを追って王立大学校に来たのなら、絶対に狙ってるぜ。スクルト伯爵家の跡継ぎじゃないなら、ジョセフは、もっと上の地位の貴族の令嬢でも選べる立場だぞ」


「しかもジョセフさんは、少し背が低いけど、容姿端麗だったわ。セイラさんも言ってたけど、モテるわよ。だから、Aランク冒険者のラークさんが嫉妬していたんだわ。きっと、ラークさんは、カシスのことが好きなのよっ。キャーッ」


 仲良し兄妹は、キラッキラな目をして、カシスに笑顔を向けていた。


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