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62、ラークを観察する二人

「さっきのジョセフさんって、スクルト伯爵家の坊ちゃんよね? 弟さんの方かな?」


「はい、ジョセフは、俺は次男だから自由にしていいんだと、よく言ってますよ」


 校内の見学を再開すると、セイラはカシスに、さっき会ったジョセフのことを話し始めた。


「あのタイプは、モテるでしょうね。見た目もカッコいいし、表情が豊かで話術も得意でしょう。スクルト伯爵家は、使用人も優秀な魔導士が多いわ。彼が後継ぎじゃないなら、婚姻の申込みも多そうね」


「ジョセフは、初等学校の頃から異常にモテてましたよ。だから、言い寄られることには、嫌気がさしているみたいです」


「へぇ、私の目には、彼がカシスさんのことを気に入っているように、映っていたけど」


(えっ!? あ、話したのね)


 セイラの前では、カシスはずっと男装している。だが鍋屋で、女の子なのかと尋ねられたことを思い出した。それに、今回の王女の護衛ミッションで気づかない冒険者はいないと、カシスは考えた。王女が学校に通うための専属執事が、男性であるわけがない。



「セイラさんは、私の性別をご存知なんですね。ラークさんから、聞いたんですか?」


「ん〜? どうだったかしら? 酒場ベリーズで聞いたような気もするわね」


「なるほど。酒場ベリーズに以前、制服の件で行ったときに、服屋の店員さんに見抜かれたんですよ」


「あぁ、服飾店リンドウのオバサンね。見ただけで詳細なサイズもわかるみたいだもんね」


 セイラは、ラークの顔色をチラチラと見ながら、カシスと話していた。また王女も、ジッとラークを観察している。


 前世の娘と今の妹の視線に、ラークは当然気づいている。そして、カシスの幼なじみのジョセフが、客観的に見て、良さそうな人物だったことに、イラつきを感じる自分の気持ちにも気づいていた。


 ラークは、カシスには素性を明かしたくない。だが、カシスが婚姻を意識するようになると、間違いなく、素性不明なAランク冒険者のラークよりも、スクルト伯爵家の次男の方を選ぶだろうと考えた。


 彼は、自分の中で生まれた嫉妬心に、少し新鮮な感覚を抱いていた。それと同時に、魔術に優れたスクルト家のジョセフが、わざわざ王立大学校を選んだ理由は、セイラが指摘したように、彼がカシスと同じ学校に通いたいからだと思った。


 前世では乙女ゲームの主要キャラだったラークだが、妙に焦り始めた自分の感情を、どうすれば良いかわからなくなっていた。5歳で前世の記憶が戻った後、他者との関わりを避けていた弊害だろうか。



「これで、だいたい見たかしら? ラークちゃん、この後のご予定は?」


「夕食の時間までは、特にないわ。と言っても、私の夕食時間は、早いのだけど」


 セイラは王女に予定を確認すると、柱時計に視線を移す。そして、カシスの表情も見た後に口を開く。


「では、今日はもう難しいわね。ラークちゃんと、もっとおしゃべりしたかったんだけど。明日は暇かしら? よかったら、昼食をご一緒しない?」


 セイラの申し出に、カシスは慌てた。王女が外出するには、国王の許可が必要なためだ。連日の外出を国王が認めるとは思えない。


「そうね。私もセイラとおしゃべりしたいけど、入学式の前に体調を崩すわけにはいかないから、外出は難しいわ」


「もしかして、身体が弱いの?」


「ええ、3歳の誕生日の後に熱病を患ったから、お父様が許可してくださらないと思うわ。毒を盛られたという噂もあるの」


「それなら、入学後にしましょう。その方が許可してもらいやすいわね。それまでに、王宮の近くにある店を改装してもらうわ」


 セイラのとんでもない発言に、ラークは眉をしかめた。鍋屋をセイラが勝手に改装すると、ラークの跡を継いでいる兄のクルスが怒るだろう。



「セイラ、そんなことを宣言して良いのか?」


「あら? ラークが認めてくれたら、何の問題もないわよ。王宮の近くの鍋屋は、少し古くなっているもの」


 セイラが即座に反論したことに、ラークは焦った。カシスは口出ししないが、不思議そうな顔をしている。そして、同じく不思議そうな顔をした王女が、口を開く。


「ラークさんは、鍋屋の常連なのかしら? 確かに、王宮の近くの鍋屋は、私の前世の頃から変わらない外観だと思うわ」


「いや……説明が難しいですね」


 妹にジッと見られて、素性がバレるのではないかと慌てるラーク。おそらく、王女がサーチ魔法を使えば、嘘がバレてしまうだろう。


 そんなラークの様子を見て、ニヤニヤするセイラ。だが、魔導士ケインに小突かれて、コホンと咳払いをした。


「ラークちゃん、そのことも含めて、今度、女子会をしましょう。カシスさんもね」


「わかったわ。女子会って魅惑的な響きね」


(ふふっ、キラキラしてる)


 カシスは、王女が楽しそうな表情をしていることが嬉しかった。王女がほぼ一年間ずっと軟禁状態だったことを、カシスは気にしていたためだ。



「それじゃあ、帰りましょうか」


 セイラはそう言うと、パチンと指を弾いた。すると、転移魔法の光に包まれ、王宮の門へと移動した。




 ◇◇◇



「セイラ、ラークさん、ケインさん、ありがとうね。報酬は、冒険者ギルドで受け取ってちょうだい」


「こちらこそ、またのご指名をお待ちしています」


 王女とカシスが王宮へ入っていくのを見届けると、ラークは、セイラの頭をコツンと小突く。



「おまえなー」


「ふふっ、楽しかったわ〜。ラーク、改装していいよね? この距離なら、ラークちゃんは歩けるよ」


「はぁ、ったく、勝手にしろ」


 ラークはそう言うと、スッと姿を消した。セイラのニヤニヤ顔に耐えきれなくなったらしい。


「ケインさん、終了報告に行くよ」


 そう言うと、セイラはまたパチンと指を弾いた。


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