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6、ロザリーがいっぱい

「カシスさん、まずは服屋に行きましょう」


 宿屋の大きな食堂を出たカシスは、派手な金髪の女性と一緒に、交易都市クースの中心街を歩いていた。


「はい。あの、スグリット王子やお迎えの方は……」


「彼らは、宿屋で仮眠を取るみたいですよ。真夜中に出発されるそうですから、私達も早く用事を済ませてしまいましょう。その角を左です」


 彼女は、カシスに、自己紹介をしていない。王都からの迎えのラークも、何も言わなかった。


(別人かしら? あっ!)


 角を曲がった直後、その通りを歩く人達の姿に、カシスは、強烈な違和感を感じた。


(ロザリーが、いっぱい居るわ)



 カシスは、10歳の時に、この交易都市クースで儀式を受けた。そして前世の記憶が戻り、かつて彼女がプレイしていた『創世のループ』という乙女ゲームの世界に転生したことを知った。


 乙女ゲーム『創世のループ』は人気ゲームで、『創世の書』『転換の書』『終焉の書』の三部作になっていた。


 彼女は、10歳の時の儀式の後、今が『転換の書』のストーリーの中だということを知った。登場人物が、街の中に実在することも教えられたが、カシス・ガッシュという男爵令嬢はゲームに登場しないことから、次第に気にしなくなっていった。


 今、そのことを一気に思い出し、大混乱中のカシス。


 乙女ゲームで見ていた二次元の姿と実物では、少し印象が異なる様子。通りを歩く人達も、全く同じ顔の人はいない。だが、大混乱中のカシスの目には、すれ違う金髪の女性のほとんどが、ロザリーに見えていた。



「カシスさん、どうしました? こちらですよ」


「あ、はい」


 高級感のある服屋に入っていく彼女の後ろから、カシスも慌ててついて行くと、店内は、さらにロザリー密度が高かった。


(どうなっているの?)



「いらっしゃいませ。採寸でしょうか」


「ええ。王宮務めの執事でお願いしますわ」


(えっ? まだ……)


 王女ファファリアの専属執事にという王家からの依頼で、カシスはここまで来たが、まだ、正式に採用するとは言われていない。


 戸惑うカシスの意思に関係なく、あらかじめ決められていたかのように、テキパキと採寸が進む。


 店内には、カシスと同じように、戸惑う女性の姿が何人も見えた。そして、彼女達が戸惑っている間に、すべてが完了している。



 ◇◇◇



「カシスさん、次は、身分証の再発行に行きますね」


「採寸だけで良いのですか?」


「大丈夫ですよ。身分証の再発行中に、必要な物が整います。冒険者登録証と商人登録証の、どちらが良いでしょうか」


「自由に選べるのですか?」


「おや? あぁ、カシスさんは、新規転生者でしたか。失礼致しました。私は、フルールニア王国の王家の雑務を請け負っているロザリーと申します。よろしくお願いしますね」


(やっぱり、ロザリーだわ)


「ロザリーさん、こちらこそ、よろしくお願いします」



「私は新規転生者の対応の経験がないのですが……えーっと、カシスさんは、10歳の時に、この交易都市クースで前世の記憶を取り戻しましたね?」


 ロザリーは、突然、セリフを棒読みするような話し方に変わった。


(あれ? あ、そっか)


 カシスは、彼女が役割を演じ始めたのだと悟った。乙女ゲームの登場人物は、時々、決められたセリフを話すことがあると、10歳の儀式の後に説明を受けている。


「はい。儀式の時に、前世の記憶を取り戻しました」


「儀式の後に、1週間ほど、この世界に関する書物を読んだり、授業を受けたりしたはずですが、創世、転換、終焉のいずれかの書物を読まれましたか?」


「私は、3つとも読んでいますが、身分証に関しては何も記憶していません」


 どの書物も、ゲームのストーリーが書かれているだけだったから、カシスは、前世のゲームではスキップして読まなかった話も、興味深く読んだ記憶があった。


(ん? 何?)


 ロザリーは、何かを考え込んでいる様子。カシスは、聞き流していたが、カシスが新規転生者であることは、この世界の住人にとっては、憂慮ゆうりょすべき事である。


 この世界では、魂がループしている。


 すなわち、亡くなった人は、その記憶が消えることなく、この世界に転生する。ただ、記憶が戻るタイミングは、通常は10歳の儀式のときだった。


 一方で、新規転生者は、他の異世界から来た者を指している。新規転生者の素性はバラバラで、この世界にとって害となることも少なくない。



「あ、カシスさん、失礼しました。3つすべてをご存知だという新規転生者は……過去に居たのかもしれませんが、情報が残ってなくて、固まってしまいました」


「いえ、大丈夫ですよ」


「えーっと、身分証の件でしたよね。創世を読まれた方には商人登録証を、そして転換と終焉を読まれた方には冒険者登録証をオススメしています。どうされますか?」


(今は、転換のストーリー中よね?)


「じゃあ、冒険者登録証でお願いします」


「かしこまりました。冒険者ギルドへ参りましょう」



 ◇◇◇



 ロザリーは、カシスを、10歳の儀式が行われる聖堂に隣接する、冒険者ギルドへと連れて行った。


「あっ、ここで登録した記憶があります」


「では、手早く済ませてしまいましょう」


 ロザリーは何かを見せると、たくさんの人が並ぶ列の横を通り過ぎ、カシスを事務所らしき場所へと案内した。


(順番を無視したのね)



「再発行をお願いします。再測定が必要なら、後日、王都で受けてもらいますので、冒険者登録証の交付のみで結構です」


「ロザリーか。急ぎだな。お嬢さん、こちらに触れてくれ」


 カシスは、10歳の時にも触れた丸い玉に、手を置いた。



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