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58、遅れて届いた手紙

「お兄様たちは、まだ戻られないの?」


 カシスがシルバーカードになって数日後の朝、王女は朝食の後、食事のですれ違ったベテラン執事に声をかけた。


 第二王子に仕えている執事だとカシスは思っていたが、彼は、王子王女の4人と王妃を繋ぐ連絡係のような役割を担っている。



「ファファリア様、第一王子と第二王子は、今夜には戻られる予定です」


「スグリットお兄様は、お兄様たちは昨夜に戻ると聞いたと、おっしゃっていたわ。何かのトラブルかしら」


(ラークさんもだよね)



 昨日、カシスは昼食を食べに、早めの時間に酒場ベリーズに行った。背が伸びた王女の制服の調整を依頼する目的もあったが、ラークが来たかを聞きたかったので、店員が忙しくない時間を選んだ。


 サンサンのチーズデザートの最終日だったため、カシスが女性であることを知る店員は、カシスがデザート目当てで来たと思っていたようだ。


 商人ギルドのミッションで一緒だった何人かが、ラークを知っているらしい。しかし、皆、王命ミッション後には姿を見ていないと答えた。


 店長は、カシスに心配はいらないと言って、笑っていた。ラークが素性を隠しているから話せないが、アスナログス国の混血種に負けることはないという。


 カシスは、ラークが、ブルーボックスのメンバーであることを知っている。そのため、素性を隠しているというのは、そのことだろうと考えた。


 だが店長は、ラークがブルーボックスのメンバーであることは知らない。彼は、ラークの前世ラーク・サンサンだった頃からの知り合いで、今のラークが、第二王子ウィルラークであることを知っていた。



 ◇◇◇



 王女を部屋に送り届けると、カシスは、扉番の警備兵に宛名のない白い封筒を渡された。


「これは、ファファリア様宛ての手紙でしょうか」


「わかりません。別の手紙に紛れていたようです。封筒は、使用人が用意した物でしょう」


「ファファリア様、私が中を見ても構いませんか?」


「ええ、そうしてちょうだい。あっ、廊下で開封しなさいよ。気をつけてね」


(あっ、細工があるのか)


 スグリット王子ほどではないが、王女も何者かに命を狙われたことがある。3歳の誕生日直後の謎の高熱も、何かの毒を受けたのだと、使用人の間で噂されていた。


 カシスは、注意深く、中身を確認する。


(普通の手紙だわ)



「ファファリア様、王立大学校からの手紙のようです。入学式の5日前までに、学校内の見学に来るようにと書かれています。広い校内で迷子になる新入生が多いためだそうです」


「入学式はいつだったかしら?」


「月光の10日です」


「ちょっと待って。今日は、4日じゃないの?」


(あっ、確かに)


「では、明日までに、学校内の見学に……」


 王女は、カシスの手から手紙を奪い取ると、何かの魔法を使った。そして、可愛らしいため息を吐く。


「この手紙は、わざとギリギリに届くように仕組まれたのよ。幻術の跡が残っているわ。私の朝食後に届くということは、私が明日しか行けないように仕組んだのね」


「今日、私はご一緒できますよ?」


「カシス、王立大学校へ行くには馬車を使うのよ? 今から手配すると、夕方になってしまうもの」


(確かに……)


 王女は、熱病を患って以降、ほとんど外出したことはない。国王が、王女の身体を心配して、外出を禁じている。そのため、通学には、馬車を利用する予定になっていた。



「では、ファファリア様、明日にしましょう。私が馬車を手配しておきます」


「嫌よ!」


(あらら)


 警備兵がいる前だからか、王女は、完全に4歳の反抗期の女の子になっている。プイッと膨れっ面をする可愛らしい表情に、カシスは癒されていた。


「えーっと、では、お部屋の中で相談しましょう」


「嫌よっ!」


(あらあら)


 ツーンと顔を逸らす王女。カシスは、頭をナデナデしたい衝動を必死にこらえる。カシスの目には、こんなにも可愛く映っているが、警備兵たちは、カシスに同情的な視線を向けていた。


「ファファリア様、見学会は辞めておきましょうか。私が校内図をもらってきます」


「カシスだけで行くの?」


「はい、徒歩で行ける距離ですから、街歩きのついでに行ってきます。制服ではなく、私服で良いみたいですし」


「そんなの、ズルいじゃないのっ」


「でも、馬車の手配が夕方になるなら、学校が閉まってしまいそうですし」


「私も行くわっ!」


「ファファリア様が歩いていける距離じゃないですよ」


(あら?)


 カシスは、王女がニヤッと口角を上げたことに気づいた。まるで、ファルメリア・サフスのようだと思ったカシス。幼い王女には、前世の影響が強く残っている。



「それなら、カシスがお世話になったAランク冒険者を呼び出しましょう。すぐに、冒険者ギルドに護衛依頼をすればいいわ」


「えっ? あー、彼は今、一緒に王命ミッションで臨時パーティを組んだ魔導士さんと、アスナログス国に行っているそうです」


「なっ!? 臨時パーティのメンバーが全員、野蛮な国に行ってるの?」


「いえ、二人だけです。あとの二人は、こないだ酒場ベリーズに来てくれましたよ」


「そう、じゃあ、その二人でいいわ。アナタ、すぐに冒険者ギルドに依頼してちょうだい。カシスと一緒に王命ミッションの臨時パーティを組んだ冒険者なら誰でも何人でもいいから、すぐに来てほしいと伝えてくれるかしら」


「かしこまりました」


 扉番をしていた警備兵の一人が、渡り廊下の方へ走っていった。



「カシスは、すぐに私服に着替えなさい。私も着替えるわっ」


「はい、かしこまりました」


 カシスは、王女が楽しそうな顔をしていることに気づいた。ほぼ一年ぶりの外出だからかと軽く考え、カシスは自分専用の執事室へと急いだ。


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