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57、カシス、シルバーカードになる

 商人ギルドの三日間の仕事を終えた翌日、カシスは、王女の朝食後、護身用の短剣を装備して、冒険者ギルドへと向かった。


 カシスが酒場ベリーズの前を通ると、店の前を掃除していた店員が、にこやかな笑顔で挨拶をしてくれた。カシスも笑顔で軽く会釈する。


(ちょっと嬉しいかも)


 短い期間だったが、酒場ベリーズでの仕事は楽しかったと、カシスは振り返っていた。ただ、失言には注意しなければと、気を引き締める。



 ◇◇◇



「カシスさん、Cランク、シルバーカードにランクアップです。おめでとうございます」


「ありがとうございます。ホッとしました」


 職員から銀色のカードを受け取ると、カシスは、ラークやセイラに感謝の気持ちを伝えたいと思った。王命ミッションの報酬も入ったことで、お金には少し余裕がある。二人を酒場ベリーズに誘ってみようかとも考えていた。


(あっ、でも、居ないんだったかな)


 カシスは、ラークがケインと一緒にアスナログス国に行っていると、一昨日、セイラが話していたことを思い出した。


 アスナログス国がどこにあるのか、カシスは知らない。だが、第二王子と婚姻関係を結ぼうと、いろいろと画策しているらしいことは、使用人達の噂話からカシスは知っていた。魔術にけた者を望んでいるらしい。


(あと3年もないのに)


 今、すでに『終焉の書』に入っていることを知るカシスは、アスナログス国の中枢部には、この世界が3年以内に終焉を迎えることを知る人がいないのかと、不思議に思っていた。


 ただ、セイラ達が、終焉の先に行く手段を探していることも、カシスは知っている。ブルーボックスだけでなくレッドボックスも、宝石のような石を探していることを、カシスは思い出した。


(あとは何が足りないのかしら)


 カシスは、職員から商人ギルドのミッション報酬を受け取り、必要なサインをしながら、ぼんやりと考えていた。




「……ということで、よろしいでしょうか?」


(えっ? 何?)


「すみません。ボーっとしていました。もう一度お願いします」


 カシスはサインした書類を渡し、職員に問い返した。


「あー、あはは。書いているときに話してすみません。カシスさんへのお願いなんですけどね。新規転生者が集まるイベントがあるんですよ。フルールニア王国にいる新規転生者は、冒険者ギルドは11人、商人ギルドは95人の登録があるんですが、今年はフルールニア王国が開催地なので、全員に参加してもらいたいんですよ」


「新規転生者の集まるイベントですか? 私は、もう少ししたら、学校に行くんですが」


「大丈夫ですよー。秋の終わりの感謝祭の期間ですから、学校はお休みですし、王都での開催ですよ」


(秋の感謝祭?)


 カシスは、乙女ゲームの記憶を探した。カシスが一番最後に配信された『創世の書』をプレイしていた頃に、秋の感謝祭という名のプレイヤーのオフ会があったことを思い出した。


(でも、あれはリアルだから関係ないか)



「冒険者ギルドの登録者は、商人ギルドよりもかなり少ないのですね」


「あー、あはは。初期登録は、冒険者ギルドの方が多いんですが、再発行されるときに変更される方もいらっしゃるので」


(ん? 何か隠してる?)


 カシスは、一つの国に新規転生者が100人以上いることに、驚いた。だが、前世の記憶を持つのは、乙女ゲームのプレイヤーだった人だけだと、聞いた記憶がある。


 そして、新規転生者の数だけ、消滅する魂があるのだという話も聞いた。終焉で消滅する人は、炎に包まれる王都に多いと聞いたことも思い出し、カシスは胸が苦しくなった。だが、表情に出さないように気をつけて、口を開く。



「職員さん、そのイベントって、何をするんですか」


「いろいろですよー。新規転生者には魔力がないから、魔法を使う物はありませんが、秋の感謝祭の時期のお祭りの一つですから、楽しいと思いますよ」


「去年は何をしたんですか?」


「えーっと去年は、開催地がアスナログス国でしたので、武術大会や、魔石集め競争などがあったみたいです。アスナログス国は、武術大国ですからね」


「このギルドからも、たくさん参加されたんですか?」


「いえ、アスナログス国まで行くには、馬車だと何ヶ月もかかってしまうので、フルールニア王国からは、一部の人だけでした。アスナログス国には、常設の転移魔法陣がないので、近くの街道の宿場町に転移魔法で行って、そこからは、馬車で数日だったそうですよ」


(遠い国なのね)


「知らない国ですが……」


「あぁ、あの国は、いろいろとヤバい噂がありますからね。あまり関わりたくないですよねー」


「ヤバい噂?」


 カシスは、セイラも同じことを言っていたことが気になっていたため、つい、職員に尋ねてしまった。


「ええ、アスナログス国は、表面上は武術大国として有名で、多くの冒険者を引きつけていますけどね。混血種が多い国ですから、ヤバい噂だらけですよ。一方で、神の国だなんていう人もいますけどねー」


「混血種って何ですか?」


「ご存知ないですか? 人間と魔物の混血ですよ。魔力の高い人間を欲しがっているという噂もあります」


「魔力の高い人と結婚したがるんですか?」


「うーむ、まぁ、そういう人達もいるでしょうけど、あの国に行って帰ってこない魔導士は多いんです」


「ん? 移住してしまうのですか?」


「いえ、あの国に移住したい魔導士はいないと思いますよ。混血種に喰われちゃうって噂ですよー。魔力のない新規転生者が狙われることはありませんから、カシスさんは、安心ですけどね」


(嘘っ! ラークさん……)


 カシスは、ラークと双子の魔導士ケインがアスナログス国に行っていることを思い出し、手先が冷たくなるのを感じた。


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