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56、チーズデザート

 商人ギルドのミッションの三日目、カシスは今まで通り、開店前の店内の掃除をしていた。


(ほぼ同じ顔ね)


 今日は、商人ギルドからのミッション組は、全員が黒以外のシャツを着ている。昨日の教訓から学んだのだろう。


 そして、昨日も来ていたミッション組の人達は、カシスに対する態度が、明らかに昨日の開店前とは違う。カシスが、セイラと知り合いだということもあるが、セイラが現れる前に、率先して難癖をつける客に向かっていった姿を見ていたためだ。


 カシスは、自分の実力を超える評価をされている気がして、落ち着かなかった。だが、今日は最終日だから、あまり気にしすぎる必要もないと思っていた。



「今日も、昨日に引き続き、荒れた冒険者が来ると思うから、皆、毅然とした態度で頼むぜ。昨夜もかなり荒れたからな。今回のランクダウン者は、いつもより、かなり多いらしい」


 店長がそう言うと、ミッション組の人達の表情は暗くなった。今日はホール長も出勤している。


「それから、昨日、セイラさんから提案があったんだが、今日から数日間、昼食時には、鍋屋で有名なサンサングループのチーズデザートを、日替わりで、定食に付けることになった。セイラさんの知り合いの冒険者が、それを食べに来てくれるらしい」


(サンサンのチーズデザート?)


 それを聞いたミッション組の表情は、一気に明るくなった。セイラの知り合いには、高位冒険者が多いためだろう。


 カシスは、セイラがカシスを守るために、デザートのコラボという形で、この店に知り合いを投入しようとしているのだと思った。


(申し訳ないな)


 昨日の頭に直接響く声を思い出し、カシスは、ホールには出ない方が良さそうだと考えていた。



 ◇◇◇



「いらっしゃいませ。6名様ですね。身分証の提示ありがとうございます。8番に長テーブルの空きがあります」


(どうしてこうなるの)


 カシスは、扉の入り口での案内係の補佐を任された。慣れた客は、身分証を提示して入ってくる。店員ひとりでは厳しいため、その確認と案内を店長から頼まれたのだった。


 昼食のピーク時間は、目が回りそうなほど、忙しかった。店内全体の空き状況を常に見ていなくてはならない。店員は魔法を使って管理しているが、魔力のないカシスは、ひたすら目視と記憶力を駆使するしかなかった。



「カシスさん、すごい記憶力ですね」


 店内が満席になると、案内係は満席中の札を入り口に出し、ホッと息を吐いた。


「必死です」


「あはは、正確に出来ていましたよ。やはり、王宮務めの人は、優秀ですね」


「間違えなかったなら、よかったです」


 カシスは笑みを浮かべたが、ずっと警戒している。昨日も襲われたわけではないが、セイラの行動から、カシスが新規転生者と知られたことで、危険が迫っていたのだと理解していた。


(ほんと、油断していたわ)



「今日は、誰も暴れてないですね。カシスさんが、ここに立ってくれているからですよ」


 案内係の店員が、カシスの緊張を和らげるように笑顔を向けた。


「きっと、チーズデザートのおかげですよ。あの白いケーキは、美味しいですからね」


「あはは、確かに美味しいデザートで、笑顔が広がっているかな。今日のデザートは、サンサングループの直営店でも、開店直後に売り切れる人気商品らしいですよ」


「納得です。鍋屋で食べたときには驚きましたから」


 王命ミッションの最中に、鍋屋で、セイラがテーブル上を、デザートパレード状態にしていたとき、カシスもひと通り食べていた。前世のレアチーズケーキにそっくりな味に、カシスは驚いたのだった。



 客の入れ替わりが始まると、またカシスは忙しくなった。ホール長がいるためか、席を立った後のテーブルの片付けは素早く、そのことにもカシスは感心していた。


「カシスさん、今日は案内係?」


「あっ、はい。セイラさん、いらっしゃいませ。えっと、何名様ですか?」


 昼食のピークが過ぎ、空席が目立つようになってきた頃、セイラが何人かの知り合いを連れてきた。


「今は、えーっと、14人かな? まだ何人か来るよ。同じテーブルじゃなくていいの。空いてるとこに適当に座っていいよね?」


 カシスが店員に視線を移すと、彼は大きく頷いている。


「はい、大丈夫みたいです。お客さんも減ってくる時間ですから」


「うふっ、それを狙って来たのよー。あっ、みんな〜、カシスさんだよ。ガッシュ領の子だから、剣術ができるのよ〜」


 カシスの前をぞろぞろと冒険者が通っていく。青い髪の人が多いことに気づいたカシスは、ブルーボックスのメンバーかと考えていた。



 ◇◇◇



「商人ギルドのミッションの人は、まかないを食べてくださいねー」


 やっと休憩時間になり、カシスはホッとした。セイラが店内にいることも、安心感につながる。


(わっ!)


 まかないには、小さな白いケーキがついていた。レアチーズケーキだ。それを見て、カシスのテンションは上がったが、ミッション組の大半は食べたことがないらしい。



「皆さん、まかないに差し入れしましたー。サンサングループのスイーツ販売店が、来年、王都に出店予定です。よろしくお願いしますね〜」


 カシスのすぐ後ろに立つセイラ。カシスが安心して食事ができるようにと、配慮したのだろう。


「もしかして、セイラさんは、サンサングループの人なんですか?」


「ええ、私の兄が継いでいるわ。私は基本的に食べる専門なの。カシスさん、こないだのチーズケーキとは少し変えたのよ。感想を聞かせてほしいの。皆さんもね〜」


 セイラがそう言って微笑むと、ミッション組のほとんどが、彼女の色香にポーッと惚けているようだった。


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