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53、酒場ベリーズでのミッション

「あぁ、あんたか。シルバーカードに上がるんだな」


 翌日、カシスが商人ギルドの仕事で、酒場ベリーズへ行くと、以前会った店員がカシスの顔を覚えていた。


「はい、カシスです。よろしくお願いします」


「ウチは、冒険者のシルバーカードへのランクアップには協力してないんだが、冒険者ギルドから、有名な魔導士の推薦だからと、強引に話をねじ込まれたんだよ」


「ご迷惑でしたでしょうか。あの、すぐに変更してもらいに行ってきま……」


「違う違う。あんたなら、問題ないよ。ちょっと前にすぐそこで、派手なケンカをしていたのを何人も見てるからな。確か、王宮務めの執事だったか。あんたなら歓迎するぜ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 カシスは、性別不明な服装で来たが、男性だと思われていることを察し、苦笑いを浮かべた。服屋リンドウの店員には、カシスは女性だと見抜かれていたが、そのときに、彼は居なかったためだろう。



「初日は、掃除と裏方を頼む。その仕事を見て、二日目からの仕事を決めるからな。他店のような制服はないが、店のエプロンをつけてくれ」


「かしこまりました」


 カシスは、前世で居酒屋のアルバイトをした経験があった。この世界には魔法がある。だから、かなり違う部分があると身構えていたが、開店前の掃除は、前世と変わりないものだった。


 酒場ベリーズは、アルコールの提供をしない昼食時でも、ほぼ満席になっていた。カシスは、厨房内から出る生ゴミを集める仕事を任された。調理のゴミや食べ残しは、どんどんたまっていく。それをこまめに集め、裏へと運ぶだけの簡単な仕事だった。




「商人ギルドのミッションの皆さん、先に、まかないを食べてくださ〜い」


 昼食のピーク時間が過ぎると、かわいい女性が声をかけて回った。昼食休憩で、厨房に近い席にミッションで来た人達が集まっていくと、店員には制服らしき物があることに、カシスは気づいた。休憩をしない店員は、黒いシャツを着ている。


(ミッション組とは、区別しているのね)


 昼食休憩をする中にも黒いシャツの人はいる。カシスは、黒いシャツを着てこなくて良かったと思っていた。



「ねぇ、お兄さんは、王宮務めなんでしょ?」


(えっ? 何?)


 カシスが座った席の近くには、女性が集まってきた。


「はい、そうですが?」


「やっぱり〜。初めてとは思えないほど、テキパキとゴミ集めをしていたじゃない? みんな、ゴミ集めは嫌なのよ〜」


「そう、なんですか? あっ、食べ残しとか……」


「手袋をするから、触るのが嫌とかじゃないよ。ねーっ?」


「そうそう。ゴミ集めって、タイミングが難しいのよ。料理をする人や洗い場の人の動きを止めると、怒鳴られるもの。お兄さんは、一度も怒鳴られてないよ」


(あー、なるほど)


「お兄さんは、冒険者ギルドのランクアップ? 私達は、商人ギルドしか登録してないの〜」


「はい、冒険者登録証の……」


「やっぱりそうなのね〜! この時間帯に冒険者ギルドからの仕事で来る人は少ないのよ〜。店長が断ってるんだって」


「へぇ、そうなんですか」


「きっと、お兄さんがカッコいいから認めたんだわ。きゃーっ、恥ずかしい〜」


(えっ……いや……)


 カシスは、女性であることを打ち明けるべきかと思ったが、やめた。下手なことは言わない方がいい。王女が誰も信じるなと言っていたことが、頭に浮かんだためだ。



「あー、このサラダ、美味しいですね」


「お兄さん、知らないの? これは、この店の夜の人気メニューよ。冒険者登録をしていない私達は、シルバーカード以上の冒険者と一緒じゃないと、夜は利用できないのよ〜」


「私は、この店を利用したことがないんですよ。今度、友達と食べに来ます」


「まぁ〜、私達もご一緒したいわ〜」


(それが狙いか)


 キャッキャと楽しそうに媚びた目を向ける女性達。一方で、こちらを恨めしい表情で睨む男性達。カシスは、なるべく深く関わらないようにしようと決めた。




 ◇◆◇◆◇




「カシスさんは、二日目だな。冒険者だよな? 悪いが、客が退席した後のテーブルの片付けの補助を頼めるか? ホール担当が大勢いるから、手の回らない部分だけでいい」


「はい、わかりました」


 二日目、カシスは開店前の掃除から始めた。昨日とは、ミッション組の半分以上が入れ変わっているようだ。


「それから、いろいろな客がいるが、基本的に無視でいいぜ。甘い顔を見せたり戸惑っているとわかると、難癖をつけてくる奴もいる。今日から数日は、特にひどいだろうからな」


「今日は何かあるんですか?」


「あぁ、冒険者ギルドのランクダウン発表の日だ。荒れた冒険者が多いと思うぜ。年に何度かあるんだよ。それに備えて、今日から数日は、高位ランク冒険者には無料の定食を用意した。気合いを入れていくぜ!」


(なるほど……)


 昨日の女性達の姿がないのは、そういうことかと、カシスは納得していた。商人登録しかしていない女性は、荒れた冒険者の標的になりやすいのだろう。




 開店直後から、客は多かった。昼食は、数種類の定食のみだが、今日から数日は、一番値段の高い定食が、ゴールドカード以上の冒険者は夕方まで無料になっている。


 カシスは、ホール担当の店員の指示に従って、サポートに動いていた。広い店だが、完璧な分業制になっている。カシスは、黒いシャツの店員は優秀だと感心していた。


 商人ギルドからミッションで来ている人達は、必死な表情をしている。殺気を放つ冒険者には、ビビってしまうのも仕方ないだろう。



「おまえ、俺をバカにしてるのか!」


 カシスが厨房にふきんを洗いに行っていたとき、ホールで叫ぶ男性の声と、椅子が倒れたような大きな音が聞こえた。


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