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5、交易都市の決まりごと

 宿屋にある大きな食堂に案内されたカシスは、少し違和感を感じていた。


(彼も、王家の方なのかしら)


 カシスは、馬車が停まった直後、待っていた左目に黒い眼帯をつけた茶髪の男が、スグリット王子に対して、とても失礼なことを言ったと感じていた。


 王家には王子が3人いることは、カシスも知っていた。だが、眼帯をした彼は髪色が違う。肖像画で見た王子は、皆、スグリット王子のような明るい金髪だったと、カシスは記憶している。



「こちらの個室にどうぞ」


「えっ! スグリット王子と同じ席で朝食だなんて、いただけません。私は、身分が……」


 慌てるカシスの言葉を、左目に黒い眼帯をつけた男がさえぎる。


「お嬢さん、ここは交易都市クースです。どの国も交易都市では、生まれた身分は関係ないのですよ」


「あっ、そうでしたね。10歳の頃に、その説明を聞いたのを忘れていました。それでさっき、スグリット王子に、あんなことをおっしゃったのですね」


「ん? 俺が何か言いましたか?」


 カシスには、左目に黒い眼帯をつけた男が、わざと素知らぬフリをしているように見えた。


「ラーク! おまえ、さっき俺に、お尻ぺんぺんって言っただろ! 王都で言ったら不敬罪だからな!」


(この人もラークさん?)


「あはは、俺は王都なんかウロつきませんよ。お嬢さん、ワガママ王子のことは気にせず、ゆっくり召し上がってくださいね」


「は、はい」



 カシスは、緊張しながら朝食を食べた。同じテーブル席に第三王子がいると思うと、味もわからない。


「カシスさん、そんなに緊張しなくていいですよ。先程の店員も、交易都市では生まれの身分は関係ないと言っていたでしょう」


「はい。あっ、ここに立ち寄ってくださったのは、そのためなんですね。必要な物を揃えるなら、王都にもありそうですけど」


「カシス、それは違うぞ。交易都市には他国の品物も入ってくるからな。ここだと生まれの身分に関係なく、欲しい物が手に入るんだ」


(すごいわね)


 スグリット王子が、まるで大人のように話す様子に、カシスは驚いていた。


「スグリット王子は、博識でいらっしゃるのですね」


「は? 常識だぞ? 田舎者にはわからな……」


 スグリット王子は、何かにハッとして言葉を止めた。


「どうされましたか?」


「いや、おまえの身分証を見せろ。交易都市では、商人登録証か冒険者登録証が、身分証になる。もし俺の方が低いなら、言葉遣いを改めなければならない決まりだ」


(身分証?)


 カシスは何のことかわからず、首を傾げた。


「カシスさん、身分証はお持ちではないですか? あぁ、確か2年で失効してしまいますね」


「私は持ってないと思いますわ。貴方もラークさんでよろしいのかしら?」


「私が、ラークですよ。スグリット王子が名乗っていたのは偽名です。あぁ、さっきの店員も同じ名前でしたね。ラークという名前は多いので」


 王家の使いの者は、銀色のカードをカシスに見せた。カードには、ラークという名前と、冒険者ランクBと記されていた。


(あっ! これか)


「私も10歳の時に登録した記憶があります。儀式の後の資料と一緒に、家に置いてきてしまいました」


「身分証がある方が王都でも便利なので、再発行に行きましょうか。しばらく使ってないのであれば、失効していますから」


「はい。ラークさん、お手数をおかけします」


(赤茶色のカード?)


 スグリット王子が得意げな表情で、カードをカシスの目の前に置いた。スグリットという名前と、冒険者ランクDと記されている。


「カシスより俺の方が上だな。登録したまま何もしてないなら、Fランクだろ? ふふん」


(かわいい!)


 得意げにカードを見せるスグリット王子を、カシスは、無邪気な弟と重ねていた。



「おや? スグリット王子、ブロンズカードでドヤ顔をキメるとは、大胆ですねぇ。食後のお茶をお持ちしました」


「うるさいな! ちょっと強いからって……クソッ、ここは交易都市だった……」


 ガクリとテーブルに突っ伏したスグリット王子に、カシスは優しい目を向けていた。そんなカシスの様子を、黒い眼帯をつけたラークが鋭い目でうかがっていることに、彼女は気付いていない。



「ラークさんは、冒険者なんですか?」


 カシスの質問に、黒い眼帯をしたラークは、フッと感情の読めない笑みを浮かべた。


「今は店員ですよ。冒険者登録証の更新時には、商人ギルドの仕事も受けなければならないので、仕方なくやっています」


「おい、ラーク! 更新って、おまえ、まさか……プラチナカードになるのか?」


「まぁ、そういうことですよ。ラーク様と呼んでください」


「ぬわっ……くっ、くっそぉ〜」


(ふふっ、かわいい!)



「スグリット王子がブロンズカードでドヤ顔をしていたということは、お嬢さんは身分証を失効したのかな。年齢を尋ねるのも失礼ですが、10歳の時に身分証を取得したはずですよね?」


「あ、はい。15歳になったばかりですが……」


「あぁ、5年も放置していたなら再測定になるでしょうね。身分証は、ブロンズカードでは舐められます。王都で働くなら、休みなどを利用して、そちらのラークさんと同じシルバーカードまで、ランクアップしておくことをオススメしますよ」


「はい、わかりました」


 カシスが返事をすると、左目に黒い眼帯をつけた店員は、軽く会釈をして、個室から出て行った。



 彼と入れ替わるように入ってきたのは、派手な金髪の美しい女性だった。その姿を見て、カシスの忘れかけていた記憶が湧き上がってくる。


(ロザリーだわ!)


 カシスは、彼女とは面識はない。だが、二次元の彼女のことは知っていた。ロザリーは、カシスが前世でプレイしていた乙女ゲームに、案内人として登場するキャラだった。



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