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49、膨れっ面のスグリット王子

「遅くなりました。あら?」


 部屋には、ニコニコとやわらかな笑顔を浮かべる王女と、ぶすっと膨れっ面をしているスグリット王子の姿があった。


「カシス、どうしたの?」


 カシスは、王女の部屋に新しい机があることや、まるいテーブルにかわいい花が飾られていることを確認し、口を開く。



「ファファリア様、4歳のお誕生日おめでとうございます。何も贈り物を用意していなくて、申し訳ありません」


「まぁっ! カシスも私の誕生日を祝いに来てくれたのね。私、今日が誕生日だなんて知らなかったの。贈り物なんていらないわよ。カシスの気持ちだけで十分だわ」


「そう言っていただけて、ホッとしました。何だか家具が増えていますね」


 カシスが、新しい机に視線を向けると、王女は、やわらかな笑みを浮かべて、口を開く。


「ええ、今、すれ違ったんじゃない? ウィルラークお兄様が、私の4歳の誕生日祝いに、王立大学校へ入学したら使うだろうと言って、勉強机をくださったの」


「そうなんですね。もうすぐ入学ですもんね。テーブルの素敵なお花は?」


「これは、お兄様が私の誕生日祝いにくださったのよ。大きな花瓶でも入り切らないから、小さな花瓶にも入れてあるのっ」


(いつもよりも豪華な花束ね)


 王女は、明らかに、スグリット王子から贈られた花束の方を喜んでいるように見える。だが、スグリット王子は、膨れっ面をしていた。


 勉強机の方が高価だからかとカシスは考えたが、スグリット王子が何か言いたそうに、ムズムズしていることに気づいた。



「あの、スグリット王子?」


 カシスがそう声をかけると、スグリット王子は、ミニキッチンの方へと合図をした。そのまま、プスっとしている。


「カシス、休憩時間に悪いんだけど、手が空いているなら紅茶を淹れてくれるかしら? お兄様が紅茶もくださったの。すぐに飲んでみたいわ」


「かしこまりました。すぐに淹れますね」


 カシスがミニキッチンへと移動すると、王女は、いつものまるテーブルの上を片付け始めた。小さな小物入れがたくさん乗っていたようだ。




 カシスが紅茶を淹れていると、スグリット王子が様子を見に来た。話をしたいのだろう。


「カシス、兄上に先を越されてしまったんだ」


(それで膨れっ面なのね)


「第二王子が先に来られていたのですね」


「いや、先に来たのは俺だ。だが、俺が入ったすぐ後に、兄上も来たんだ。そして、ファファリアに、俺より先に誕生日おめでとうと言ったんだ」


「あちゃ、それは悔しいですね。でも、ファファリア様は、机よりも、花束の方を喜ばれているように見えますよ?」


「ファファリアは、鞄を一番喜んでいた」


「カバン?」


「そうだ。今も身につけているだろ? 魔法鞄マジックバッグだよ」


 スグリット王子にそう言われて、カシスはミニキッチンから顔を出す。王女の方を見てみると、小さな鞄を斜めがけしていることに気づいた。王女は、その小さな鞄に、まるテーブルの上の小物入れをどんどん収納している。


「初めて見ました。小さな鞄なのに、たくさんの物が入るのですね」


「あぁ、兄上は、ファファリアが重いカバンを持って学校に通うのは大変だからと言って、希少なダンジョン産の魔法鞄も贈ったのだ」


「じゃあ、あの鞄は、王立大学校の通学用なんですね。確かに、学校指定のカバンは大きいなと思っていました」


 カシスの執事室には、秋からの王立大学校の入学に必要な物が、既に届いていた。制服や靴やカバン、そして運動用の軽装も、王立大学校の校章が刻まれたものだ。


「俺は、そこに気づかなかったんだ。クッソォ〜」


(なるほど……)


 カシスには冷たい第二王子も、妹のことはとても大切に想っているのだと、カシスは感じた。


「私も、気づきませんでした。第二王子は大人だから、いろいろな情報が入ってくるのかもしれませんね」


「俺も大人だっ!」


(ありゃ……)


 カシスの失言で、スグリット王子は、また膨れっ面をしてしまった。



「カシス? お兄様と何を喋っているの?」


 王女の不安そうな声が聞こえた。


「えっ? あー、えーっとですね〜」


「カシスは魔法鞄を知らないみたいだから、教えてたんだ。ファファリアは、兄上からもらった鞄を喜んでいたからな」


(かわいい嫉妬かしら)


 スグリット王子が膨れっ面をしていたことで、王女は、彼が拗ねていることに気づいた様子。


「私は、この赤い小さな花が、一番嬉しかったですわ。だから、一輪ざしにも飾っていますのよ」


「そうか、それなら良かった! その花瓶によく合っているからなっ」


 王女の一言で、スグリット王子に笑顔が戻った。


(さすがね)


 カシスには、スグリット王子よりも王女の方が、時々、お姉さんに見えている。ニヤニヤしないように気をつけながら、紅茶をテーブルに置いた。


「はい、ピンクの花瓶によく合いますわ」


「ファファリア、魔法鞄は、魔力が馴染むまでは、しばらく時間がかかるんだぞ。毎日、身につけている方がいい」


「そうなのですね! お兄様は博識ですわね。あら、この紅茶は、珍しい香りですわ」


「俺は冒険者もしてるからなっ! この紅茶は、交易都市で買ってきたんだ。花の香りがするって言ってたぞ」


「甘い香りは、お花のようですわね。お菓子がなくても、そのままで美味しいですわ」


「店主もそう言ってたぜ!」


(ふふっ、かわいい)


 スグリット王子からの贈り物の紅茶を飲みながら、いつもの仲良しモードに戻って、兄妹はニコニコと楽しそうに話している。


 紅茶というよりはハーブティのようだと、カシスは感じていた。ガッシュ領の特産の一つに似ている。



 カシスは、兄妹の時間を邪魔しないように、そっと王女の部屋をあとにした。



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