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48、王女ファファリア4歳の誕生日

「カシス、俺が先に言うからな。絶対にファファリアに言うなよ? たぶんわかってないからな」


「かしこまりました、スグリット様」


 翌朝、王女の朝食の付き添いで、食事のに行くと、早目に朝食を終えたスグリット王子から、カシスは小声で忠告を受けた。


 いつもなら、スグリット王子の方が朝食時間が遅いことが多い。朝に弱い王子に合わせて、予定が組まれているためだ。


(早起きをされたのね)


 今日は、王女ファファリアの4歳の誕生日だ。


 だが王女は、前世の記憶があるとはいえ、暦には無頓着らしい。3歳の誕生日の少し後に、前世の記憶が戻った王女は、スグリット王子が言うように、自分の誕生日がいつなのか、わかってないのかもしれない。



「カシス、お兄様と何を話していたの?」


「スグリット王子は、何かを思いつかれたようですね。俺が先だと、おっしゃっていました」


「何のことかしら?」


「さぁ? 早起きをされていたことと、何か関係があるのでしょうかねぇ」


 カシスは、ふんわりとごまかしておいた。


「昨日の話の続きかしら。あっ! 彼の居場所を探る方法を思いつかれたのかもしれないわねっ」


 王女の表情は、キラキラと輝いている。カシスが、スッと目を逸らしたため、王女は、冒険者ラークのことだと確信した様子。



 王女の朝食の後、王女を私室へと送り届けると、これでカシスの朝の仕事は終わりだ。しかし、王女が部屋に入って扉を閉めると、扉番の護衛から、小さな紙を渡された。


『カシスも朝食を食べたら、すぐに来いよ』


 名前のない走り書きだったが、カシスは、スグリット王子からの伝言だと察した。護衛も、王女に聞こえる可能性があるためか、何も言わない。


(贈り物の用意はしていないわ)


 カシスは後悔したが、考えを改めた。さっきは、王女の問いをごまかしたのに、誕生日プレゼントを用意していることはおかしいと気づいたためだ。



 ◇◇◇



 カシスが使用人の食堂へと移動すると、今朝はいつも通りだった。昨日の混雑は、夕食の時間が、王命ミッションを受けた使用人達が戻る時間と重なったのだと、カシスは考えた。


 ただ、カシスが朝食を食べていると、昨日と同じように、何人かの使用人から話しかけられた。


 その話の中で、セイラが有名な魔導士だということを実感した。だが彼女達がブルーボックスのメンバーだという話をする使用人は、誰もいなかった。


(新規転生者狩りか……)


 カシスは、レッドボックスのフリをしていた魔導士が語り人だと、ラークが話していたことを思い出した。魔法が使えない湖底の洞穴へ、転移先を書き換える能力があるほどの魔導士。


 ゲームを知る新規転生者ならわかる出口で、待ち伏せていた者達もいた。彼らは、カシスが魔物に殺されたかを確認しようと、階段を降りてきたが。


 その後、カシスとラークは、明るい魔物の棲み家に移動した。ラークは、もう彼らは来ないと言っていたが、再び眠ったのは、次に来る者を見極めるためだったのだと、カシスは考えた。


 そして、乙女ゲームでは『道化師の遣い』と呼んでいた、喜怒哀楽によって顔の変わる種族が、新規転生者を探しに来た。


(少なくとも二つの勢力ね)


 あの場所へ転移させた者達と『道化師の遣い』は、協力関係にはないと、カシスは感じた。道化師の遣いは、新規転生者が背負うリュックの反応を追って来た。あのリュックを貸し出す冒険者ギルド内にも、新規転生者を殺すための協力者がいる。


 ただ、カシスは、あまり恐怖は感じなかった。


 カシスを臨時パーティに引き入れたブルーボックスのメンバーは、新規転生者が持つ知識を必要としている。新規転生者を生かそうとする人達がいることは、カシスに大きな安心を与えていた。




 朝食が終わって、トレイを返しに行ったとき、カシスは違和感を感じた。


(なぜ、何も言われないの?)


 厨房には、王家の人達に差し入れするための、お菓子や軽食を作る料理人もいる。だが、カシスと顔を合わせても、王女の誕生日に関する話がない。



「ん? カシスさん、どうしました? 朝食後にも、ファファリア様へお菓子を持って行くのですか?」


(知らないなら言わない方が良いか)


「ええ、昨夜お話していた件で、これから伺うつもりですが……」


「困りましたね。この時間は、何も用意できないのです」


「では、別に無くても大丈夫です」


 カシスは、そう言って、厨房から出た。


(お祝いをしないの?)


 ガッシュ家では、ささやかだが、誕生日には祝い料理が訪問者に振る舞われていたため、誰かの誕生日は、朝からずっと、料理人は忙しそうにしていた。


 カシスは、それが常識だと思っていたから、王女の朝食の付き添いの間はずっと、王女に、誕生日の話を聞かれることがないように気をつけていた。他の使用人から、スケジュールの確認をされることはあったが、王女の誕生日の話題は出てこなかった。



 ◇◇◇



 コンコン!


 カシスは、王女の部屋へと移動した。扉番の護衛は、ちょうど交代時間らしく、いつもの倍の人数がいた。カシスは、彼らに軽く会釈をして、扉をノックする。


「執事、ちょっと待て。何の用事だ? 休憩時間ではないのか?」


(あまり見ない人ね)


 護衛兵もいるが、近衛騎士の姿もある。


「ファファリア様に来客がありそうですので、参りました」


「それなら、今、中に入られている」


「私が遅くなってしまったのですね。失礼します」


 カシスが扉に手をかけようとすると、扉が開かれた。


(ひゃっ!)


 王女の部屋から出て来たのは、カシスが苦手としている第二王子ウィルラークだった。


 彼は、カシスの方にチラッと顔を向けたが、何も言わずにそのまま、近衛騎士を連れて立ち去った。


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