47、カシスの恋の応援団
カシスは少し仮眠を取った後、使用人の食堂に夕食を食べに行った。
(騒がしいわね)
いつもカシスが利用する時間は、ガラガラなはずなのに、使用人の食堂は、ほぼ満席だった。プンと汗の臭いもする。
「あっ、カシスさん! お疲れ様」
食堂で働く使用人が、カシスに笑顔で声をかけた。彼は、どこかの貴族の息子らしい。これまでは無視されていたから、カシスは、名前を覚えられていたことに驚いた。
(私は、彼の名前は知らないわ)
「お疲れ様です」
カシスは軽く会釈をして、食事を受け取るために列に並びつつ、空いている席を探す。
「カシスさん、ここ空いてますよ!」
今度は見覚えのない黒服に声をかけられ、カシスは、首を傾げる。あまりにも友好的な雰囲気の笑顔が、逆に不気味だと感じた。
「カシスさんは、超有名人になっちゃったね」
食堂で働く使用人の女性が、カシスにトレイを渡して、そう教えた。彼女も、カシスには冷たかった使用人だ。
「私がなぜ、有名人なのですか?」
「プラチナカードのセイラさんの臨時パーティに入ったんでしょ? しかも新規転生者なのに、大規模ミッションから生還してきた。さっきからずっと、カシスさんの話ばかりしてるよ」
「なるほど……」
カシスは夕食を受け取り、窓際の席に座った。誰かと相席になるのが嫌だったため、中庭を向いて食べる席を選んだ。
何人かが話しかけてきたが、寝不足で頭痛がするのでと断ると、周りは急に、カシスに配慮するようになった。
(極端な反応ね)
カシスは、さっさと夕食を済ませると、厨房に用意されていたクッキーを持って、王女の部屋へと向かった。
◇◇◇
コンコン!
(早っ!)
扉をノックして、ドアノブに手をかけようとしたとき、扉が開いた。スグリット王子も、待ち構えていたらしい。
「今夜は、クッキーをお持ちしました。すぐに、紅茶を淹れま……あれ?」
「カシスっ! 早くここに座って! 紅茶は、カシスのロザリーが淹れたわ」
どうやら王女は、ロザリーに夕食の付き添いをさせた後も、部屋に居させた様子。
「カシス、よく無事で戻れたな。正直なところ、大怪我をして戻ってくると思ってたぞ」
(違うわね)
スグリット王子が王女に気を遣って、大怪我と言っているのだと、カシスは思った。食堂の雰囲気が異常だったことからも、新規転生者は普通なら殺されるのだと察した。
「アクシデントはありましたが、無傷です。ご心配をおかけしました」
カシスは、ロザリーにも促されて、いつものまるいテーブル席に座った。
「カシスっ! 彼にはちゃんと打ち明けたの?」
(いきなり?)
王女のキラッキラな目に見つめられ、カシスは無事に戻って来られたことを実感した。
「実は、私が女の子だと知っていると、言われました」
「まぁっ! それで? それから?」
「えーっと……」
カシスは、転移干渉で妙な場所に飛ばされた話をした。そのときのラークとの会話も、話せる範囲で話した。ただ、大きな鳥の魔物の棲み家でのことは、聞かれたことだけを答えた。
「カシスっ! ちょっと鈍いわよ。カシスがいるから眠れるって、彼が言ったんでしょ? それって、絶対に気があるわ。どうして気づかないのっ」
「私がいるからというより、静かだったからだと思うんですけど」
「婚約者や恋人がいるのかって聞かれたのに、なぜ、カシスは彼に同じ質問をしないのっ? 絶対、彼はそれを待っていたはずだわっ」
「えーっと……あっ、そのときは、男同士として話していると思ったので……」
「でも、その前にも、寝ぼけてたのかもだけど、彼はカシスのことを女の子だって知ってるって言ったんでしょ?」
「はい、寝言かなぁって……」
「はぁぁ、じれったいわねっ!」
「す、すみません」
カシスは、王女がこんなに熱意があったのたかと、少し驚いていた。ずっと、前のめりで話している。
「ファファリア、ちょっと落ち着け。話を聞いている感じでは、彼の方も、鈍感かもしれないぞ」
「そうですわね。カシスは、こんなにも顔に出るのだから、彼がしっかりと見ていれば気づくはずですわ」
「これは、俺達が何とかしないと、いつまで経っても進展しないんじゃないか? 俺も、そんなに恋愛経験があるわけではないが、カシスは、あまりにも鈍感だぞ」
「ええ、お兄様、私達で何とかしないと! カシスには任せていられませんわっ。カシスの恋の応援団を結成しますわよっ。ロザリーも入りなさい」
仲良しの兄妹は、がっつりと握手をしている。
(ふふっ、仲良しね)
カシスが二人を微笑ましく眺めていると、二人のキラッキラな目が、カシスに向いた。
「カシス、次はいつ会うんだ?」
「えっ? それは、わかりません。今日、お礼を言う前に、眠いと言って先に帰ってしまわれたので」
「彼は、どこに住んでいるの?」
「主な活動場所は、交易都市クースのようですが、秋までは、王都にいるとかいないとか……」
カシスの返事に、仲良し兄妹は、同時にガクッと、テーブルに突っ伏した。まるでコメディアンかのような二人に、カシスは癒されていた。
(ふふっ、かわいい)
「じゃあ、臨時パーティを組んだリーダーのセイラさんに聞けば、彼の居場所もわかるかもしれないわね。お兄様、魔導士セイラの連絡先をご存知かしら?」
「交易都市のセイラさんの定宿なら、わかるんだけどな。ラークに探させるか」
「ダメよ! ラークは信用できないわっ! あっ、カシスの彼のことじゃないわよ? お兄様の雑用係のラークのことだからねっ」
「あ、はい。ラークさんって、多すぎますよね」
「ロザリーも多すぎるんだけどねー。この続きは明日ね」
(あっ、明日って……)
カシスは、明日と聞いてスグリット王子がソワソワし始めたことに、気づいた。




