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45、道化師の遣い

「このバリアは必要なんですよ。いつ魔物が戻ってくるかわからないですから」


 カシスは、バリアを消すことはできないが、内側から砕くことはできる。ただ、こんな状況でも寝たフリを続けるラークには、何か考えがあるのだと思った。


 階段から降りてきた男達は、7人。見た感じだと、魔導士は、階段近くのひとりだけだ。カシスは、人探しのために、この人数で行動することに違和感を感じた。そして、こちらにバレるような殺気を放つことも、理解できない。


(慣れてないのかな)



「派手に羽根が散らかっているな。王命ミッションで来たなら、寝ている男は、高位の冒険者じゃないのか? ここの魔物に、負傷させられるとは思えないけどな」


 カシスは、返答に困った。


 チラッと、ラークの方に視線を向けたが、彼は眠っているフリを続けている。


「彼の名誉にも関わることだから、その問いには答えられません。まだ、彼が眠っているので、私達のことは放っておいてもらって大丈夫ですよ。わざわざ探しに来てくれて、ありがとうございました」


 カシスが救助を断ると、彼らの表情がガラリと変わった。表情というより、顔そのものが変わったという方が正確だろう。


(これは……)



 ガキン!


 一人が剣を抜き、バリアを壊そうとして振り下ろした。だが、その程度では、ラークのバリアは壊せない。



「いいから、バリアを消せ!」


「アナタ達は、私を殺しに来たのですか」


 カシスは、スッと立ち上がった。そして、階段の前を占拠して逃げ道を塞いでいる男達に、冷たい視線を向ける。


「は? 何を言っている? 俺達は、冒険者ギルドからの依頼を受けた救助隊のようなものだと言っただろう? 新規転生者は、放っておくとすぐに死ぬからな」


「私は、そんな失敗はしませんから、大丈夫です。騒いでいると、魔物が戻ってきたときに、襲われますよ?」



 ガキッ!


 鈍い音がして、バリアに亀裂が走る。階段近くの魔導士が、バリアを破る魔法を使ったらしい。



 バリアが砕け散ると、彼らの表情は元に戻った。


(そうか、彼らは……)


 カシスは、乙女ゲームの『終焉の書』の中で、彼らのようなキャラクターに遭遇したことを思い出した。


(道化師のつかいだわ)


 彼らは、喜怒哀楽がストレートに現れる謎の集団だ。攻略情報では、『道化師の遣い』と呼ばれ、感情によって顔が別人のように変化する、特殊な種族という位置付けだった。


 敵か味方かも、プレイヤーによって感じ方が異なり、その情報は、ぐちゃぐちゃだった。だから、プレイヤーを惑わす邪魔者キャラだろうと、前世の彼女は考えていた。



「ふぅん、そういうことか」


 そう呟いて上体を起こしたラークが、カシスの腕を掴むと、ラークの敷き物から青い炎があがり、二人は、空気中に溶けるように消えていった。




 ◇◇◇




「ここは……」


 カシスは何が起こったか、一瞬わからなかった。二人は、薄暗い場所に移動している。草の匂いがすることから、ラークが転移魔法を使ったのだと、理解した。


「カシス、お手柄だったよ。何世代分もの成果だね」


「えっ? あの、青い炎は……」


「あぁ、ちょっと細工をしておいたんだ。あの敷き物は燃やすと幻影が立ち昇るからね。転移先をごまかすことに使える」


「そうなんですね。でも、私のリュックで居場所がわかるみたいだから……」


「だから燃やしたんだよ。アイツらは、強い恐怖を感じると、直近の記憶を失うからね。俺達を、空気中に溶けた幽霊だと思ったはずだよ」


「彼らは、私に会ったことを忘れたってことですか?」


「たぶん、なぜあの場所に自分達がいるかも、忘れているだろうね。彼らは、複数の魂が入った特殊な存在なんだ。感情によって別人のように顔が変わるから、多くの冒険者には、魔物だと思われているけどね」


「道化師の遣い、ですよね」


 カシスがそう言うと、ラークは意外そうな表情をした。


「知っているのか? セイラも覚えてないらしいが」


(また、セイラさん……)


「詳しくはわかりません。ただ、ゲームでは、道化師ボックスの手下のような存在だと知られていました。喜怒哀楽がストレートに顔に現れるというか、顔が入れ替わる種族で、主人公を邪魔する集団だと思っていました」


「そうか。それは、新規転生者しか覚えていない知識だな。この世界で転生した人達は、ゲームを知っていても、その記憶はない。つまり、そういうことだよ」


(ん? どういうこと?)


 ラークが手にガッツポーズを作っていることに気づいたカシス。終焉の先へ行く手掛かりになるとは思えなかったが、彼、いや彼らが集めている情報が増えたならよかったと、カシスは考えていた。




「あー、やっと、見つけたよー」


(えっ!?)


 見つけたと言われて、ギョッとしたカシス。だが、さっきの男達ではない。この声は……。


 空からスーッと降りてきた三人の姿を見て、カシスは、ホッと息を吐いた。



「転移魔法に干渉されたんだ。たぶん、レブン湖の地下洞窟に飛ばされた。白い羽根を持ち帰ったぜ」


 ラークが、大きな白い羽根を1本取り出すと、彼女が奪い取ったように見えた。


「魔法無効の羽根だね! ラーク、ありがとう。カシスさんも、大丈夫だった? フルーツサンドで足りた?」


(セイラさんは、優しいな)


「ラークさんがいろいろ出してくれたので、お腹は大丈夫です。セイラさん、王命ミッションは……」


「それなら良かった。ん? 王命ミッション? 飽きたから、途中からサボってたよ。もうそろそろ終わるんじゃない?」


(飽きたんだ……)



 セイラ達がサボっていたのは事実だ。しかし、飽きたわけではない。彼女達は、ラークとカシスの捜索を優先していたのだった。


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