44、王女の手紙とラークの戸惑い
大きな鳥の魔物の羽根だらけの部屋で、ラークは本当に眠っていた。彼の大胆すぎる行動に反して、カシスは警戒心から、仮眠などできなかった。
(私が居ると……)
ラークがカシスに言った言葉を、彼女は思い出していた。カシスがいるから眠れた、という言葉は、自分を信頼してくれている証なのかもしれない。そう考えると、カシスの気持ちは、ふっと軽くなった。
スースーと眠るラークの横に座り、カシスは、薄暗い空洞での会話を思い返していた。彼女が今いる場所が明るいためか、彼女の気持ちも浮上していく。
(でも、友達なのね)
肩を抱き寄せるなんて、カシスの感覚では好意があるとしか思えなかった。男装しているカシスが女の子だと知っていると話したラークが、本当に言いたかったことには、カシスは気づいていない。
背負っていたリュックを、足の上に置き、なんとなく開いたカシス。ふわっと柑橘系のフルーツの香りがすることに気づくと、ゴソゴソと中を探した。
(潰れてるわ)
空洞でそのまま枕にしていたことを思い出し、カシスは、小さなため息を吐いた。セイラからもらったフルーツサンドが潰れ、柑橘系の果汁が少し漏れ出ていた。
リュックが汚れたかと確認してみたが、底に果汁が溜まっていたけど、外にはシミはない。
(防水加工かな?)
中に入れてあった王女から渡された布袋も、果汁で濡れていた。これはマズイと考え、カシスは布袋を開ける。
(あれ? 手紙?)
王女は、雨対策のグッズだと言っていたが、中にはタオルとツルンとした布地のレインコートのような物だけでなく、小瓶と一緒に手紙のような物が入っていた。
カシスは、その手紙を開けてみる。
『カシス、誰も信用してはいけないわよ。冒険者ギルドの職員も、語り人も、主人公の味方ではないわ。魔物よりも人を警戒しなさい。大きなミッションでは、多くの犠牲者が出るの。すべての主人公が消えるから、終焉を迎えるのかもしれないわ。必ず、戻ってくるのよ! 待ってるからね』
(ファファリア様……)
一緒に入っていた小瓶が、高価な万能薬だとわかったカシス。王女が布袋に込めた想いを知り、涙がこみ上げてきた。この布袋を開けるのは、カシスが困っているときだと考えて、手紙まで添えてくれた幼い王女。
カシスは、とても良い主人に仕えることができたのだと、感謝していた。
ゴソゴソし始めたカシスに気づき、目覚めたラークは、寝たフリをしながら様子を見ていた。彼の変色した左目は、眼帯をしていても、周りの状況を視ることができる。
ラークは、カシスが読んでいる手紙を書いたのは、王女ファファリアだろうと察していた。彼は、王女がカシスをそばに置くと決めた理由も探ろうとしていたが、カシスの表情を見て、納得した様子。
王女が心を開くほどの女性だから、自分も次第に惹かれていったのだと、言い訳がましいことを考え始めたラーク。誰かのせいにしようとする子供のような自分が、フッと可笑しくなった。
彼は、カシスが自分に……Aランク冒険者のラークに恋心を抱いていることに気づいている。それを、弟や妹が応援していることも知っていた。
そのAランク冒険者が、兄であることを、二人は知らない。彼は、二人がそれを知ると反対するのではないかと、不安を感じていた。
彼は、弟や妹とは、距離を置いて接している。また、使用人達から、避けられていることも知っている。これは、左目の異常がわかってから、彼が意識的に他人を遠ざけようとしてきた結果だから、そのことについては、彼は何とも思っていない。
ただ、カシスを純粋に応援する二人が失望するのではないかと、不安に思い始めた自分の変化に、彼は戸惑っていた。
◇◇◇
「カシス、俺が負傷したことにしておいてくれ」
大きな鳥の魔物の羽根だらけの部屋が、少し暗くなってきた頃、寝転んでいたラークは、カシスに小声でそう告げた。
「えっ? なぜ……」
理由を尋ねようとしたカシスだったが、階段に何かが触れた音の響きに気づいて、口を閉じた。
カシスは、広げていた自分の荷物をまとめ始める。リュックの中にしみ出していた果汁も、乾いていたようだ。
王女からの布袋を元の状態に戻し、リュックに放り込んで背負ったとき、階段を降りる足音が聞こえてきた。
「やっと見つけましたよ。新規転生者さん、大丈夫ですか? ん? その人は寝ているのかな?」
階段から降りてきたのは、見覚えのない冒険者だった。次々に降りてくる。その数は、7人になった。
「見つけたって、なぜ……」
「あぁ、キミは知らないのか。新規転生者に貸し出すリュックは、特殊な魔力を帯びているからね。魔道具を使えば、居場所がわかるようになっているんですよ」
「えっ? そうなんですね。貴方達は、捜索をされる冒険者さんなのですか? 王宮ミッションは、どうなりましたか?」
「俺達は、サポート役として、冒険者ギルドから依頼を受けているんです。救助隊のようなものですよ。その人も王命ミッションに参加しているんですか? 階段を上がれば外に出られるのに、ずっとここに居ますよね?」
(ずっと?)
カシスは、彼らが、カシス達がずっとここにいることを知っていたのだと気づいた。王女の手紙のことが、頭をよぎる。
「ちょっと、同行者が負傷しまして」
カシスがそう答えると、彼らがニヤッと笑ったように見えた。
「そうでしたか。このバリアを解除してもらえますか? 俺達で、地上に運び出しますよ」
(そうやって、殺すのね)
カシスは、男達が、ヘラヘラと笑いながら、こちらに殺気を向けたことに気づいた。




