43、待ち伏せしていた者たちが降りてきた
「あっ、カシス、ちょっと待て」
白い壁に触れたカシスを、ラークは後ろからリュックを引っ張って止めた。そして、口元で人差し指を立てた。
(喋るなってこと?)
カシスが押した白い壁は、わずかに開いていて、中の光が薄暗い空洞に、細い筋となって漏れている。
コツコツ
階段を降りてくる数人の足音が、聞こえた。
(魔物がいない?)
白い壁の先には魔物がいるはずだと、カシスは思っていた。階段を降りてくる人がいるなら、魔物が倒された後かと、カシスは考えた。だが、そもそも階段が現れるのはゲームの仕様であって、実際には、階段はそこにあったのだが。
「新規転生者の死体は無いみたいだぞ」
(えっ?)
思わず声を出しそうになったカシスだったが、手に口を当てて、こらえた。ラークは、微動だにしない。
「ここの魔物達は、どこへ行った?」
「腹を空かせて、通気口から外へ出たのかもしれないな。ここを寝ぐらにしているだろうが、昼間は狩りに行く習性がある」
「この縦穴は、どこに繋がっている?」
「湖の西の森に出るぜ。ハイゴブリンの森だ」
「盛大に羽根が落ちているようだな。新規転生者の男と一緒に、ブルーボックスのメンバーがいたはずだ。魔物を使役し、縦穴から外に出たのかもしれんな」
「まさか! 気性の荒い大型の鳥の魔物ですよ? 魔法無効耐性があるから、使役の術は効きませんよ」
「新規転生者には、俺達にはない知識がある。用意してきた何かのアイテムを、支給されたリュックに入れたという報告もあったぞ」
「まだ、この場所を見つけられずに、空洞にいる可能性はありませんか?」
彼らの視線が、カシス達が覗く隙間に向いた。
(バレた?)
「いや、それはない。空洞は密封状態ではないからな。この部屋にあるマナが、隙間から空洞へ流れていっているだろう? 罠にかかった者がこの洞穴に転移で入ると、空洞は密封されるからな」
「かしこい男ですね。あの新規転生者は、王宮務めだとギルド職員が話していた。一緒に転移した者がブルーボックスのメンバーなら、自信過剰だから、待ち伏せの可能性があっても、真っ直ぐに挑んでくると思ったんですけどね」
「新規転生者は、男なのか? 男装しているという内部情報を耳にしたけどな」
(えっ? その内部情報って……)
「とりあえず、湖の西の森に消えたってことでいいだろう? 俺は、もう眠い。湖の西の森の担当が取り逃したんだよ」
「誰も、西の森では待ち伏せしていませんよ。ハイゴブリンに囲まれると面倒ですからね」
「それなら……」
彼らは、階段を上がっていったらしく、話し声も聞こえなくなった。
◇◇◇
「カシス、もういいぜ」
ラークは、壁を押し開けた。
さっきの男たちが話していたように、縦穴からの明るい光が差し込む部屋には、大量の大きな鳥の羽根が落ちていた。
「白い羽根だな。これは、いいアイテムになりそうだ」
ラークは、落ちていた羽根を数本拾うと、どこかに収納した。魔法無効の魔物の羽根だから、確かにアイテムの素材として利用できるだろう。
「今の人達が、階段の上で待ち伏せしていたんですね」
「あぁ、その一部だろう。しかし、カシスのことを事前に調べてから来たようなことを言っていたな」
「冒険者ギルドの職員に、協力者がいるみたいでしたね」
「新規転生者は、冒険者ギルドか商人ギルドのどちらかに必ず登録するからな。商人ギルドにも当然、奴らに情報を流す者がいる。協力者だとは限らないけどね」
(あっ、そうか)
カシスが、王宮務めであることは、わりと広く知られてしまっている。
「私が狙われたというのは、こういうことだったんですね。新規転生者を邪魔だと考える人達がいるんですね」
「俺は、ゲームのことは知らないが、セイラの言葉を借りると、新規転生者は主人公らしい。そして、その主人公を狙う悪役は、ゲームよりも数が多く陰湿だと言っていたな」
「セイラさんも、私と同じ異世界から来たみたいですね。私が女の子だろうと、何度か尋ねられましたが」
「ふっ、アイツも、主人公に絡みたいのだろう」
(やっぱり、親しそう)
ラークは、カシスと話しながら、地面を物色していた。しばらくすると、目を輝かせて何かを拾った。
「カシス、卵のカラがあったぜ! 膜も付いてる」
「珍しいモノなのですか?」
「あぁ、ヒナが生まれたばかりだということだ。もうしばらく、ここに居ようぜ」
ラークがなぜ嬉しそうなのか、カシスには理解できなかった。鳥の卵の膜が付いたカラなんて、ガッシュ領ではよく見るものだった。
「ヒナが生まれたばかりだから……ん?」
「魔物は、しばらくは戻ってこないよ。ヒナが生まれて、ここにいた魔物がすべて外に出たなら、棲み替えだな。ヒナが自立するまでは、森の中で狩りを教えるはずだ」
「じゃあ、ここにはそもそも居なかったんでしょうか」
「たまに出入りする魔物は居るかもしれないが、基本的には留守だろうな。ちょっと仮眠しようぜ」
「魔物が出入りするなら、危険ですよ?」
カシスは、そう言ったが、ラークは、もう敷き物を出している。
「安全だよ。奴らはもうここへは来ないし、魔物も早くても夕方までは戻らない。それに、ここだと魔法が使える」
ラークは、サッと魔力を放った。付近を、結界かバリアで覆ったようだ。
「でも、戻らないと……王命ミッション中ですし」
「気にしなくていい。俺達が、転移魔法に干渉を受けたことは、冒険者ギルドもわかっているはずだからな。それに、これもミッションだよ」
「これもミッション?」
カシスは、ラークの言葉の意味がわからず、首を傾げた。
「あぁ、カシスが動かなければ、新規転生者狩りの首謀者が、わかるかもしれない」




