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41、じれじれ

「なぁ、カシスには婚約者はいるのか?」


 突然、ラークはあまりにも唐突な質問をした。聞かれたカシスよりも、そんなことを口にしたラーク自身が驚いていた。


「いませんよ?」


 カシスの不思議そうな表情に反して、ラークは自分がホッとしていることに気づき、深いため息を吐いた。ラークは、自分がカシスにどう思われているかが気になっている。しかし、その自分の変化を認めたくない様子。


 ラークは、カシスの素性を知っているが、自分の素性は明かせない。だが、ただのAランク冒険者であるラークが、カシスの目にはどう映っているか、知りたい欲求が抑えられないでいた。



 一方で、黙ってしまったラークを、カシスは不思議に思っていた。だが彼には、もう3年しか時間がないことに気づくと、カシスはその理由がわかった気がした。


(結婚を迷っているのね)


 ブルーボックスのメンバーは、全員が、二つ前までの記憶があり、身体に異変がある。つまり、魂のループが終了する。この終焉で3年後には消えることを知っているから、ラークが迷っているのだと、カシスは考えた。



「カシスには、恋人はいるのか?」


「いないです」


「じゃあ、親しい異性の友達は……あ、いや、何でもない」


 ラークは、自分がカシスを尋問しているような気になって、口を閉じた。カシスは今、男装している。だから今なら聞きやすいと考えた自分に、ため息を吐く。


「初等学校で親しくなった友達はいますが、恋人という関係ではありませんよ」


「そ、そうか」


「あの、ラークさんは、迷っているんですか? 私ではチカラになれないかもしれませんが、話くらいなら聞けますよ」


「迷っている、わけではないが……ん? 何の話だ?」


 ラークは、自分を真っ直ぐに見つめるカシスが、何を考えているのか知りたかった。この話題を出したときから、カシスの表情が少し寂しげに見えたことも、気になっている。


「セイラさんと結婚するかを迷って……」


「は? なぜ、俺がセイラと結婚するんだ? アイツらが変なことを言ったのか」


「えっと、ラークさんが恋人だと言っていたときもあったって……あれ? あっ、もしかして終わった恋?」


「いやいや、ちょっと待て、カシス。俺が恋人だと言ったって、誰が……セイラか。ったく……」


 ラークは、頭を抱えてしまった。冷静なはずの自分の感情が、なぜこんなに大きく揺さぶられるのか、その答えは明らかだった。



「あの、変なことを言ってしまって申し訳ないです。私の発言が軽率でした」


 カシスは、失言を挽回しようと焦っていた。それに気づいたラークは、少し落ち着いた様子。長くこの世界にいるラークは、他人の感情の変化に敏感だった。


「いや、カシスが悪いんじゃない。おそらく、セイラが仕掛けたんだ。セイラは俺の……」


 ラークは、セイラとの関係を明かそうとしたが、カシスの目を見て、打ち明けることが怖くなった。


「えっ? すみません、最後の方が聞こえなくて」


「どう説明すればいいか難しくて、言葉を止めたからな。セイラが言ったことは、前世の俺の言葉だよ」


「前世も、セイラさんと知り合いだったんですね」


「あぁ、知り合いというか、まぁ、そんな感じだよ。セイラは、たまに、何かを意図した話し方をする。セイラもそうだが、誰もが前世の影響が残っているからね」


(前世で恋人だったのかな)


 カシスは、ラークの話し方から、今は恋愛対象ではないようだと感じ、ホッとしていた。それと同時に、彼がなぜ婚約者や恋人の話を始めたのか、疑問に思っていた。




 ラークは、突然ガバッと布を被ると、魔法を発動して、お湯を用意した。そして布を外し、紅茶を淹れ始める。


「少しぬるいかもしれないが、どうぞ」


「わっ、ありがとうございます!」


 子供のように布を被って、お湯が出来ると澄まし顔をするラークの表情に、カシスは、親しみを感じていた。いつもとは違って、すぐ近くにいる彼との心の距離も近いと感じる。



 カシスが紅茶を飲むと、ラークはニヤッと笑って口を開く。


「カシス、今、飲んだな?」


「へ? あ、はい?」


「俺のことをどう思っているか、話したくなっただろ?」


 ラークがそう言うと、カシスは口を押さえている。


「何か、変な薬を入れました?」


「あぁ、俺に惚れる薬を入れた」


「男同士ですよね?」


 カシスの反応が、ラークの想定とは違ったらしい。ラークは、予定していた言葉を飲み込む。そして、どう切り返そうかと考えたラークだが、カシスの澄んだ目を見て、首を横に振った。妙な駆け引きはしない方がいいと、考えを改めた様子。



「カシス、俺は、さっき、すぐに眠っただろ?」


 突然、話が飛んだと感じたカシス。だが、何かの意図があると感じ、その問いに答える。


「はい、すぐに寝息が聞こえましたね」


「俺は、普段はあまり眠れないんだよ。だが、この場所は、命を狙われることのない閉鎖空間だと気づいたら、驚くほど深く眠ることができた」


「薄暗いし、静かですもんね」


「ふっ、あぁ。それに、カシスが近くにいたからかもしれないな」


(えっ? 私?)


 カシスは、ラークが何を言いたいのか、わからなくなっていた。彼女は、自分に向けられる好意には、あまりにも鈍感だ。


 ラークは、今の言葉でカシスに通じると考えていた様子。だが、カシスがキョトンとしていることに気づくと、ポリポリと頭を掻いた。



「俺、カシスが女の子だということを、知ってるんだよ?」


「えっ!? えーっと……それはその……」


(どうしよう……)


 カシスは、男装を隠していたことを、謝るべきなのかと、頭が真っ白になっていた。


「あー、もう! カシスは鈍感だな。いや、俺がカッコ悪い!」


 ラークはそう言うと、カシスをキュッと抱き寄せた。



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