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40、二人っきりの洞穴

「ど、どうして知って……えっ?」


 カシスは焦って返事をしたが、ラークは横向きのまま、スースーと寝息を立てていた。


(ま、また寝た?)


 さっき見せた色気のある表情は、寝ぼけていたのかと、カシスは、息を吐いた。カシスが女の子だと知っていると言っていたことも、彼の夢かもしれない。


(顔が熱いわ)


 スースーと寝息を立てるラークの顔を、カシスはチラチラと見てしまう。自分よりかなり年上だと思っていたカシスだが、彼の年齢を聞いたためか、ラークの寝顔をかわいいと感じていた。


(確かに、17歳くらいかも)


 ラークの寝息に誘われるように、カシスもいつの間にか、眠りに落ちていた。




 ◇◇◇



 カチャカチャと陶器がぶつかるような音が聞こえて、カシスは目を覚ました。静かな空洞は、音がよく響く。


「悪い、起こしてしまったか」


(あれ?)


 寝ぼけていたカシスは、今どこにいるか、一瞬わからなかった。赤い髪の男が転移魔法に干渉したせいでどこかに飛ばされたことを思い出すと、頭は一気に冴えてきた。


(そうだったわ)


 カシスは、ラークと二人っきりだということを意識しないように努めて、口を開く。



「私は、どれくらい眠っていたのでしょうか」


「俺も正解な時間はわからないが、腹が減るくらいの時間は眠っていたと思うよ。飯にしようぜ」


 地面には、白い敷き物が広げられていて、その上には、まるでピクニックに来たかのような料理が並んでいる。


「すごい料理ですね」


「あぁ、セイラに渡された軽食は、枕にして潰れたからね。俺の非常食を並べてみた。好きに食べてくれ。ただ、飲み物が出せないんだよな」


 ラークは、コップに水を入れようとしても魔力がかき消されることを、カシスに見せた。コップには、わずかに水が入っている。



「ラークさん、壁の青く光る石が見えますか? あの光る石が魔力の元となるマナを分解すると、ゲームの中でナレーター……語り人が言っていました」


「石壁か? 俺の目には、どこの洞窟にもある、緑色に光るヒカリゴケが生えているようにしか見えない。カシスには、青く光る石が見えるのか」


(あっ、魔力の有無の差?)


「私の目には、青く光る石が、壁にたくさん埋まっているように見えます」


「ということは、それを遮断すれば……おっ?」


 ラークは、頭から布を被った。そして、布を外したときには、彼は得意げな顔をしていた。


(か、かわいいわ)


「カシス、魔法が発動するぜ! そうか、光を遮断すれば良いんだな。こういう交戦時に魔法が使えない場所は、いくつもあるんだよ。壁を結界で覆えば……いや、その前に結界が消えるか」


 また頭から布を被って、何かの実験を始めたラーク。その様子に、カシスは親しみを感じていた。子供の頃に、カシス自身も、布を被って遊んでいたことを思い出した様子。



「あっ、悪い。先に飯だな」


 しばらく試した後、ラークは、カシスを待たせていることに気づいた。そして、彼女の前に、魔法で出した水を入れたコップを置く。


「いえ、いただきますね」


 白い敷き物に並べられた料理は、野外で食べやすいように、手づかみで食べる物が並んでいた。


「薄暗い場所で食べると、味が違うような気がするね」


「そう、ですか? どう違うのでしょうか」


「上手く説明できないが、隠れて食べているような背徳感を感じないか?」


「ふふっ、私も子供の頃に、布を被って、暗い中でこっそりと、お菓子を食べた経験がありますよ」


「あはは! それだよ、それ! まさに、そういう感じだな。今は別にコソコソしているわけじゃないが、何となくワクワクするよ」


 そう言って、ケラケラと笑うラーク。


 カシスは、今、未知の場所に転移で飛ばされたことを、忘れそうになっていた。この空洞の中に、二人っきりだという状況に、胸が高鳴っている。



「あっ、水じゃない……」


 渡されていた飲み物に口を付け、カシスは驚いた。甘酸っぱい香りのする果実水だ。


「あぁ、さっき潰していたベリーを入れてある。魔法で出した水は、その場所のマナの臭いが入ってしまうから、美味しくないんだ。あっ、潰す前のベリーもあるよ」


「へぇ、そのためにベリーを潰していたんですね」


「あはは、いや、あれは何となくだな。魔法でカットするよりスプーンで潰す方が、香りがいいからね。潰したベリーを持ち歩いてないときは、魔法でカットするけどな」


「爽やかで美味しく感じます。ラークさんは、ベリーが好きなんですか? そういえば、以前、ベリーのカクテルが美味しい店を見つけたって言ってましたね」


「まぁね。冒険者ギルドの近くにある店だよ。ブロンズカードお断りだったかな。カシスが、シルバーカードにアップしたら、一緒に行くか?」


「はい! ぜひ! あっ、私がご飯をおごる約束をしていたので、その店でいかがでしょう?」


「ふっ、カシスは真面目だな」


 そう言うと、ラークはカシスの頭をポンポンとたたいた。カシスはドキドキしていて、ラークの表情の変化には気づいてない様子。ラークは、カシスに触れることに緊張した自分に、少し戸惑いを感じていた。




 ◇◆◇◆◇



 白い鳥がいる湖底の洞穴への入り口には、多くの魔導士が集まっていた。現役の語り人だけでなく、前世が語り人だった者もいる。


「あの男は、新規転生者だったんだろ? なぜ、まだ上がって来ない?」


 赤い髪の男は、頭をポリポリと掻き、首を傾げた。


「さぁ? 魔物にやられたのかもしれませんね。湖底の洞穴は、魔法無効ですからね」


「は? 新規転生者には魔力はない。剣で戦うはずだ」


「ブロンズカードらしいから、負けたんじゃないですか? もう、俺は帰りますよ。あとは、よろしく」


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