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39、鏡と5色の宝石

「ラークさん、すぐに脱出しないんですか?」


 大きな平たい石の上に座ったラークは、カシスにも横に座るように促した。


「おそらく、出口で待ち伏せされているぜ。ストーリーを変えようとすると、語り人が必ず干渉してくる」


「ストーリーですか。強制力があるんですよね」


「あぁ、アレが発見されたから、奴らも焦ってるんだよ。あと一つだからな」


 空洞の薄暗さに、カシスは目が慣れてきた。壁には、青く光る石がポツポツと見える。カシスは、その光る石が魔力の元となるマナを分解すると、ナレーターが語っていたことを思い出した。だから、ここでは魔法を発動しても、すぐにかき消される。



「アレって、何なんですか?」


「カシスは知らなかったのか。鏡だよ。3つの書を知る新規転生者なら、当然知っていると思っていた。俺達は、終焉の先に行きたいんだよ。そのゲームに出てくると聞いたんだけどな」


「鏡? あっ! 終焉で魔女が割る、豪華なまるい物?」


「鏡をはめ込む土台という方が適切かな。鏡の裏側には、5つの穴があるんだ。それをすべて埋めることで、終焉の先へ進めることがわかった。赤、青、白の石は、『転換の書』の時代に発見できた。そして、今日、黒の石を得た。あとは、紫だけだ」


(それって……)


 カシスは、バッドエンドの音楽と、魔女の高笑いとパリンとガラスが割れる音を思い出していた。エンディングのアニメーションでは、そのストーリーの魔女が鏡を叩き割っていたことも頭に浮かぶ。


 そして、いくつかの風景が、血に染まったり、炎に包まれたり、大きくバツ印をつけられたりした。バツをつけるのは、道化師ボックスだ。


(行ってない場所にバツだったよね)


 道化師ボックスが敵に回るから、どのストーリーでも行けない場所があった。バッドエンド回避ルートは、すべての場所に行けるということかと、カシスはひらめいた。


 王女がカシスに教えた課金者が知る3箇条には、鏡の話は出てこなかった。あれを守れば、道化師ボックスは敵にならない。終焉で命を落とすと、ループ世界に囚われずに、他の世界へ転生できるというものだ。


(すべての石か……あっ!)


 カシスは、大事なことを思い出した。『創世のループ』のオープニングには、三部作すべてに、遺跡のような場所が登場していた。そして、『創世の書』では、豪華なまるい鏡から、5色の宝石が飛び出していくシーンがあった。その色は、上から時計回りに、紫、赤、白、青、黒。


(繋がった!)



「カシス、どうしたんだ? コロコロと表情を変えて」


「あっ、いえ。思い出したんです。『創世の書』では、5色の宝石が飛び出していったなって。一番上が紫で、その右下が赤、その下に白、その左側が青、その上が黒。あっ、すみません」


 カシスは、ラークにジッと見られている気がして、慌てて口を閉じた。実際にラークは、カシスを凝視していた。


「並び順にも、意味があったのだな。それで、5色を揃えたのに失敗したという記録が残っているのか」


「ゲームのオープニングで描かれていました。私は、鏡だとは気づいてなかったんですけどね」


「ふっ、新規転生者を潰したがるわけだな。その鏡は、ときの神の持ち物らしい。この異常な世界は、鏡が秘める魔力を失ったことで起こる現象だと聞いた」


「時の流れがバグってるんですか。でもそれなら、なぜ、妨害しようとする者がいるのでしょうか」


「さぁな。神々のことは、理解できない。とある神が、嫉妬をしていると言う噂もあるけどな」


(あっ! 道化師ボックスだ!)


 カシスは、王女の部屋で、道化師ボックスが神だと聞いたことを思い出した。この世界をつくった創造神だと、スグリット王子が話していた。だから、道化師ボックスが敵に回ると、このループ世界に閉じ込められるのだと、カシスは感じた。




「カシス、とりあえず少し仮眠しないか? 出口で待ち伏せしている者が減るまでな」


「はい。えっ? ここで、ですか?」


「あぁ、爆睡してくれても構わない。俺は、危機感知能力があるからな。リュックが枕になるだろ? この石の上なら乾いているから、これで仮眠しようぜ」


(えっ? ちょっと……)


 ラークは、大きな平たい石の上に、どこからか出したマットレスのような敷物を敷いた。そして、布袋を枕にして、ゴロンと寝転んでいる。


「私も、ですか?」


「寝ておかないと、いざというときに体力が持たないぜ」


(た、確かに……)


 男装しているカシスは、ここで変なことも言えない。


「じ、じゃあ、お隣、失礼します」


 リュックをそのまま枕にして、カシスは、ラークの隣に寝転んだ。だが、当然、眠れる気はしない。



 スースー


 すぐに、ラークの寝息が聞こえてきた。


(もう寝たの?)


 意識していた自分がバカみたいだと思いつつ、カシスは、手を伸ばせば触れそうなほど近くで、ラークが眠っていることにドキドキしていた。



「カシス、寝ろよ」


(ひゃっ!)


「なんだか落ち着かなくて」


 ラークは、カシスに声をかけた。カシスが、ゴソゴソと寝返りをする音で目覚めたらしい。


「ふっ、男同士だろ?」


「えっ? あ、はい」


(ええっ!?)


 ラークは、カシスの方に身体を向けた。上を向いて寝転がるカシスの視界の端に、ラークの顔が入ってきた。


「俺は、カシスのことは、信頼できると思ってる。剣のセンスもいいし、これからも親しくしたいと思っているんだよ」


 今までとは違う、穏やかな声だ。


「えっ、あ、ありがとうございます」


「ふっ、何だよ、それ。こっち見ろよ」


「は、はい……」


 カシスは、顔だけ横を向く。そして、ラークの表情がいつもと違うことに気付き、頬が熱くなるのを感じた。


「俺、知ってるよ? カシスが女の子だってこと」


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