38、赤い髪の男の狙いは
カシスが箱団の隠語の話を聞いている間に、魔導士ケインは、届けられた手紙に目を通していた。
「北の山の第二迷宮の深部で、レッドボックスのメンバーが、アレを発見したようです。そのときにアレを守る魔物を討伐するために強い剣技を使ったらしく、今回のスタンピードが発生した模様です」
ケインは、手紙の内容を要約して、皆に伝えた。
「やはり、レッドボックスか。スタンピードを起こすようなやり方をするとは、あまりにも雑だな」
ラークが、吐き捨てるようにそう言うと、ケインも大きく頷いている。
「レッドボックスは、国によって、かなりの力量差がありますからね。今回は、レザーニア王国出身の者達ですよ。そういえば、終焉の魔物がレザーニア王国に現れたと、語り人が噂を流しているようですね」
(あっ、聞いた話だわ)
王宮の雑用係のラークが前世が語り人だったという話を、王女の部屋でしていたことを、カシスは思い出した。
あのときは、それは事実ではないと結論づけていた。カシスがレザーニア王国という地名を知らないことから、本来のストーリーではないと王女が判断したためだ。
「今の時期の語り人は、混乱を招く陽動をするわ。そのせいで終焉に向かうのよ。でもそれはストーリーだから、語り人の責任ではないんだけどね」
(強制力だっけ)
「そうだな。『創世の書』を知る新規転生者に、いちいち確認するのも大変だったが……」
ラークは、そこで、ハッとしたように言葉を止めた。自分が、カシスを利用しようとしていると、カシスに思われたくないと考えた様子。
だがカシスは、自分が3つの書を知る新規転生者だから、ラークが親切にしてくれるのだと思っていた。
「アレは、あと一つか。レッドボックスのことだから、後始末をしないで立ち去ったか?」
ラークは、ケインにそう尋ねたが、返答を期待している様子はない。スッと立ち上がると、潰していた数種のベリーをどこかに収納した。
「基本的に、レッドボックスは剣であり、ブルーボックスは盾ですからね。いつものことです。今回見つけたアレは、黒だそうです。残りは紫ですね」
(全然わからないな)
「ラークもケインも、話していていいの? 軽食も届いたわよ。カシスさんは、これをリュックに入れておいてくれるかしら」
セイラが二人の話を止め、カシスにフルーツサンドを、いくつか渡した。
「えーっと、私は……」
「今から後片付けのために、山に入るわ。冒険者は、自分の食料は自分で持つものよ。今回は、数百人の冒険者が動いている。食べるときには背後に気をつけるのよ?」
「はい、ありがとうございます」
セイラは、他の三人にも適当に配ると、残りはアイテムボックスに入れたようだ。
ドンドン!
個室の扉が乱暴に叩かれた。少し待つと、今度は普通にノックされ、扉が開いた。個室は、店員でなければ開けられない仕様になっている様子。
「セイラさん! 助けてください!」
(赤い髪だわ)
服装は普通の軽装だが、カシスは、飛び込んできた男が、レッドボックスのメンバーだと思った。
「何があったの?」
「北の山の第二迷宮が崩れました。転移能力のないメンバーが、10人以上も中に閉じ込められたんです!」
「雑なことをするからですよ。なぜ、魔導士と連携しないのですか!」
魔導士のケインが、飛び込んで来た男に苛立ちをぶつけている。
「第二迷宮のどこが崩れたの?」
「わかりません。最下層でアレを発見し、転移魔法を使える魔導士が先に迷宮から脱出したのですが、溢れた魔物を狩ろうとした冒険者の術と交錯したようでして……」
「何をやってるのよ。アナタ、身分証は?」
「身分証なんて、すぐに出てきませんよ。早く助けてください! あっ、新規転生者がいるなら、我々が保護しますから」
(えっ? 私?)
その男に腕をつかまれそうになり、カシスはスッと、かわした。
「第二迷宮だな? セイラ、店の支払いは済んだか?」
「気にしなくていいわ」
「じゃあ、行くか。店内だが、非常事態のため転移魔法を使わせてもらう」
ラークは、店員にそう言うと、カシスを引き寄せた。セイラや魔導士二人も、それぞれ転移魔法を発動させた。
◇◇◇
「あー、やっぱりな」
転移魔法の光が収まると、カシスとラークは、薄暗い空洞の中にいた。だが、セイラと魔導士二人の姿はない。
「ラークさん、ここは……」
「カシスが狙われたな。転移先を書き換えられた。腕をつかんでいて良かったよ。セイラ達は第二迷宮に着いたはずだから、さっきの男の話が事実なら、すぐに救出を始めるだろう」
「私が狙われた?」
「あぁ、さっきの男は、おそらく魔導士であり、語り人だ。新規転生者を殺すのが仕事だろう。赤い髪をしていたが、レッドボックスではない。レッドボックスのフリをしていたんだよ」
「なぜ……」
ラークは、辺りを見回すと、小さな火をつけたが、その火はすぐにかき消えた。どうやら、この空洞では魔法が使えない様子。
「舐められたものだな。ったく……」
(魔法が使えない?)
カシスは、乙女ゲームの知識を、必死に思い出していた。『終焉の書』では、魔法が使えない場所があったことを記憶している。
「ここは、白い鳥がいる湖底の洞穴でしょうか」
「カシスには、わかるのか?」
「記憶は曖昧ですが、前世のゲームの知識で、『終焉の書』では、青の箱団が大きく戦力を減らす地があります。具体的な地名はわからないけど、何かの罠で飛ばされる場所です」
「出口はあるのか?」
「洞穴内には、魔法が効かない魔物がいます。それを倒せば、ゲームでは出口が出現したんですけど」
「そうか。では、少し時間を潰すか」
(えっ? なぜ?)
ラークは、大きな平たい石の上に座った。




