37、セイラが明かすブルーボックスのこと
鍋屋の豪華な個室では、長い昼食が終わった後も、セイラが次々と注文を繰り返すデザートパレード状態になっている。
ラークが戻ってきて5人になってからは、セイラのワガママお嬢様っぷりが加速していた。カシスが今まで抱いていた美しくて色っぽい大人の女性のイメージが、大きく変わっていく。31歳という彼女の年齢からは考えられない、少女のようなワガママが続いている。
(ラークさんがいるからかな)
年下の恋人の前では、子供っぽい振る舞いをしてしまうのだろうと、カシスは考えていた。
「あとは、フルーツサンドと〜」
「セイラ、さすがに止めろ。目の前のデザートを食べてからにしろよな」
「フルーツサンドは、持ち帰り用よ。余ったデザートは、アイテムボックスに入れて、山の中で食べるもん〜」
「あのなー、魔物だらけだと言っただろ?」
ラークに叱られても、セイラは気にしない。
「フルーツサンドだけじゃ嫌みたいだから、いろいろな軽食を持ち帰り用にしてくれる? えーっと、100人分くらいね」
(えっ? 100人分?)
セイラの注文を聞き、店員は驚く様子もなく、そのまま出て行った。
「セイラさん、100人分って……」
「あぁ、非常食も兼ねてね。山に入ると店がないから、餓死しそうになっている人には、フルーツサンドがいいのよ」
「あ、他の人に差し上げるんですね。なるほど」
「そそ、ゼリー系のデザートは水分が多いから、山の中で食べるといいのよ。甘い物が苦手な冒険者でも、非常時にはデザートのありがたみを痛感するみたい」
「へぇ、そうなんですね」
得意げに話すセイラに、ラークはため息を吐きつつも、柔らかな視線を向けている。カシスは、そんな彼の横顔に、少し胸が苦しくなっていた。
(大切に想ってるんだわ)
「外が見えないな」
ラークが突然、当たり前のことを口にした。この個室には窓はない。すると、魔導士のケインが口を開く。
「まだですよ。もうしばらく隠れていましょう」
(何かの暗号?)
カシスが首を傾げたことに気づいたラークは、あぁと小さな声を出した。
「カシスにはわからないな。仲間内で使っている言葉だ。俺は、そろそろ出るかと言ったんだよ。ケインは、まだだと返事をしたけどな」
「そうなんですね。えーっと、隠れているのですか?」
「ん? あー、この個室には結界があるからね」
カシスは、隠れている理由を尋ねたつもりだったが、ラークは、それがわかっていて、はぐらかした様子。
「ラーク! カシスさんの質問はそういう意味じゃないわ。隠れていると言ったことが疑問なのよ。カシスさん、隠れているという言葉は、動かないということよ。一部の冒険者パーティで使う隠語のようなものよ。ラークは、すぐにこういう言葉を使うの。感じ悪いわよね」
セイラが指摘したことで、ラークは、はぁっと深いため息を吐いた。
「いつもの癖だ。悪い。時間調整をしているんだよ」
「違うでしょ。別の新規転生者を連れた冒険者が去るのを待ってるんでしょ。アレを探して第二迷宮に潜ってるなら、まだ出てこないわよ」
(アレって何だろう)
セイラは、カシスへの配慮を怠らない。ラークは、セイラがカシスを気に入ったのだと感じていた。
コンコンコン!
(3回ノックした)
店員のノックの音が、いつもより1回多いことに気づいたカシス。他の4人は、動きを止めた。
「こちらに、ケイン様はいらっしゃいますか?」
扉が開き、入ってきた店員が、そう尋ねた。
「ケイン様はいませんよ」
(居るじゃない?)
カシスは不思議に思ったが、ケイン自身がケイン様はいないと言ったので、黙っている。
「では、こちらを」
店員は、手紙のような物をケインに渡すと、扉を閉めた。これも隠語のようなものだろうか。
「カシスさん、今のやり取りもおかしいわよね。乙女ゲームで、道化師が喋っていた言葉が、これよ。変な受け答えをするから、謎の男を道化師って呼ぶようになったでしょ?」
(あっ、道化師ボックス?)
「そういえば、言葉のやり取りがおかしいから、攻略情報に、道化師の言葉の解釈が載っていました。私は、覚えてないんですけど」
「箱団の隠語みたいなものだからね」
「えっ? ということは……」
カシスは、ケインがブルーボックスのメンバーなのかと思った。いや、それをいうなら店員も同じだ。だが、ボックスに関することは、口に出さない方がいいと感じ、言葉を止めた。
「ふふっ、カシスさんは慎重なのね。アナタの近くにいる人から知恵を授かっているみたいで、安心したわ。そうよ、私達は、ブルーボックスのメンバーなの。さっきの店員もね」
「そうなんですね。えっ? 私達って……」
カシスは、横でベリーを食べているラークの方に、視線を移していた。彼はAランク冒険者だ。ブルーボックスは、Sランク以上の冒険者パーティだという噂を聞いている。
「内緒だよ〜。乙女ゲームでは、箱団は終焉で全滅するでしょ? レッドボックスとブルーボックスは、加入条件の一つが、ループ終了者なのよ」
「じゃあ、ラークさんも……」
「さっきラークが使っていた言葉も、箱団の隠語みたいなものよ。ラークは、自爆したわね。わざと、カシスさんに教えたつもりかもしれないけど」
「そう、なんですか?」
チラッとラークの方に視線を向けると、数種のベリーを器に集めて、一心不乱に潰している……フリをしている。
「ふふっ、恥ずかしくなっちゃったみたいね〜。こういうところは、17歳のガキんちょだわ」
「えっ? ラークさんはまだ17歳なんですか?」
思わず叫んだカシスに、ラークは不満げな表情を向けた。
(なんだか可愛いかも)




