35、ダインとケインと辛味噌団子
「えっ? 私は、その……」
カシスは、セイラにすべてを話すべきか迷っていた。王女ファファリアから、誰も信用してはいけないと言われたことが、頭をよぎる。
「カシスさんの見た目や声は中性的だけど、乙女ゲームをプレイしていた人って、半数以上は女性でしょ? 私と同じ異世界から転生してきた人は、性別は引き継がれているわ。性別を引き継がない転生者には、前世の記憶がないもの」
セイラに真っ直ぐに見つめられ、カシスはどう答えるべきか、わからなくなっていた。男装した執事は珍しくない。ただ、カシスが男装していることを知られると、誰に仕えているかもバレてしまうと、カシスは思った。
「えーっと、私は……」
(どうしよう)
「セイラさん、何を尋問しているんですか」
個室の扉が開き、ダインに似た魔導士が入ってきた。双子のケインだ。
「やだ、尋問じゃないわよ〜。カシスさんの秘密を知りたいなぁと思って」
「それを尋問というのですよ。ったく、ダインはなぜ、セイラさんの暴走を止めないんだ?」
(なんだか真逆だわ)
兄のダインは、他人には無関心で言葉数が少ない。一方で、弟のケインは、表情が豊かで正義感が強い。
「互いの自己紹介をしていただけだ。おまえは、チーズ鍋の方だからな。ラークさんは?」
「彼は、他の人に捕まっていたよ。先に行けと言われたんだ。うわー、赤辛鍋か。匂いで目が痛い」
奥の席に座るダインの方に近寄って行ったケインは、目が痛いと言いながら鼻を押さえている。立っているから、湯気が目にしみるらしい。
ケインは、ちょっと迷ったが、チーズ鍋の前のセイラの隣の席に座った。
(えっ……)
カシスの両隣が空席のため、カシスは、まるで三人に尋問されるような気がして、少し警戒した様子。
「ラークのことは放っておいて、私達は先に食べましょう。私、チーズ鍋のチーズが好きなの〜」
セイラは、チーズフォンデュの串に固形チーズを刺すと、フォンデュ鍋につけて、ニッと笑った。
「チーズにチーズをまとわせるのですか?」
「ええ、美味しいわよ。カシスさんもやってみて。あ、ダインさんが嫌そうにしているのは無視していいから。発酵食が嫌いな人には、耐えがたい組み合わせみたい〜」
(あっ、離れた)
セイラの隣の席のダインは、ズズッと椅子ごと距離を取っている。そして、赤辛鍋から自分の取り皿に、何かを避けながら取っている。
一方、ケインはフォンデュ串に、白くて丸い練り物を刺し、チーズをまとわせると、パクリと食べて笑みを浮かべた。
「この丸い練り物みたいなのって、何ですか?」
「白いのは甘味噌団子、茶色は辛味噌団子よ。辛味噌団子は、赤辛鍋にも入っているわ」
「へぇ、味噌があるんですね」
「他国の調味料だけどね。カシスさんも食べてみて」
「はい、いただきます」
カシスは、ケインが食べた白い練り物を串に刺し、チーズフォンデュ鍋につけて食べてみた。
(初めての味!)
カシスは、洋風みたらし団子だと感じた。練り物の中には、味噌風味の甘い餅が入っている。
「どう? 不思議な顔をしてるわね」
「初めて食べる味です。デザートみたいだと感じました」
「辛味噌の方が美味しいわよ。たぶん、ケインさんは食べないでしょうけど」
「茶色の方も食べてみます」
カシスは、茶色の練り物を串に刺し、チーズをまとわせて口に入れた。
(うわっ! 辛い!)
チーズをまとわせることで、まろやかになるが、白い練り物とは全くの別物だった。水炊きに入れる方がいいと、カシスは感じた。
「どう?」
「辛いですね。でも、これはチーズをまとわせるより、水炊きの方が美味しいかも」
「赤辛鍋にも入ってるよ。私も、これはチーズに合わせるより、鍋に入れる方がいいと思うんだけど、チーズ派の人もいるみたい。じゃあ、こっちに入れちゃうね」
セイラは、重力魔法を使って、チーズ鍋用の皿にあった茶色の練り物を、赤辛鍋の中へと投入した。
(魔法って便利ね)
「ちょっ、セイラさん、やめてください。俺に嫌がらせですか」
茶色の辛味噌の練り物は、辛い物が好きなダインも嫌いな様子。ダインが怒ると、セイラはケラケラと笑っている。
「双子のお二人の共通点ですね。辛味噌団子は嫌いって」
カシスがそう言うと、双子二人が、ハッとした顔をしていた。これまで気づいてなかったらしい。
「カシスさんって、分析力が高いのね。そう言われてみれば、二人とも辛味噌団子は食べないわ。赤辛鍋に入れると美味しいのに〜」
(味噌は発酵食品だもんね)
セイラは、カシスが遠慮していると感じたのか、赤辛鍋から取り皿にたっぷりと取り、カシスに渡した。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ〜。私、鍋を仕切るのが得意なの〜。ラークには、嫌いな物を入れるんだけどね〜」
(あっ、ラークさんと……)
カシスは顔に出ないように気をつけて、取り皿におてんこ盛りになっている赤辛鍋を食べる。見た目ほどは辛くないが、辛味噌団子は、チーズをまとわせるより辛さがパワーアップしていた。
「セイラさんは、ラークさんに意地悪ばかりしますよね」
チーズフォンデュを食べるケインがそう言うと、セイラは、またニッと笑ってる。
「愛情表情よ〜」
「ほどほどにする方がいいですよ。そのうち、本気で叱られますよ?」
(公認の仲なんだ)
「大丈夫よ〜。それに、最近は急に穏やかになった気がするもの」
フォンデュ串に野菜を刺そうとしたカシスは、セイラの視線を感じた。
(何か、疑われてる?)
咄嗟に、カシスの口からは、思っていたことが飛び出してしまう。
「セイラさんは、ラークさんの恋人なんですよね?」
(あっ、しまった!)
セイラの表情が、勝ち誇ったような微笑みに変わった。




